さて、新聞の広告に踊らされて買った本の勝手な書評。
■「日本のお金持ち研究(日本経済新聞社)」1,890円
著者:橘木 俊詔氏
1943年生まれ。小樽商科大学卒業、大阪大学大学院、ジョンズ・ホプキンス大学大学院修了(Ph.D.取得)。その後、仏、米、英、独にて研究職・教育職を歴任。京都大学経済研究所教授、経済企画庁客員主任研究官、日本銀行客員研究員などを経て、京都大学大学院経済学研究科教授、日本経済学会会長 (2005年度)。主著、『個人貯蓄とライフサイクル』(共著、日本経済新聞社、1994年、日経経済図書文化賞受賞)、『日本の経済格差』(岩波新書、 1998年、エコノミスト賞受賞)、『家計からみる日本経済』(岩波新書、2004年、石橋湛山賞受賞)ほか
森 剛志氏
1970年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業、京都大学大学院博士課程修了(博士号取得)。帝塚山大学経済学部非常勤講師、日本学術振興会会員を経て、2005年4月より甲南大学経済学部専任講師。
(35歳か~、若いな~。)
目次
序章 「お金持ち」とはどんな人々か
第1章 医療の需要と供給からみた医師
第2章 弁護士という職業
第3章 経営者はお金持ちか
第4章 日本の上流階級
第5章 お金持ちの資産形成
第6章 お金持ちの日常生活
第7章 高額所得者への課税
第8章 結論
~参考文献~(以上227ページ)
一言で言って
「学術研究書」。
*お勧め度 ★☆☆☆☆
「年収300万円の時代」「一億総中流社会の崩壊」「不平等社会」等々、所得格差が広がりつつあるとされる昨今だが、著者の橘木氏は以前から「日本の経済格差(岩波新書1998年)」や文芸誌への寄稿等で所得格差に関する研究では著名な方である。
本書は、2000年度、01年度の『全国高額納税者名簿』に掲載されている年間納税額3,000万円以上(年収1億円以上)ある人(約6,000人)にアンケート用紙を送付し(03年8月15日)、有効回答数465通の集計結果を様々な角度から分析し、かつ協力者には面談も実施した上で「お金持ち」の実像に迫った著作であるとされる。
その結果、「お金持ち」の二大メジャー職業は
「企業経営者」と「医師」で、3人に1人が東京に住んでおり、中でも港区赤坂、港区南麻布、世田谷区成城、大田区田園調布といった、いわゆる高級住宅街に住んでいる事が明かになったそうである。また、新聞の広告に掲載されていた通り、このアンケートに回答した方の所有者のメーカー別ベスト5は以下の通りだという。
1位 トヨタ
2位 メルセデスベンツ
3位 日産
4位 BMW
5位 ジャガー
そして、医者、弁護士、経営者の実像に迫るべく、ぞれぞれ独立した章を設け、上流階級の定義、お金持ちの資産形成、日常生活に触れて、高額所得者の実像に迫った上で、第7章で高額所得者への税制について論じている。すなわち、リバータリアニズム(自由至上主義)とリベラリズム(自由主義・進歩主義)に触れつつ、あるべき所得税の累進度について検討を加え、効率性と公平性の観点からは70年代~80年代の所得税の累進度
(最高税率70%、最低税率10%、15段階)が適当と1つの解を提示している。
子を持つ親としての実感としては、親の所得格差がそのまま子供の学歴や所得に影響していくような気がしてならない。というのも、塾や習い事の費用も結構な額になるし、文部科学省のバカな
「ゆとり教育」のせいで公教育は破壊されているので、富裕層の子供たちは小学校から、遅くとも中学校から私立に通わせようと必死である。私の住んでいる付近でも幼稚園から私立に通わせている家がある・・・(笑)。
また、親の年収が最も高い大学は東大というのは有名な話で、既に階層の固定化は進行しつつあるといっても過言ではないだろう。お金持ちはさらにお金持ちになってもらって結構で、景気を良くするために沢山消費性向を高めて欲しい。一方で、「機会の均等」は極力確保されるような世の中でないと貧富の格差が拡大してしまい、社会不安が増大するリスクがあるので、最適な税制を今一度検討する必要があるだろう。
読んでいて若干気になったが、対象データが古くて、かつ少なすぎないだろうか?今、2005年5月だが、対象年度が2000年度と01年度の高額納税者で、有効回答が465人にすぎないので、これを持って「日本のお金持ち」の実像に迫ったとは若干、無理がないだろうか。
もちろん、04年度、05年度も大体高額納税者には変わりないだろうが、回答をしていない5,500人の「日本のお金持ち」の実像には迫れておらず、こちらの側に本書でまとめた集計結果と異なる
反証がないとは否定できないため、読んでいて「おやっ?」と疑問に思ってしまった。
最後に日経新聞め、200ページ以上の著作なのに普通の出版社の本なら必ずついている
「紐」がついていないじゃないか。何をケチってるんだ。最悪。
プロ意識が感じられないな~。
参考
政府税制調査会第9回小委員会議事録←中々面白い(石委員長は元一橋大学学長、現、中央大学教授)
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「不平等社会日本~さよなら総中流~」佐藤俊樹著(中公新書/660円+税)2000年6月刊
↑
上記、委員会に出席している。
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「ユダヤと華僑に学ぶお金持ちになる習慣術」和田秀樹著(ビジネス社/1,365円)2004年1月刊
↑
「まえがき」で中流崩壊の危険性を訴えている。