調査員の「目」

 日常の何気ない雑感とつれづれ日記。

「原典訳 チベットの死者の書(ちくま学芸文庫)」

2007-02-17 | 書評系
 本屋を歩いていて立ち読みしたら「この導きと出会うのは極めて幸運なことなのである。」と書いてあったので買ってみた。
「原典訳 チベットの死者の書(ちくま学芸文庫)」1,050円(税込)
著者:川崎信定氏
 1935年千葉県生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。同大学院印度哲学科博士課程修了。文学博士。東洋大学文学部教授、筑波大学名誉教授。

第1巻 チカエ・バルドゥ(死の瞬間の中有)とチョエニ・バルドゥ(存在本来の姿の中有)
第2巻 シパ・バルドゥ(再生へ向かう迷いの状態の中有)
第3巻 付属の祈願の文書

 人は死んだらどうなるのだろうか。「火葬されて土に還る」「天国に行く」など多様な答えがあると思う。誰しも一度は脳裏に浮かんだことのあるこの問いかけに答えてくれているのが「チベット死者の書」ではないだろうか。死は誰もが不可避のことながらその1回限りの経験のため事前に経験することができない。しかしながら、仏教においては輪廻転生(意識の連続性)を説いており、瞑想に熟達すると事前に「死」を体験できるという。この「死」と「再生」のプロセスとその対処方法を明らかにしたのが本書「チベットの死者の書」で、冒頭の通り、

「この導きと出会うのは極めて幸運なことなのである。(中略)これこそすべての教えの一番に重要なものなのである。」

 と書いてあるほか、

「この『バルドゥにおける聴聞による大解脱』という教えは、過去・現在・未来の三世にわたるもろもろの仏たちが探し求めても、これより優れたものは手に入れることのできない教えなのである。」

 と書かれている。「おぉ~、凄い教えだ。私は物凄いラッキーなんじゃないか(笑)?」と思ったが、よく読むと「あとがき」にある通り、1960~1970代にヒッピーの間でブームになったそうだし、10年以上前NHKで「チベット死者の書」を題材にした番組が放送されるなどかなりメジャーな物であることが判明した。ただし、今の日本において実際にここに書かれている文章を手にとって読む人は少ないのではないだろうか。
 
 しかもこの教典はチベット仏教の確立に決定的な役割を果たしたパドマサンバヴァという高僧が聖なる山(ガンポリというらしい)に埋めて、転生者のカルマリンパという人が発見した秘匿の書であるという。
 
 信じる信じないは人それぞれだが、知っていて損はないだろう。




『レクイエム~「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち~(NHK出版)」』

2007-02-16 | 書評系
 先月読んだ本。
■『レクイエム~「日本型金融哲学」に殉じた銀行マンたち~(伯野卓彦著/NHK出版)』1,785円(税込)
著者:伯野卓彦(はくの たくひこ)氏
 1989年、NHK入局。「クローズアップ現代」「NHKスペシャル」の制作を経て、2000年より「プロジェクトX 挑戦者たち」の制作を担当。2005年、NHKスペシャル「シリーズ 日本の群像 再起への20年」(「銀行マンの苦闘」「トップを奪い返せ」)を制作。2006年12月より「クローズアップ現代」チーフプロデューサー。

目次
  プロローグ
Ⅰ 1986‐2006 金融20年の勝者と敗者
Ⅱ 破綻への序曲
Ⅲ 壮絶なる闘い不良債権処理プロジェクト
Ⅳ 海を渡った不良債権
Ⅴ 誤算 泥沼の不動産不況
Ⅵ 日本の選択 アメリカの圧力
Ⅶ はしごを外される邦銀
Ⅷ 外資からのレッドカード
Ⅸ アメリカに屈した日本金融行政 
  エピローグ(以上 264ページ)

「日本が選択した道は正しいのだろうか~今、日本経済では、日本型金融哲学が、欧米型金融哲学に葬り去られようとしている。好況と言われる日本経済に歪みが生じている今、これからの日本経済はどうあるべきか。そのヒントを求めて、「長銀」破綻の真相を読み解く。」と本書の紫色の帯に書かれている通り、96年当時の橋本内閣が進めた「日本版金融ビックバン」により進められてきた「市場原理」優先の金融制度の選択が果たして正しかったのか、そして、国民が真に理解した上で行われたものだったのかを長銀破綻を経験したエリート長銀マンへの長時間に亘るインタビュー・行内内部資料・取材により問いかけた書である。
 2005年にNHKスペシャルで放送されたことから本書を読まずとも内容を記憶している方が多いと思うが(会社の先輩は知っていた)、私は残念ながら数分しか見ていなかったので改めて買って読んでみた。
 詳しくは本文に譲るが、不良債権処理プロジェクトチームの苦闘は読んでいて気の毒になるくらいの壮絶な闘い・修羅場と形容できるもので、事実上のリーダー弥田一人氏は帰らぬ人になってしまっている・・・(本書では戦死-折れた支柱 との見出しが立てられている)。しかも91年から不良債権処理対策チーム(1年後に事業推進部に改組)に関わり、最後の頭取になった鈴木恒男氏はそごう支援に係る「元会長の個人保証」が問題とされ民事裁判にかけられている。
 鈴木元頭取は本書のインタビューの中で「私は今でも、日本型金融理念、金融哲学のほうが優れている面が大きい、あるいは少なくとも日本の社会には合っていると思っていますし、充分、存続するに値する制度だったと思います。その考えは変わっていません。」と答えている。
 社会全体の秩序維持を優先する日本型金融哲学が市場原理・株主優先を優先するアメリカ型金融哲学に屈した感が浮き彫りにされているが、これはバブル崩壊という強烈かつ不景気のインパクトが長期間社会を覆ったことが要因として大きく、単純に日本の金融制度・哲学が全て駄目だったということではない。現在、ゴールドマン・サックス本社シニアアドバイザーを務めているロバート・カプラン氏は本書の中で「アメリカのシステムが、日本よりも優れていたというわけでは決してありません。しかし、変化に適応するのは楽だったかもしれません。(中略)強調したいのは日本型とアメリカ型、どちらが正しくて、どちらが間違っているというわけではないということです。単なるシステムの違いなのです。」と述べている。極めてクールかつ公平な分析だと思う(マスコミに聞かせてやりたい)。ダーウィンではないが、まさしく「適者生存(survival of the fittest)」だったということだろうか。
 とにかく良書だと思うので、興味のある方は是非手に取って読んでみて欲しい。

「ヴィジュアル版世界の神話百科 東洋編―エジプトからインド、中国まで(原書房)」

2007-02-13 | 書評系
 ラルースの世界の神話百科と一緒に買った本。
「ヴィジュアル版世界の神話百科 東洋編―エジプトからインド、中国まで(原書房)」5,040円(税込)
著者・レイチェル・ストーム 山本史郎・山本泰子=訳
 
 ラルースの世界の神話百科で紹介した通り、「絵で見る神話の世界」の東洋編。

目次
序文
エジプト・オリエント・西アジア神話 
南・中央アジア神話
東アジア神話
解題
訳者あとがき(以上、459ページ)
 
 本書は東洋編であるため、上記神話に関する絵画や彫刻品・出土品などのカラー写真がラルースの世界神話百科に比べてより多く、解説もより詳細になされている。
 エジプト神話やインド・ヒンドゥー神話、仏教的な説話のカラー写真は参考になる。これを読む前に小説などでそれぞれの神話の概説を知っておいて、辞書的に使うのが一般的であろう。もちろん、この本だけを読んでも関心がある人にとっては参考になると思う。

「現代活学講話選集1 十八史略(上・下/PHP文庫)」 

2007-02-12 | 書評系
「十八史略 上・下(PHP文庫 現代活学講話選集)~激動に生きる強さの活学~」各700円(税込)
著者:安岡正篤氏 明治31年、大阪府に生まれる。東京帝国大学法学部卒業。「東洋思想研究所」「金鶏学院」「国維会」「日本農士学校」「篤農協会」等を設立。また戦後は「全国師友協会」「新日本協議会」等をつくり、政財界の精神的支柱となる。全国師友協会会長、松下政経塾相談役を歴任。昭和58年12月逝去。

 徳間文庫シリーズの「十八史略」が刊行される前の2005年3月にPHP文庫から出された、東洋学の泰斗・安岡正篤氏による「十八史略」の解説本。
 本書では徳間文庫「十八史略5巻」の最後に語られている南宋に殉じた文天祥が、曾先之と同郷の親友・知己であり「天下の奇材、青雲の遠業(永遠の著作)」と称賛した手紙を送っているエピソードに始まり、易の解説や陰陽五行説、果ては漢字の意味・成り立ち・中国史・人物に関する圧倒的な知識を背景に縦横無尽に「十八史略」が語られている。
 この本に関しては敢えて言うとあまりに博学過ぎて若干説教じみた感が出ていて読みづらい点は否めないが、それを割り引いても「十八史略」の世界・人物を深く理解できるだろう。

 

「ラルース 世界の神々 神話百科(原書房)」

2007-02-11 | 書評系
 趣を変えて、昨年末に買った本。
「ヴィジュアル版ラルース 世界の神々 神話百科(原書房)」5,040円(税込)
著者フェルナン・コント氏 訳者蔵持不三也氏

序文
第1章 ギリシア・ローマ神話
第2章 エジプト神話
第3章 中近東神話
第4章 インド神話
第5章 中国・モンゴル神話
第6章 日本神話
第7章 オセアニア神話
第8章 中南米神話
第9章 アフリカ・マダガスカル神話
第10章 ケルト神話
第11章 北欧・中欧神話
訳者あとがき
(以上 567ページ)

 年末に本屋をうろついていた時に目に止まった本。
 
書名・目次にある通り、世界各国の神話百科を集めた本であるが、「ヴィジュアル」版とあるように神話をモチーフにした芸術的な絵画や彫刻品などフルカラーで見ることができるため、神話をよりイメージ・理解し易くなっている点が特徴だ。
 人間と動物の違いを区別する要素は「火を使う」「二足歩行」「言葉を喋る(鳴き声で意思疎通している動物もいるのでやや厳しいか?)」等、様々な指摘ができるが最も特徴的なものが「精神性(宗教や哲学、アニミズム)」と言って良いだろう。欧米では「人間から宗教を取ったら動物と同じ」と見なされると言われるため、日本人は海外旅行時に一時的に「仏教徒」に成りすますことが多いはずだ(私もそうだ(笑))。
 人間を人間たらしめている精神性の象徴の一つが各民族・各国に伝承される「神話」であり、世界の神話を知っておくことや各「神話」の異同を見出すことは改めて世界の歴史(芸術・文学etc)を深く理解させてくれる一助になるだろう。
 個人的には以前、クリスチャン・ジャックの「太陽の王 ラムセス」を読んでいたのでエジプト神話の出土品や絵画などが興味深かったほか、ギリシャ・ローマ神話、中近東神話(アフラ・マズダーvsアンラ・マンユ)、インド神話などが面白かった。
 
 ちなみに著者はフランス人だが、日本神話も取り扱っている。
 

「十八史略 全5巻(徳間文庫)」

2007-02-10 | 書評系
 去年から今年にかけて読んだ本。
「十八史略 全5巻(徳間文庫)」各巻1,000円(税込)

十八史略1 覇道の原点
     ~乱舞する人間群像にきらめく英知を学ぶ。(カバーの帯より)
十八史略2 権力の構図
     ~統一帝国の支配者たち
十八史略3 梟雄の系譜
     ~反逆と簒奪の六百年。最もドラマチックな時代!
十八史略4 帝王の陥穽
     ~名君・暴君・女傑たちの虚実。
十八史略5 官僚の論理
     ~夷をもって夷を制し、夷によって制せられる。

 徳間文庫版の「史記」が2005年10月に刊行されてから1年後の2006年10月に「十八史略(曾先之)」が刊行された。「十八史略」は太昊伏羲(たいこうふつぎ)・炎帝神農氏・黄帝、小昊(しょうこう)・せんぎょく(漢字が出ない)・帝こく・堯・舜の三皇五帝の伝説的な時代からフビライ・ハンの元に南宋が滅ぼされるまでの数千年の歴史を十八種の史書に基づき概説したものである。
 1巻の解題によれば江戸時代の日本では文学は「唐詩選」、思想は「論語」、歴史は「十八史略」が初学者の必読書とされていたそうだ。
 「史記」と併せて購入することをお勧めする。

「史記 全8巻(徳間文庫)」

2007-02-09 | 書評系
 「史記 全8巻(徳間文庫)」各巻1,200円(税込)
 2005年10月に創刊25周年を記念として司馬遷の「史記」が徳間文庫シリーズで装いを新たにして登場。

史記1 覇者の条件
   ~三皇五帝の聖王伝説時代から春秋末期の呉・越抗争(紀元前5世紀)まで~
史記2 乱世の群像
   ~戦国時代(前403年~前221年)~
史記3 独裁の虚実
   ~秦帝国の成立と滅亡~
史記4 逆転の力学
   ~漢楚の死闘 項羽と劉邦登場~
史記5 権力の構造
   ~呂后専権から武帝の時代へ~
史記6 歴史の底流
   ~<列伝>を中心に人間の様々な生き方を見る一巻~
史記7 思想の命運
   ~中国人の思考の源流さぐる~
史記8 「史記」小辞典(私は未購入)
※~の文言は本の帯に書いてある文言またはカバー裏の文言、後は私が勝手に記載

 徳間文庫シリーズの「史記」は本のカバーの質も良く、文字もやや大きめで読みやすい。文庫版刊行にあたって三つの特徴があると書かれてある。
 すなわち
1.流れがつかめる -歴史の始まりから漢代までの流れを構成に工夫
2.読んで分かる  -翻訳だけですらすらわかる古典を目標とした
3.原典を参照できる-原典ですぐに探せるようにした
 ということだそうで、特にこの訳文だけですらすら分かるというのはその通りだと思う。
 「史記」や「十八史略」を読むと人間がいかに利害得失に左右されて生きているか、人の心やこの世の無常を実感させられる。同時に中国の歴史では【禍根】を残さないために一族郎党皆殺しにする場面が非常に多く、呂后【りょこう】の戚婦人【せきふじん】に対する残忍な復讐劇などを見ると中国人の思考の底流が見え隠れして非常に興味深い。
 また、太公望呂尚、管中、楽毅、項羽、劉邦、劉備、曹操、孫権など多彩な人物が沢山でてくるのも面白い。項羽と劉邦三国志は中国のテレビ局が作ったDVDもレンタルできるので、それを見ると一層流れが分かりやすくなる。宮城谷昌光さんや陳舜臣さんの小説もお薦めだ。