調査員の「目」

 日常の何気ない雑感とつれづれ日記。

『アメリカは日本経済の復活を知っている(浜田宏一著/講談社)』

2012-12-24 | 書評系
 『アメリカは日本経済の復活を知っている(浜田宏一著/講談社・\1680)』を読んだ。ちょうど自民党の安部総裁が2%の物価上昇を目標に日銀に政策協定を要請したことや拒否した場合には日銀法の改正も視野に入れる、などと報道されている折、ぴったりの良書ではないだろうか?「~まえがき~」に書いてあるが、本書最終校正中に安部氏から国際電話がかかってきて日銀の政策に関する質問を受けたそうだ。まさに一国の総理になろうとする人物から質問を受けるようなレベルの高名な経済学者によるタイムリーな本。
 
 イェール大学名誉教授で世界レベルの経済学者と研究・研鑽を積んでこられた浜田宏一氏が「経済学の200年の常識」の観点(デフレに効くのは金融緩和であるという大学1年生の教科書にも載っている基本原理)から金融緩和による円高・デフレの是正を説き、また一方でアメリカ在住(だけでなく内閣府経済社会総合研究所所長なども歴任)の著者から見える日本のおかしな点にも言及した「社会学」にもなっていて、特に「日銀」と「官報複合体」たるマスゴミに手厳しい。またデフレ下における消費税増税にも5%に増税しながら税収が減収した(財務省はアジア通貨危機のせいにしているが)橋本龍太郎内閣時と同様の運命になると予測しており、増税の前に必要な政策を訴える。

P.271
 序章 教え子、日銀総裁への公開書簡
第一章 経済学200年の常識を無視する国
第二章 日銀と財務省のための経済政策
第三章 天才経済学者たちが語る日本経済
第四章 それでも経済学が日本を救う
第五章 2012年2月14日の衝撃
第六章 増税前に絶対必要な政策
第七章 「官報複合体」の罠
 終章 日本はいますぐ復活する

 なかでも特に興味深い見出しは
 ・閣僚たちは「ヤブ医者」の群れだった
 ・首相の狂気「増税すれば経済成長する」←管直人
 ・「経済書は岩波新書を1冊読んだだけ」←与謝野馨
 ・税収が5兆円も減った橋龍内閣の教訓
 ・消費税2倍で社会的損失は4倍に
 ・いま増税すると財政再建は絶対不可能に
 ・政府が破産しても国民は絶対に破産しない
 ・日銀総裁を「起立・礼」で迎える日銀記者
 ・消費税で癒着する財務省と新聞社
 ・「デフレの問題は社内でも微妙なのでオフレコに」

 管直人氏はそうでもないが、与謝野馨氏、仙石由人氏、藤井裕久氏などマスゴミが東大法学部卒というだけで何か「政策通」かのようにもてはやしていた御仁たちにも「岩波新書を1冊読んだだけ」「無知もしくは誤解」「ヤブ医者だった」と彼らの人柄ではなく政策=結果(罪)に大変手厳しい。

 「和をもって貴し」とする日本で、いろいろなしがらみを抱える(日銀や財務省に飼われてしまった)高名な大学教授などがなかなか言えないようなことが直言でズバっと指摘されており、まさにデフレで苦しむ日本を何とかしたいと願う政治家・官僚・経営者層・ビジネスマンに必読の書と言えるだろう。

さらば財務省!(高橋洋一著/講談社)

2008-03-20 | 書評系
 昨日会社帰りに本屋に立ち寄って、目に留まった本。

 ■さらば財務省!(高橋洋一著/講談社)税込1785円
著者:高橋洋一氏。1955年東京生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒。博士(政策研究)。 1980年、大蔵省(現、財務省)入省。理財局資金企画課長、プリンストン大学客員研究員、国土交通省国土計画局特別調整課長、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)などを歴任したあと、2006年から内閣参事官。早稲田大学政経学部非常勤講師を兼務。2007年に財務省などが隠す国民の富「埋蔵金」を暴露し、一躍、脚光を浴びる。著書には「財投改革の経済学(東洋経済新報社)」がある。
~目次~
まえがき
序 章 安倍総理辞任の真相
第1章 財務省が隠した爆弾
第2章 秘密のアジト
第3章 郵政民営化の全内幕
第4章 小泉政権の舞台裏
第5章 埋蔵金の全貌
第6章 政治家 vs.官僚
第7章 消えた年金の真実
終章 改革をやめた日本はどうなる
(以上、282ページ)

 意図せずして与謝野前官房長官のみならず自らの出身官庁である財務省をも敵にまわしてしまった内閣府参事官・高橋洋一氏の著書。以前、同様のタイトルで「さらば外務省!(天木直人著/講談社)」という本が出たが、高橋氏の本は単なる暴露本や恨み・つらみが見え隠れするものではなく、氏の「理系官僚としての活動記録」とでも言った方が良いような内容になっている。

 「中学生のときに、大学レベルの数学が理解できた」という氏は東大理学部数学科・経済学部経済学科を卒業、学者・研究者を志望していたにもかかわらず、ひょんなことから「何となくなりゆきで(!)、大蔵省に入ることに決めた」と淡々と振り返る。そんな数学的、論理的な問題解明能力に秀でた理系アタマの氏は「問題さえ解ければ、役所はどう思うか、どのような影響を与えるか、などということにはまるで頭が回らなかった。その点はうかつだったと思う。」とも述べ、一時は大蔵省”中興の祖”とまで持ち上げられながらも、今になっては財務省をはじめとした官僚・一部政治家から疎まれ、最終的に退官せざるを得なくなった遠因を自らの理系的なシンプル性格にあることを認めるかのような真摯な文章は本書を読むに値すると感じられた。

 本書を読み進めていくと、氏が携わった小泉改革や安倍政権での公務員制度改革での舞台裏が語られているが、読んでいて嫌悪感を感じざるを得ないのが財務官僚の権謀術数とともに官僚のリーク情報に踊らされるマスコミ(いやマスゴミだろう)の態度だ(結果的に大本営発表のごとく我々国民も何が事実なのか分からなくなっている)。ほかにも意外なのは「東大法学部卒の官僚は計数には弱い。知識や理論のほとんどは知り合いの学者から仕入れている。」という記述や「日本は財政危機ではないと知る財務省」などと言った見出しもあって非常に興味深く読むことができた。

 旧帝国陸軍や海軍でも陸軍大学校や海軍大学校での成績でその後の出世がほぼ決まっていて、頭は良かったかもしれないが結果的に国を敗戦に至らしめてしまったように、高度成長期はうまくいっていた東大法学部を頂点とする官僚システム(過去の成功体験)もこのままいったらまた国を破滅に至らしめるような気がするのは私だけだろうか。国民の側にも東大法学部を首席、2位で卒業して現役で司法試験に受かって国家公務員一種試験に1位、2位で受かって財務省に入るような人たちに任せておけば大丈夫というような無謬性神話みたいなものが潜在的にあると思うが、本書を読めば残念ながらそれが間違っていることがよく分かる。

 氏が序章の「誰も気づかない霞ヶ関の失策」の中で「(「変動利付国債」に関して)金融機関の含み損は5兆円近くにも上る」と指摘しているが、今後どのような問題に発展していくのかこちらも注意が必要かもしれない。

 いずれにせよ、高橋氏には大学教授の仕事のみならず本の執筆や論文の寄稿などにより、その数学的専門能力の高さを日本のためにさらに活かして頂きたい。


 

嫉妬の世界史(山内昌之著/新潮新書)

2008-03-08 | 書評系
 先月、テレビのチャンネルをころころ変えていたらNHK教育テレビで「嫉妬の劇場」という番組が放送されいた。イスラム地域研究で有名な山内昌之氏がコメンテーターとして、西郷隆盛の器量を認められずに嫉妬した島津久光のくどくどとした嫌みったらしい手紙、医務局長のポストを巡る森鴎外の親友に対する嫉妬じみた文章などを紹介していて非常に面白かった。

 ということで新書の方を買ってみた。

嫉妬の世界史(山内昌之著/新潮新書)税込714円
著者:山内昌之氏 1947年、札幌市生まれ。東京大学大学院総合文化研究科教授。 北海道大学文学部卒業、東京大学学術博士、カイロ大学客員助教授、ハーバード大学客員研究員などを経て現職。専攻は国際関係史とイスラーム地域研究。主著に『帝国と国民』(岩波書店)、『嫉妬の世界史』(新潮新書)、『歴史と外交』(中央公論新社)など。サントリー学芸賞、毎日出版文化賞(二回)、吉野作造賞、司馬遼太郎賞などを受賞。2006年に紫綬褒章。現在、文化審議会、日本アラブ対話フォーラム、日中歴史共同研究委員会、日韓歴史共同委員会などの委員も務める。

序 章 ねたみとそねみが歴史を変える
第一章 臣下を認められない君主
第二章 烈女の一念、男を殺す
第三章 熾烈なライヴァル関係
第四章 主人の恩寵がもたらすもの
第五章 学者世界の憂鬱
第六章 天才の迂闊、秀才の周到
第七章 独裁者の業
第八章 兄弟だからこそ
第九章 相容れない者たち
終 章 嫉妬されなかった男
あとがき

 島津久光と西郷隆盛、戦国時代の島津義久(兄)と武勇に優れた島津義弘(弟)、漢の高祖(劉邦)・呂后と無敵の将軍韓信、天才戦略家石原完爾とカミソリ行政官東条英機、嫉妬されなかった武田信繁(信玄の弟)、保科正之(三代将軍家光の異母弟)など興味深いエピソードが紹介されている。

 自分のなしたことは必ず返ってくる。とすると、人を認めずに嫉妬に狂っていると必ず自分も他人から認められず嫉妬されることになる。
 したがって、人の良い点を認めて・褒めていれば自ずから他人から認められ、褒められるはずだ。なかなか難しいところだが、嫉妬心を感じながら生きていると非常に不幸であることを肝に銘じて人の良い点を積極的に認めていくしかない。歴史上の人物を反面教師としてできるだけ自然体に大らかに生きていきたいものだ。

 
 

朝青龍はなぜ強いのか?~日本人のためのモンゴル学~

2008-02-10 | 書評系
 書名を見て軽い気持ちで買った本。

「朝青龍はなぜ強いのか?~日本人のためのモンゴル学~/宮脇淳子著/WAC」930円(税込)
著者:宮脇淳子氏 1952年和歌山県生まれ、京都大学文学部卒業、大阪大学大学院博士課程修了。現在、東京外国語大学・国士舘大学非常勤講師。著書に『モンゴルの歴史(刀水書房)』『世界史のなかの満州帝国(PHP新書)』『最後の遊牧帝国(講談社選書メチエ)』など。
 まえがき
第1章 モンゴル力士は、なぜ強いのか?
第2章 モンゴル女性秘話
第3章 モンゴル帝国を知っていますか?
第4章 日本にとってモンゴルは大切な国(233ページ)

結論から言うとサブタイトルの「日本人のためのモンゴル学」が主題で、もっと言うとモンゴルを比較対象とした日本人論といった方が適当かもしれない。

 第2章、第3章でモンゴルの歴史を概説しながら、第4章でモンゴルの遊牧文化の特徴と日本の農耕文化の特徴の違いを①人と同じ事をするのではなく、人とは常に違うことをしようと考える②長幼の序ではなく実力主義③長子相続制ではなく、末子相続制④和を以って貴しとなすのではなく、独立心が旺盛で適切な判断力を強く求められる、という指摘、続いて「日本には年下でも自分より力量がある・優れた資質を持っていることを認めたくない文化をもっているのではないか」「みんなが違っているということに不寛容であるのではないか」「横綱の品格を問うマスコミに品格はあるのか」というような論旨を展開している。

 朝青龍や白鵬は確かに強いと思うが、彼らの強さがモンゴルの遊牧文化に根ざした歴史的な習慣や考え方に起因を求めるのも確かに一理あるものの、逆に日本人力士が相対的に弱いだけのような気がしないでもない。というのも、もしモンゴルの遊牧文化やモンゴル相撲の歴史がモンゴル力士の強さの遠因になっているとしたら、他のモンゴル力士も同様に横綱並に全員強くないと説明がつかない。
 
 特に日本人が協調性を大事にし、先輩・後輩の縦社会の序列も尊重するから日本人力士が弱いという訳でもないのではないか。体は小さいながらも逞しい筋肉で大きい力士を投げ飛ばした千代の富士や全盛期の貴乃花なんかも相当強いのではないか。

 しかし、モンゴルを通した日本人論には今さらながら改めて極端な協調主義・見えない同調圧力や嫉妬・妬みの強い日本社会の負の側面を浮き彫りにしており、この国の課題を認識させてくれるのにはタイムリーな本であろう。

 タイトルにしてやられたというべきだろう。


検察を支配する「悪魔」(田原総一郎+田中森一/講談社)

2007-12-15 | 書評系
 「公認会計士VS特捜検察」を読んで、改めて国家権力の恐ろしさを感じたが、タイムリーというべきか、「国家の罠」に触発されたか「罠」好きの田原総一郎氏と田中森一氏の対談本が書店にあったので、興味本位で買ってみた。

 検察を支配する「悪魔」(田原総一郎+田中森一/講談社)税込1,680円
 298ページ(あとがき含む)
序章   国策捜査の舞台裏
第一章  やられる奴、見逃される奴
第二章  疑獄事件の全真相
第三章  絶対有罪が作られる場所
第四章  検察のタブー
第五章  癒着する地検と警察
第六章  検察の走狗となるマスコミ
第七章  検事のカネ、酒、女
第八章  ヤメ検業界の内幕
第九章  「ヤクザの守護神」の真実
第十章  割屋のテクニック
第十一章 捜査線上にあがった懲りない面々
第十二章 元特捜エースが落ちた罠

 現在の検察のやり方に疑問を持つ田原氏の投げかけに元特捜検事のエースと言われた田中氏から見た検察官の生態やカルチャー・内幕が率直に語られている。
 普通に会話形式なので読みやすいが、この田中氏が地上げ屋や整理屋などの犯罪(殺人、放火、糞尿を巻くなどの嫌がらせ)を肯定するかの発言をしているのが正直許し難い。田原氏が即座に「僕は間違っていると思いますよ。」と言っているのが救いだった。
 本書を読んでいると検察庁が時の権力体制の維持装置で、「正義の番人」や「公平性」も何もあったもんではないということがよく分かる。

 ところで、本書の中で田中氏は「検察とマスコミは上下関係ができていてマスコミは検察に対しては無抵抗状態というのが現実です。2005年の年初、東京地検特捜部長の井内献策が、マスコミはやくざ者より始末におえない悪辣な存在です、と書いた文書を司法記者クラブに配布するという事件があった。しかし、そこまで誹謗されても、記者達は何の抵抗もなしです。どこの新聞社も記事にできなかった。」述べている。

 まさに「国策捜査」を批判することなどできる訳がないようだ・・・。

公認会計士vs特捜検察(細野祐二著/日経BP社)

2007-12-15 | 書評系
 先日、外回りのアポとアポの合間の時間に新橋の書店に入って、目に留まった本がある。

「公認会計士vs特捜検察(細野祐二著/日経BP社)」税込1,890円(431ページ)

 「粉飾決算はなかった」との赤い帯が強調されていると同時に、タイトルも興味をそそる。また、431ページとかなり分厚い。

 著者 細野祐二氏
 1953年生まれ。78年3月、早稲田大学政経学部卒。83年3月、公認会計士登録。78年10月~2004年までKPMG日本(現あずさ監査法人)およびロンドンにおいて会計監査並びにコンサルタント業務に従事。実務に関する著書多数。

 シロアリ駆除の上場企業、キャッツ経営陣による株価操縦事件に絡み、東京地検特捜部に逮捕された公認会計士・細野祐二氏の「国策捜査」との闘争記である。
 
 佐藤優氏の「国家の罠」が広く売れて「国策捜査」という言葉も広く知られるようになった。日本の刑事事件で起訴されると99.9%は有罪になるということがよく言われるが、この本を読んで改めて国家権力の恐ろしさを思い知らされた。

 何しろ検察官は細野氏を有罪にするためにキャッツの元社長に40~50回も証言リハーサル(もちろん、検察の意に沿う内容)をさせていたという。裁判でも会計学者から粉飾ではないとの鑑定意見が出され、アリバイがあったり、他の容疑者のよる被告に有利な証言が相次いでも、結局一、二審とも敗訴。

 あるわけないが(笑)、自分が何らかの事件に巻き込まれ、検察官の厳しい取り調べを受けたら、即座にギブアップしてやってないこともやったと供述調書のサインしてしまいそうだ・・・。

 このような取り調べや国策捜査を続けていると検察庁に対する国民の信頼性がますます低下していかざるを得ない。定期的にマスコミをにぎわすような大きな刑事事件や目立たない刑事事件も含めて、一部の国民は「逮捕された人は本当に犯罪を犯したのだろうか」「国策捜査じゃないのか」と訝しがるようになってきているとのではないか。

 本としては、著者がはしがきで「一審並びに控訴審での公判中に書いた手記をまとめたもの」「証拠提出するつもりで記述した」とある通り、第一章、第二章のような読者に検察官の追求を想像させるような描写よりも、事実関係や会計理論の論点に関する著者の無実の潔白記述のようで根気強く読む必要があるだろう。

 最後の文章が印象的である。「私には、この判決が憲法違反であり、著しく正義に反するものであることは疑いがない。しかし日本の司法の闇は想像を絶するほどに深く、その壁は公認会計士の全知全霊をもってしてもなお乗り越えられない。しかし、誰もが乗り越えることを諦めざるを得ないほどの厳しい試練を神が与えるからには、神は私だけはそれを乗り越えられることもまた知っているのではないか。なぜなら神は私の無実を知っているからである。私の公認会計士としての闘いはなおも続く。」

 まさに神が細野氏に過酷な試練を与え、それを乗り越えさせることを通して、日本の司法の闇を白日の下に晒し、検察の奢りを矯正しようとさせているのかもしれない。
 
 是非、この本が多く売れて、細野氏が無罪になり、無意味な国策捜査や冤罪による犠牲者がなくなることを祈っている。
 



「国家の謀略(佐藤優著/小学館)」

2007-12-09 | 書評系
  ■『国家の謀略(佐藤優著/小学館)』税込1,680円(379ページ)

 著者:佐藤優氏 起訴休職外務事務官。1960年東京生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。ロンドン、モスクワの日本大使館勤務を経て、本省国際情報局分析第一課に勤務。外交官としての職務の傍らモスクワ国立大学哲学部(弁証法神学)、東京大学教養学部(ユーラシア地域変動論)で教鞭をとる。 2002年5月、背任容疑で逮捕される。一審、二審とも執行猶予付きの有罪判決を受け、現在上告中。『国家の罠(新潮社)』で第59回毎日出版文化賞特別賞、『自壊する帝国(新潮社)』で第5回新潮ドキュメント賞を受賞(いずれも新潮社)。 他に『国家の自縛(産経新聞出版)』『日米開戦の真実(小学館)』『獄中記(岩波書店)』『私のマルクス(文藝春秋)』など。

  はじめに
Ⅰ インテリジェンスという名のゲーム
Ⅱ ニッポン・インテリジェンスの潜在能力
Ⅲ 陸軍中野学校という最強インテリジェンス機関
Ⅳ ワールド・インテリジェンス~世界情勢を読む~
Ⅴ 今日から使えるインテリジェンスのテクニック
  あとがき

 本書は『SAPIO』の「インテリジェンス・データベース」に連載した記事から、中長期的視点から見て意義のあるものを事項別に編集し、章ごとに総括的な解説を付けたものである。

 SAPIOを読んでいない方や読み忘れた方、ここ1~2年の佐藤氏の論考や氏の世界情勢の見方をまとめて知りたい方には良いだろう。

 ところで、戦前の情報機関「陸軍中野学校」では「誠心」を教育の中心に据えて、相手の民族の利益にもなり、日本の国益推進にも資するという厳重な縛りをかけて工作活動を行ったことは有名であるが、佐藤氏が最後に良いことを言っている。

 「誠心は、インテリジェンス要員や政治家、官僚だけに要求されるのではない。日本人一人ひとりが、現在、自分が取り組んでいる仕事を一所懸命におこなうことが誠心だ。この誠心をもつ人物は、自然とインテリジェンスの技法を身につけるのである。」

 まさに至言である。

 是非、「国家の罠」にかけられた冤罪を晴らして欲しい。

「指一本の執念が勝負を決める(冨山和彦著/ファーストプレス)」

2007-10-27 | 書評系
 「指一本の執念が勝負を決める」(ファーストプレス社)1,575円(税込)
著者:冨山和彦氏 1984年司法試験合格、1985年東京大学法学部卒。ボストンコンサルティンググループに入社。1986年コンサルティング会社「コーポレイトディレクション」の設立に参画し、2001年社長。この間、米スタンフォード大学で経営学修士(MBA)を取得。2003年から産業再生機構の代表取締役専務兼COO(最高執行責任者)に就任。2007年4月、株式会社経営共創基盤(IGPI)を設立、代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任する。

 産業再生機構による企業再生を成功させた冨山和彦氏の著書。

本屋でウロウロしていたところ、版画のような特徴的な文字によるカバーが目に留まった。中身をパラパラめくってしばし立ち読みしていくと、冨山氏の想いが伝わってくるような文章があり、帰りの電車で読むべく購入。

 冨山氏は、東京教育大学付属駒場高校(現・筑波大学付属駒場高校)から東大法学部、在学中に司法試験に合格しながらも当時としては珍しく司法修習生にならず、大蔵省などの官僚にもならず、民間のボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社。そのBCGも1年で退社し、新しいコンサルティング会社を設立する。 何故、弁護士や裁判官、官僚などの道を選ばずにコンサルティング会社に就職したのか、本書では自身の「家系」に遡って「挑戦したくなる血」に理由を見いだしている。
 また、自らが「プロフェッショナル」としてコンサル会社の設立から産業再生機構における数々の修羅場をくぐり抜けてきた中で身につけた真のリーダーシップのあり方、さらには「海外との競争」という視点を欠いた日本の内向きな議論に疑問を呈すなどプロとして「戦闘力」を磨きに磨いてきた方に相応しい識見を読むことができる。

 非常に興味深かったのが、前述の通りトップエリートとして周囲から認められるのに必要な学歴や資格を持ちながら、大阪での携帯電話会社のドブ板営業の経験や産業再生機構での危機に瀕した会社関係者との困難な交渉など個人としての実力やマネジャーとしての実力を磨きに磨いてきた方をして

「産業再生機構を4年間やっていて、(本気で残りの人生を棒に振ってでも差し違えにくるなって人は)、私はただの一度も、そういう恐怖を覚えたことはありません。裏を返すと、そういう恐怖を覚えた人間は、小泉純一郎と竹中平蔵、この二人だけです。」

 こう言わしめた小泉元総理と竹中氏はやはりもの凄い迫力・信念・オーラがあったのだろう。

 良書。20代前半のビジネスマンの方にお勧め。

軍師・佐々淳行「反省しろよ慎太郎 だけどやっぱり慎太郎」(佐々淳行著/文藝春秋社)

2007-10-20 | 書評系
 佐々淳行さんの最新刊。

軍師・佐々淳行「反省しろよ慎太郎 だけどやっぱり慎太郎」(佐々淳行著/文藝春秋社)
1,850円(税込)
著者:佐々淳行(さっさあつゆき)氏
 昭和5年(1930年)東京生まれ。東京大学法学部卒業後、国家地方警察本部(現警察庁)に入庁。目黒警察署勤務を振り出しに、警視庁調査・外事・警備課長を歴任、「東大安田講堂事件」「連合赤軍浅間山荘事件」等では警備幕僚長として危機管理に携わる。その後、三重県警察本部長、防衛庁官房長、防衛施設庁長官等を経て、86年より初代内閣安全保障室長をつとめ、昭和天皇大喪の礼警備を最後に退官。2000年、第48回菊池寛賞を受賞。2001年、勲二等旭日重光章受章。著書多数。

 今年の3月に行われた東京都知事選では当初、現職の石原都知事は「贅沢な海外出張」「四男への公私混同の公費支出」「側近との料亭・高級レストランでの豪遊」などをネタに朝日新聞や週刊誌を中心に強いバッシングを受け、民主党から浅野史郎氏が立候補したことで「反・石原」の流れ・ムードが形成され始めるなど、厳しい選挙戦が予想されていた。

 その流れを「反省しろよ慎太郎 だけどやっぱり慎太郎」のキャッチフレーズを掲げて、石原都知事の三選に大きく貢献した選挙対策本部長・佐々氏の”戦記”が本書に収められている(最初の稿「石原都知事選対本部長かく戦えり」)。

 選挙戦における戦いにも読み応えがあるほか、石原都知事が当選した意味を『文明批評的にいえば、時代の「不安」に脅えた孫達が、綺麗ごとばかりいって頼り甲斐のない、全共闘、団塊の世代の「父」を越えて、戦前、戦中、戦後を知り、米・中・朝にも毅然として対応する誇り高い昭和一桁の雷「祖父」を為政者として選んだことになる』と客観的に分析してみせるなど、単なる「選対日誌」に終わっていないところにも改めて佐々氏の頭の良さを感じさせてくれている。

 その他、月刊誌「諸君!」に寄稿された最近の佐々氏の論が読め、お得である。

 良書。

 ちなみに、佐々氏が本書の中で「筆者の知る限り、現代最高の軍師は、やはり後藤田正晴さんだった」と述べておられるが、佐々氏をしてそこまで言わしめる後藤田氏は本当に凄い方だったのだろう。
 
 佐々氏も後藤田氏のように長生きして引き続き日本のために尽くして頂けることを蔭ながらお祈りしています。

国家と神とマルクス~「自由主義的保守主義者」かく語りき~(佐藤優著)

2007-05-05 | 書評系
『国家と神とマルクス~「自由主義的保守主義者」かく語りき~(佐藤優著/太陽企画出版)』  1690円

著者:佐藤優氏 起訴休職外務事務官。1960年東京生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。ロンドン、モスクワの日本大使館勤務などを経て、本省国際情報局分析第一課に勤務。外交官としての職務の傍らモスクワ国立大学哲学部(弁証法神学)、東京大学教養学部(ユーラシア地域変動論)で教鞭をとる。外務省きっての情報分析官といわれたが、2002年5月、背任容疑で逮捕される。一審、二審とも執行猶予付きの有罪判決を受け、現在上告中。『国家の罠(新潮社)』で第59回毎日出版文化賞特別賞、『自壊する帝国(新潮社)』で第5回新潮ドキュメント賞を受賞(いずれも新潮社)。他に『国家の自縛(産経新聞出版)』『日米開戦の真実(小学館)』『獄中記(岩波書店)』などの著書がある。
 
 ご存じ”国策捜査”の被害者佐藤優さんの本。「太陽企画出版」という個人的にはあまり聞き慣れない出版社からの本ということで、どんな内容なのか訝しがったが立ち読みして(笑)購入。

 Ⅰ それでも私は戦う
 Ⅱ 国家の意思とは何か
 Ⅲ 私は何を読んできたか
 Ⅳ 日本の歴史を取り戻せ
 Ⅴ 国家という名の妖怪
 Ⅵ 絶対的なるもの-あるいは長いあとがき-
(以上254ページ)

 「国家と神とマルクス」と何やら矛盾めいた大きなテーマが書名となっているが、内容的には「自由主義的保守主義者かく語りき」とある通り佐藤氏が諸々の雑誌(「左派、右派の垣根を越えて」)に寄稿した論文やエッセーなどをまとめたもので、特定の雑誌でしか佐藤氏の論考に接する機会のない人にとって興味深いものになっており、まさに「矛盾が共存」という意味を書名と内容が表している良書である。

 それにしても佐藤氏の背任容疑(2000年4月にイスラエルで開催された国際学会に大学教授を派遣する際に外務省関連の国際機関「支援委員会」から資金を支出したこと)に関しては、当時の外務事務次官や条約局長などの外務省幹部の決裁(正規手続き)を経ており、かつ東郷和彦元欧亜局長が「佐藤君は何ら違法行為に関与していない(本書9ページ)」と証言したにも関わらず、二審でも有罪になってしまっている。国家とは恐ろしいものだ・・・(汗)。本書の「Ⅱ 国家の意思とは何か」で麻原彰晃元主任弁護士安田氏の事例をテキストとして”国体の弱体化”を指摘しながら、「このようなうるさ型の弁護士の存在が、国家の手抜き捜査による冤罪を防ぎ、結果として日本の国家体制を強化するという論理関係」を明示しているのは優れた分析ではないだろうか。元ライブドア社長の堀江氏の逮捕の深淵も(無自覚に)共和制を唱えていることに国家の生存本能が否を唱えたことにある、との見方も説得的だ。
 ちなみに佐藤氏と堀江氏は「Finacial JAPAN5月号」で対談していて、こちらの記事も感覚的な堀江氏の言説に対して、佐藤氏が学術的な整理を踏まえながら独自の見方を述べていて面白い。

 最近では佐藤氏の活躍を妬む声も公になってきて諸君5月号では「佐藤優 ―そのロシア人脈とインテリジェンスへの疑問」などと書かれていたのを本屋で見た。またAERA4/23号でも佐藤氏が取り上げられていた。
 そのような日本人的な嫉妬・妬みの声に負けずに佐藤氏には今後とも頑張ってほしい。

「原典訳 チベットの死者の書(ちくま学芸文庫)」

2007-02-17 | 書評系
 本屋を歩いていて立ち読みしたら「この導きと出会うのは極めて幸運なことなのである。」と書いてあったので買ってみた。
「原典訳 チベットの死者の書(ちくま学芸文庫)」1,050円(税込)
著者:川崎信定氏
 1935年千葉県生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。同大学院印度哲学科博士課程修了。文学博士。東洋大学文学部教授、筑波大学名誉教授。

第1巻 チカエ・バルドゥ(死の瞬間の中有)とチョエニ・バルドゥ(存在本来の姿の中有)
第2巻 シパ・バルドゥ(再生へ向かう迷いの状態の中有)
第3巻 付属の祈願の文書

 人は死んだらどうなるのだろうか。「火葬されて土に還る」「天国に行く」など多様な答えがあると思う。誰しも一度は脳裏に浮かんだことのあるこの問いかけに答えてくれているのが「チベット死者の書」ではないだろうか。死は誰もが不可避のことながらその1回限りの経験のため事前に経験することができない。しかしながら、仏教においては輪廻転生(意識の連続性)を説いており、瞑想に熟達すると事前に「死」を体験できるという。この「死」と「再生」のプロセスとその対処方法を明らかにしたのが本書「チベットの死者の書」で、冒頭の通り、

「この導きと出会うのは極めて幸運なことなのである。(中略)これこそすべての教えの一番に重要なものなのである。」

 と書いてあるほか、

「この『バルドゥにおける聴聞による大解脱』という教えは、過去・現在・未来の三世にわたるもろもろの仏たちが探し求めても、これより優れたものは手に入れることのできない教えなのである。」

 と書かれている。「おぉ~、凄い教えだ。私は物凄いラッキーなんじゃないか(笑)?」と思ったが、よく読むと「あとがき」にある通り、1960~1970代にヒッピーの間でブームになったそうだし、10年以上前NHKで「チベット死者の書」を題材にした番組が放送されるなどかなりメジャーな物であることが判明した。ただし、今の日本において実際にここに書かれている文章を手にとって読む人は少ないのではないだろうか。
 
 しかもこの教典はチベット仏教の確立に決定的な役割を果たしたパドマサンバヴァという高僧が聖なる山(ガンポリというらしい)に埋めて、転生者のカルマリンパという人が発見した秘匿の書であるという。
 
 信じる信じないは人それぞれだが、知っていて損はないだろう。




『レクイエム~「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち~(NHK出版)」』

2007-02-16 | 書評系
 先月読んだ本。
■『レクイエム~「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち~(伯野卓彦著/NHK出版)』1,785円(税込)
著者:伯野卓彦(はくの たくひこ)氏
 1989年、NHK入局。「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」の制作を経て、2000年より「プロジェクトX 挑戦者たち」の制作を担当。2005年、NHKスペシャル「シリーズ 日本の群像 再起への20年」(「銀行マンの苦闘」「トップを奪い返せ」)を制作。2006年12月より「クローズアップ現代」チーフプロデューサー。

目次
  プロローグ
Ⅰ 1986‐2006 金融20年の勝者と敗者
Ⅱ 破綻への序曲
Ⅲ 壮絶なる闘い不良債権処理プロジェクト
Ⅳ 海を渡った不良債権
Ⅴ 誤算 泥沼の不動産不況
Ⅵ 日本の選択 アメリカの圧力
Ⅶ はしごを外される邦銀
Ⅷ 外資からのレッドカード
Ⅸ アメリカに屈した日本金融行政 
  エピローグ(以上 264ページ)

「日本が選択した道は正しいのだろうか~今、日本経済では、日本型金融哲学が、欧米型金融哲学に葬り去られようとしている。好況と言われる日本経済に歪みが生じている今、これからの日本経済はどうあるべきか。そのヒントを求めて、「長銀」破綻の真相を読み解く。」と本書の紫色の帯に書かれている通り、96年当時の橋本内閣が進めた「日本版金融ビックバン」により進められてきた「市場原理」優先の金融制度の選択が果たして正しかったのか、そして、国民が真に理解した上で行われたものだったのかを長銀破綻を経験したエリート長銀マンへの長時間に亘るインタビュー・行内内部資料・取材により問いかけた書である。
 2005年にNHKスペシャルで放送されたことから本書を読まずとも内容を記憶している方が多いと思うが(会社の先輩は知っていた)、私は残念ながら数分しか見ていなかったので改めて買って読んでみた。
 詳しくは本文に譲るが、不良債権処理プロジェクトチームの苦闘は読んでいて気の毒になるくらいの壮絶な闘い・修羅場と形容できるもので、事実上のリーダー弥田一人氏は帰らぬ人になってしまっている・・・(本書では戦死-折れた支柱 との見出しが立てられている)。しかも91年から不良債権処理対策チーム(1年後に事業推進部に改組)に関わり、最後の頭取になった鈴木恒男氏はそごう支援に係る「元会長の個人保証」が問題とされ民事裁判にかけられている。
 鈴木元頭取は本書のインタビューの中で「私は今でも、日本型金融理念、金融哲学のほうが優れている面が大きい、あるいは少なくとも日本の社会には合っていると思っていますし、充分、存続するに値する制度だったと思います。その考えは変わっていません。」と答えている。
 社会全体の秩序維持を優先する日本型金融哲学が市場原理・株主優先を優先するアメリカ型金融哲学に屈した感が浮き彫りにされているが、これはバブル崩壊という強烈かつ不景気のインパクトが長期間社会を覆ったことが要因として大きく、単純に日本の金融制度・哲学が全て駄目だったということではない。現在、ゴールドマン・サックス本社シニアアドバイザーを務めているロバート・カプラン氏は本書の中で「アメリカのシステムが、日本よりも優れていたというわけでは決してありません。しかし、変化に適応するのは楽だったかもしれません。(中略)強調したいのは日本型とアメリカ型、どちらが正しくて、どちらが間違っているというわけではないということです。単なるシステムの違いなのです。」と述べている。極めてクールかつ公平な分析だと思う(マスコミに聞かせてやりたい)。ダーウィンではないが、まさしく「適者生存(survival of the fittest)」だったということだろうか。
 とにかく良書だと思うので、興味のある方は是非手に取って読んでみて欲しい。

「ヴィジュアル版世界の神話百科 東洋編―エジプトからインド、中国まで(原書房)」

2007-02-13 | 書評系
 ラルースの世界の神話百科と一緒に買った本。
「ヴィジュアル版世界の神話百科 東洋編―エジプトからインド、中国まで(原書房)」5,040円(税込)
著者・レイチェル・ストーム 山本史郎・山本泰子=訳
 
 ラルースの世界の神話百科で紹介した通り、「絵で見る神話の世界」の東洋編。

目次
序文
エジプト・オリエント・西アジア神話 
南・中央アジア神話
東アジア神話
解題
訳者あとがき(以上、459ページ)
 
 本書は東洋編であるため、上記神話に関する絵画や彫刻品・出土品などのカラー写真がラルースの世界神話百科に比べてより多く、解説もより詳細になされている。
 エジプト神話やインド・ヒンドゥー神話、仏教的な説話のカラー写真は参考になる。これを読む前に小説などでそれぞれの神話の概説を知っておいて、辞書的に使うのが一般的であろう。もちろん、この本だけを読んでも関心がある人にとっては参考になると思う。

「現代活学講話選集1 十八史略(上・下/PHP文庫)」 

2007-02-12 | 書評系
「十八史略 上・下(PHP文庫 現代活学講話選集)~激動に生きる強さの活学~」各700円(税込)
著者:安岡正篤氏 明治31年、大阪府に生まれる。東京帝国大学法学部卒業。「東洋思想研究所」「金鶏学院」「国維会」「日本農士学校」「篤農協会」等を設立。また戦後は「全国師友協会」「新日本協議会」等をつくり、政財界の精神的支柱となる。全国師友協会会長、松下政経塾相談役を歴任。昭和58年12月逝去。

 徳間文庫シリーズの「十八史略」が刊行される前の2005年3月にPHP文庫から出された、東洋学の泰斗・安岡正篤氏による「十八史略」の解説本。
 本書では徳間文庫「十八史略5巻」の最後に語られている南宋に殉じた文天祥が、曾先之と同郷の親友・知己であり「天下の奇材、青雲の遠業(永遠の著作)」と称賛した手紙を送っているエピソードに始まり、易の解説や陰陽五行説、果ては漢字の意味・成り立ち・中国史・人物に関する圧倒的な知識を背景に縦横無尽に「十八史略」が語られている。
 この本に関しては敢えて言うとあまりに博学過ぎて若干説教じみた感が出ていて読みづらい点は否めないが、それを割り引いても「十八史略」の世界・人物を深く理解できるだろう。

 

「ラルース 世界の神々 神話百科(原書房)」

2007-02-11 | 書評系
 趣を変えて、昨年末に買った本。
「ヴィジュアル版ラルース 世界の神々 神話百科(原書房)」5,040円(税込)
著者フェルナン・コント氏 訳者蔵持不三也氏

序文
第1章 ギリシア・ローマ神話
第2章 エジプト神話
第3章 中近東神話
第4章 インド神話
第5章 中国・モンゴル神話
第6章 日本神話
第7章 オセアニア神話
第8章 中南米神話
第9章 アフリカ・マダガスカル神話
第10章 ケルト神話
第11章 北欧・中欧神話
訳者あとがき
(以上 567ページ)

 年末に本屋をうろついていた時に目に止まった本。
 
書名・目次にある通り、世界各国の神話百科を集めた本であるが、「ヴィジュアル」版とあるように神話をモチーフにした芸術的な絵画や彫刻品などフルカラーで見ることができるため、神話をよりイメージ・理解し易くなっている点が特徴だ。
 人間と動物の違いを区別する要素は「火を使う」「二足歩行」「言葉を喋る(鳴き声で意思疎通している動物もいるのでやや厳しいか?)」等、様々な指摘ができるが最も特徴的なものが「精神性(宗教や哲学、アニミズム)」と言って良いだろう。欧米では「人間から宗教を取ったら動物と同じ」と見なされると言われるため、日本人は海外旅行時に一時的に「仏教徒」に成りすますことが多いはずだ(私もそうだ(笑))。
 人間を人間たらしめている精神性の象徴の一つが各民族・各国に伝承される「神話」であり、世界の神話を知っておくことや各「神話」の異同を見出すことは改めて世界の歴史(芸術・文学etc)を深く理解させてくれる一助になるだろう。
 個人的には以前、クリスチャン・ジャックの「太陽の王 ラムセス」を読んでいたのでエジプト神話の出土品や絵画などが興味深かったほか、ギリシャ・ローマ神話、中近東神話(アフラ・マズダーvsアンラ・マンユ)、インド神話などが面白かった。
 
 ちなみに著者はフランス人だが、日本神話も取り扱っている。