ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

そのとき ぬえは。。そこにいた。。(その3)

2006-03-23 01:03:34 | 能楽
いや、これは正確には「その場にはいなかった ぬえ」のお話です。

前述のソ連公演の直前に行っていたイギリス公演での話。

この頃はバブルの時代でもあり、「冠コンサート」など企業も「メセナ」に力を入れていた時期でした。今じゃ「セーブ・ジ・アース」が合い言葉なので、なかなか能楽の海外公演などに企業の協賛は頂きにくい時代ですけども。

このときはロンドン公演から始まってスコットランドの方まで廻って公演をしたのですが、当時の海外での公演地は首都などの大都市での公演のほかに、協賛してくださる企業の現地工場がある土地での公演、という場合も多かったのです。企業としても「私たちは営利を追求するばかりではなくて、このように文化の育成や紹介にも努力を惜しみません」という経営の姿勢をアピールする事ができる良い機会でしょうし、能楽師にとっても外国の小さな街で公演する事はとても刺激的な事でした。

さて、イギリス公演も中盤に差しかかった頃、スコットランドのヘクサムという小さな街で公演がありました。ここにはスポンサー企業の工場があり、街には小さな劇場があるのでイギリスでの公演地の一つとして選ばれたのです。

ところが。。この街には劇場はあってもホテルがない。。(;_:)
やむなく演者は隣町のダンブレンというところのホテルに宿泊し、そこから劇場へバスで移動して公演する、という計画になりました。

ぬえも渡航前の正直な気持ちは「ひゃ~~なんて田舎町なんだろう」とは思ったのですが、ところが どうしてどうして。投宿したホテルは古城ホテルで、外壁にある正門からホテルの建物までは芝生の中のゆるやかな上り坂を徒歩5分上る広大さで、その広い前庭?ではパターゴルフやアーチェリーなんかできる優雅さ。ぬえの海外公演歴の中でも屈指のゆったりした滞在でした。

それでもここが田舎町なのは確かで、公演が夜であるために、昼間ホテルで遊ぶほかにはする事もなあんにもない。ぶらぶら散歩に出かけてみても、そもそもホテルでもらった周辺の地図を見ても見るべき所はなあんにもない。じゃ駅にでも行ってみようか、と歩き出して駅まで徒歩10分の距離の間にも、やっぱりなあんにもない。(^^;)

で、駅まで行きましたが「駅前商店街」が数軒(!)あって、やや離れて小さな教会があって。。それで終わり。まあ、のどかに小鳥のさえずりでも聞きながら散歩をする、って事が最上の過ごし方なんでしょうね。。

。。で、この街での公演は無事に終えて、このあと戦々恐々とモスクワに移動して、公演旅行は続いてゆき、無事に日本に帰り着きました。

本題はこのあと。

それからしばらくした ある日、ふとテレビのニュースを見ていると、あれ? どこかで見たような光景が。。それは、あの小さな街の、ホテルから駅まで続く道沿いにある小さな小さな教会なのです。イギリス国教会の教会でもあり、内部も質素な印象の教会でしたが、ニュースではその教会にキャンドルをともした人々が一様にうなだれて列をなして向かっている。。何事かと思いました。

ニュースキャスターいわく「精神異常の男がイギリスの小さな街の小学校で銃を乱射して子どもたち10数名と先生が犠牲になりました。。」

。。(@_@;)

1~2分の短いニュースでしたが、ぬえは固まりました。「またか。。」
どうして ぬえたちが通ったあとにはこんな事件ばかりが。。正直そう思います。

最近、日本で外国人に稽古をつけているのですが、ある日発表会を終えてからの宴会の席で、その生徒の中にイギリス人の若者がいたので、この体験を話してみました。日本人ならすでに忘れてしまっているような遠い国の事件だったのですが、彼らはこの話題を出したとたんに黙り込みました。10年以上前の事件なのに、それは彼らには触れてほしくない話題だったのです。

「それは。。私たちのみんなが忘れられない事件です。私たちが心に負っている傷なのです」

。。申し訳ない。m(__)m

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