ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

第14次支援活動<気仙沼>(その11)~横山不動尊さまへ

2013-07-07 13:10:38 | 能楽の心と癒しプロジェクト
夜行バスでしっかり眠ったので翌朝元気に起床しました。さすがに夜行バス明けには何もスケジュール入れていなかったのですが、翌日には再び気仙沼市へ移動だし、今回は装束能なのであれこれと準備をして1日を過ごしました。

【5月27日(月)】
午前中と夕方からの2カ所で稽古日にしていたので外出。午前の稽古は近所の施設が会場なので、それを終えて帰宅して、荷物の最終チェック。今夜は深夜走行で気仙沼に向かうので、昼間は仮眠をとって、車に荷物を積み込み、夕方よりもう1カ所の稽古場へ。これを終えた午後9時に稽古場から気仙沼を目指して出発しました~

今回も一人っきりの深夜走行。。ですが、まあなんとか早朝に仙台に到着しました。

【5月28日(火)】
早朝4:30頃、仙台に到着してネットカフェで時間をつぶし、前夜から仙台に宿泊していた笛のTさんと合流。そのまま気仙沼に向かうのですが、途中、今後の活動のために関係者の方々のもとへお邪魔してご挨拶することに。このあたり、Tさんの交友関係の広さがモノを言ったようで、ぬえにはあまり事情がわかっていなかったりして。

最初にお邪魔したのは、登米市の横山にある「横山不動尊」さまへ。じつは、このお寺。。大徳寺のお嬢さんとそのご家族が、3月の気仙沼市での「星と能楽の夕べ」公演の、あの見事な手腕を発揮してくれたスタッフさんだったのです(さらにもう一人のスタッフさんは、その日が初対面だったけれど、石巻でも同じ場所で活動していた方でした~)。

重文の巨大な不動尊像があるお寺でありますが、到着してまず、そのあまりに見事な彫刻の施された楼門と不動堂の偉容にびっくり。





とくに面白いのがこの不動堂ですね。唐破風がつき、豪華な彫刻で装飾された向拝の上に入母屋の破風、さらにそのうえに宝形造りの。。越屋根、というのかな? がつく、という独特な造りの建物で、どうも神社を思わせる。。じつは山門の前には鳥居もあって、神仏分離の前の時代の空気が残っているようでした。ご本尊の不動さまは震災の影響もあって傷みが進み、ただいま修理のため京都に行っておられるのですって。





やがてご住職の奥さまとお母様と寺務所でお話しをさせて頂くことができました。先ほど見た不動堂は昭和初期の建築だそうで、なるほど、能楽界でも昭和初期といえば、装束や小道具など良い仕事の品がたくさん作られた、その一番最後の時代ですね。芸術活動。。というより職人さんの仕事の、と言っても良いと思いますが、そのひとつのピークがこの時代にありました。それは伝統的な審美眼というものが残されていたし、そういう良い仕事に対しては経済的に支えがあった、その最後の時代なのだと思います。

登米市は登米郡の8つの町と、本吉郡の津山町の合計9つの町が例の平成の大合併で合併して誕生した大きな市で、北は岩手県の一関市に、西は宮城県の栗原市などに、そうして東と南に気仙沼市や南三陸町、石巻市に接しています。震災当時南三陸町は陸の孤島と化しましたが、海岸を通る幹線道路が被災して、登米市を通らなければ志津川や歌津、また気仙沼市の本吉や大谷地区には行けない状況でした。

ぬえも震災の3ヶ月後にはこのあたりを通っておりますが、津波こそ到達していないものの、地震によって倒壊した家が道路の半分まで塞いでいるような状態だったのを思い出します。

横山不動尊さまがある旧本吉郡津山町は、現在の南三陸町の志津川や歌津とは地理的にも関係が深かったようで、南三陸町の仮設住宅が登米市の中にもいくつか建てられているそう。こちらの横山不動尊さまの隣にも仮設住宅がありました。横山不動尊さまも避難者を受け入れたり、ボランティアの拠点になったりして、震災直後から支援活動を続けておられます。夏に行われるという山門からの「そうめん流し」とか、不動さまがこのお寺に戻ってからの来年のお祭りとか、仮設への訪問など、今後当地でも ぬえたちプロジェクトの活動の幅が広がってゆければ、と考えております。

最後に、池の汀に咲き乱れる藤の素晴らしさをご紹介しておきますね~





この頃、ちょうど気仙沼あたりでは藤とツツジの見頃でした。この頃、東京での舞台でも『藤』がよく上演されていましたね。そういえば能の『藤』はその舞台が越中ではあるものの、作者は南部藩三十一代信恩の作と伝える文献があり、上演の資料上の初見は18世紀の伊達藩だったりするのでした。これだけの見事な藤を見れば、藤の花の精を登場させる能を作りたくなる気持ちもわかるような気がします。


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