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調査員の「目」

 日常の何気ない雑感とつれづれ日記。

『レクイエム~「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち~(NHK出版)」』

2007-02-16 | 書評系
 先月読んだ本。
■『レクイエム~「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち~(伯野卓彦著/NHK出版)』1,785円(税込)
著者:伯野卓彦(はくの たくひこ)氏
 1989年、NHK入局。「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」の制作を経て、2000年より「プロジェクトX 挑戦者たち」の制作を担当。2005年、NHKスペシャル「シリーズ 日本の群像 再起への20年」(「銀行マンの苦闘」「トップを奪い返せ」)を制作。2006年12月より「クローズアップ現代」チーフプロデューサー。

目次
  プロローグ
Ⅰ 1986‐2006 金融20年の勝者と敗者
Ⅱ 破綻への序曲
Ⅲ 壮絶なる闘い不良債権処理プロジェクト
Ⅳ 海を渡った不良債権
Ⅴ 誤算 泥沼の不動産不況
Ⅵ 日本の選択 アメリカの圧力
Ⅶ はしごを外される邦銀
Ⅷ 外資からのレッドカード
Ⅸ アメリカに屈した日本金融行政 
  エピローグ(以上 264ページ)

「日本が選択した道は正しいのだろうか~今、日本経済では、日本型金融哲学が、欧米型金融哲学に葬り去られようとしている。好況と言われる日本経済に歪みが生じている今、これからの日本経済はどうあるべきか。そのヒントを求めて、「長銀」破綻の真相を読み解く。」と本書の紫色の帯に書かれている通り、96年当時の橋本内閣が進めた「日本版金融ビックバン」により進められてきた「市場原理」優先の金融制度の選択が果たして正しかったのか、そして、国民が真に理解した上で行われたものだったのかを長銀破綻を経験したエリート長銀マンへの長時間に亘るインタビュー・行内内部資料・取材により問いかけた書である。
 2005年にNHKスペシャルで放送されたことから本書を読まずとも内容を記憶している方が多いと思うが(会社の先輩は知っていた)、私は残念ながら数分しか見ていなかったので改めて買って読んでみた。
 詳しくは本文に譲るが、不良債権処理プロジェクトチームの苦闘は読んでいて気の毒になるくらいの壮絶な闘い・修羅場と形容できるもので、事実上のリーダー弥田一人氏は帰らぬ人になってしまっている・・・(本書では戦死-折れた支柱 との見出しが立てられている)。しかも91年から不良債権処理対策チーム(1年後に事業推進部に改組)に関わり、最後の頭取になった鈴木恒男氏はそごう支援に係る「元会長の個人保証」が問題とされ民事裁判にかけられている。
 鈴木元頭取は本書のインタビューの中で「私は今でも、日本型金融理念、金融哲学のほうが優れている面が大きい、あるいは少なくとも日本の社会には合っていると思っていますし、充分、存続するに値する制度だったと思います。その考えは変わっていません。」と答えている。
 社会全体の秩序維持を優先する日本型金融哲学が市場原理・株主優先を優先するアメリカ型金融哲学に屈した感が浮き彫りにされているが、これはバブル崩壊という強烈かつ不景気のインパクトが長期間社会を覆ったことが要因として大きく、単純に日本の金融制度・哲学が全て駄目だったということではない。現在、ゴールドマン・サックス本社シニアアドバイザーを務めているロバート・カプラン氏は本書の中で「アメリカのシステムが、日本よりも優れていたというわけでは決してありません。しかし、変化に適応するのは楽だったかもしれません。(中略)強調したいのは日本型とアメリカ型、どちらが正しくて、どちらが間違っているというわけではないということです。単なるシステムの違いなのです。」と述べている。極めてクールかつ公平な分析だと思う(マスコミに聞かせてやりたい)。ダーウィンではないが、まさしく「適者生存(survival of the fittest)」だったということだろうか。
 とにかく良書だと思うので、興味のある方は是非手に取って読んでみて欲しい。

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