久しぶりに勝手な書評。
■『経済の世界勢力図』(文藝春秋社)¥1,365
著者:榊原英資氏
1941年東京都生まれ。東京大学経済学部卒。同大大学院修士課程修了。大蔵省に入省後、ミシガン大学で経済学博士号取得。97~99年財務官を務め、「ミスター円」の異名をとる。現在、慶応義塾大学教授。
目次
第1章 全体図―ドル安・原油高を読む
第2章 中国―成長と反日と
第3章 インド―今後50年で一番成長する国
第4章 アメリカ―覇権国家のパラダイムシフト
第5章 日本―国債資本主義の破綻
第6章 アジア全域―新しい共通通貨「アシアナ」
第7章 個人―世界勢力図の中の選択
(おわりに~を含めて247ページ)
元大蔵省財務官・「ミスター円」として著名な榊原英資氏の著作。概論としては、長期的にはアメリカの国力が相対的に低下することを認識のベースに置き、逆に東アジアの興隆を視野に入れ、今後は親米路線よりもむしろ、親中路線をとることが「日本の国益」としている。
東アジアについては、5億人の「中産階級」の誕生をポイントに捉え、中国・インド個別の経済成長の可能性や榊原氏による当該国の分析のほか、我が国に目を転じて、日本の財政破綻リスクと少子高齢(人口減少)に伴う国力低下を「不可避の事実」として提示し、中国・インドほか将来的なアジア経済圏の統合とアジア共通通貨を提唱している。
「経済の”世界勢力図”」という割には、アメリカ、中国、インド、は章立てで論じられているものの(勿論、日本も)、ロシアやヨーロッパ、中東は個別に論じられておらず、編集者が”売れそうなタイトル”を付けたとした思えないが、そこはご愛嬌か・・・。
果たして、時代は榊原氏の予測する通りに動くかどうか。私は、共産党一党独裁の中国は、将来的にはその政治体制と国内統治のあり方が時代や国民のニーズとのミスマッチから分裂すると考えており、むしろ、S・ハンティントン教授の予測するような「米中戦争」のような紛争リスクも考えられ、一概に中国の成長性を支持する気にはなれなかった。ただ、アメリカの国力が低下する認識には私もその通りだと思う.
まあ、しかし、財務省(旧大蔵省)の財務官を務める人物がどのようなパースペクティブをもっているかということを知るには買って損はないと思う。
このほか、氏は色々本を出しているのでそちらも参考になると思う(基本的な論旨は昔の著作にも見られる)。
「新しい国家をつくるために(中央公論新社)」「為替がわかれば世界がわかる(文藝春秋)」
「進歩から共生へ(中公文庫)」「国際金融の現場(PHP新書)」「インドIT革命の驚異(文春新書)」←これはあまり面白くない