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癌にSTAT3阻害剤が効かない理由

2016-02-20 06:06:15 | 癌の治療法
Scientists show how cancerous cells evade a potent targeted therapy

Significant antitumor activity was shown in cancers when this therapy was combined with an enzyme

February 16, 2016

https://www.sciencedaily.com/releases/2016/02/160216142833.htm

癌細胞の増殖と生存を促進するタンパク質を阻害するようにデザインされ開発された薬剤が、実際の臨床ではまったくうまく行かないという事態を想像してみよう
これはSTAT3阻害剤を研究している科学者が直面するジレンマである
マウスモデルでSTAT3をノックアウトするとT細胞による免疫応答の増加が観察され、治療標的として有益であることが示唆される
しかしながら、腫瘍でSTAT3を標的にすることはこれまで限られた成功しか収めていない

今回ウィスター研究所の科学者は、未成熟な骨髄細胞である『骨髄由来免疫抑制細胞/myeloid-derived suppressor cell (MDSC)』においてSTAT3がどのようにして振る舞うのかを明らかにした
彼らはこれが癌の進行を途中で止めるためのSTAT3阻害剤のさらに効果的な使用法の基礎になると考えている
この研究結果はImmunity誌で発表された


健康なヒトの場合MDSCは免疫応答と組織修復を調節しており、炎症や感染、癌になるとMDSCの細胞集団は急速に増殖する
しかしながら、この骨髄細胞が腫瘍へと移動すると『腫瘍関連マクロファージ/tumor associated macrophage (TAM)』へと分化し、
腫瘍の血管形成を刺激することで高まっている腫瘍細胞の浸潤と移動をさらに促進することになる

以前の研究でSTAT3はMDSCの増殖expansionに強く関与することが示されたため、ウィスターの研究者はSTAT3とMDSCの分化との間に関連が存在するのか研究しようと決定した


「これまでの研究で、癌の発達developmentにおいてSTAT3が重要な標的であることが示されてきた」
筆頭著者lead authorのDmitry I. Gabrilovich, M.D., Ph.D.は言う
Christopher M. Davis Professor職の保持者である彼は、
ウィスター研究所トランスレーショナル腫瘍免疫学プログラムの教授でありプログラムリーダーでもある

「臨床的に言って、STAT3阻害剤には予測したほどの強い効果は見られなかった
今回の研究の目的は、なぜそのようなことになるのかを明らかにし、
そしてこの治療法がこれまでの我々の研究から示唆されるぐらい有効にするための方法を理解することである」


Gabrilovichたちは癌患者の血液サンプルを分析し、STAT3活性レベルを決定した
その結果、STAT3の活性はMDSCの増殖を強く刺激し、MDSC細胞による免疫応答に関与していたにもかかわらず、
実際には高レベルのSTAT3活性はMDSCからマクロファージへの分化を妨害することが明らかになった
腫瘍内の低レベルのSTAT3がこの活性の原因だったが、しかしSTAT3阻害剤が効果的にSTAT3を標的にできないぐらい低いレベルだった

では一体何がこの腫瘍内MDSCのSTAT3活性の低レベルを引き起こして、TAMへの分化を促進するのか?

その答えは腫瘍の微小環境の中にあった
酸素が欠乏する低酸素hypoxiaの状態は腫瘍が血液の供給を越えて急速に成長することから起きる現象である
低酸素が起きると、CD45(骨髄細胞とリンパ球様細胞lymphoid cellsに見られるタンパク質)の活性が増大する
フォスファターゼであるCD45活性の増大はSTAT3を脱リン酸化することによりSTAT3活性レベルを低下させ、MDSCがTAMへと分化できるようにする

最後に、研究者はCD45を標的にすることがSTAT3阻害剤の有効性を高めるかどうかを調べたいと考えた
彼らはSTAT3阻害剤に抵抗性であることが示されている肉腫において、
実験的なSTAT3阻害剤であるJSI-124 (cucurbitacin I) と、CD45活性を妨害するシアリダーゼsialidaseを組み合わせて使用した
JSI-124かシアリダーゼをそれぞれ単独で使っても腫瘍増殖や腫瘍進行促進に何ら効果はなかったが、
それらを組み合わせて使うとかなり強い抗腫瘍活性が観察された

「我々の結果は、これまで効果がなかったSTAT3阻害剤に対してシアリダーゼを組み合わせると腫瘍内の骨髄細胞を感受性にすることを示唆する」
Gabrilovich研究室のスタッフ科学者であり筆頭著者first authorのVinit Kumar, Ph.D.は言う

「我々はSTAT3が実際に癌治療の潜在的な標的であることを確認した
しかしそれは、腫瘍の微小環境に影響する他の要素を明らかにする限りにおいてである」


http://dx.doi.org/10.1016/j.immuni.2016.01.014
CD45 Phosphatase Inhibits STAT3 Transcription Factor Activity in Myeloid Cells and Promotes Tumor-Associated Macrophage Differentiation.
CD45フォスファターゼは骨髄細胞におけるSTAT3転写因子活性を阻害し、腫瘍関連マクロファージへの分化を促進する


Highlights
・低酸素環境におけるMDSCからTAMへの分化は、STAT3活性によって調節される
・MDSCにおけるSTAT3阻害は、CD45フォスファターゼ活性の上方調節が原因である
・CD45フォスファターゼの活性化はシアル酸によって仲介される
・シアル酸の分解は腫瘍骨髄細胞をSTAT3阻害剤に感受性にする


Summary
単核球MDSCのリクルートとそのTAMへの分化は、腫瘍の進行と転移に寄与する主な要因である

我々は、単核球前駆体から腫瘍でのTAMへの分化が転写因子STAT3の活性の下方調節によって制御されることを実証した

STAT3活性の低下は低酸素によって引き起こされて全ての骨髄細胞に影響するが、腫瘍細胞には観察されなかった

低酸素に曝露したMDSCにおけるCD45チロシンフォスファターゼ活性の上方調節は、STAT3下方調節の原因である

この影響はCD45タンパク質の二量体化dimerizationの妨害によって仲介され、この二量体化はシアル酸によって調節される

 低酸素→シアル酸↑─┤CD45二量体化↓CD45フォスファターゼ活性↑→STAT3↓

したがって、STAT3はMDSCからTAMへの分化の制御において腫瘍環境では独特な機能を持ち、その調節経路は治療の潜在的な標的となりうる


<コメント>
Referenceを見てみる

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12134145
Negative regulation of CD45 by differential homodimerization of the alternatively spliced isoforms.
CD45はホモ二量体化によって負の調節を受ける
CD45の様々なアイソフォームはホモ二量体化に差がある
二量体化は、選択的スプライシングされたCD45エキソンの細胞外ドメインのシアル酸付加sialylationとO-グリコシル化によって調節される
したがって、最も小さいアイソフォームであるCD45ROは、細胞外のシアル酸付加とO-グリコシル化が最小であり、最も効率よくホモ二量体化する結果、TCRによるシグナル伝達が減少する
CD45はT細胞の活性化に必須である


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16540641
Hypoxic culture induces expression of sialin, a sialic acid transporter, and cancer-associated gangliosides containing non-human sialic acid on human cancer cells.
低酸素での培養はシアル酸トランスポーターであるシアリンのmRNA発現を著しく誘導する



関連サイト
http://www.genome.jp/dbget-bin/www_bget?ds_ja:H00147
シアリン/SLC17A5は遊離シアル酸をリソソームから輸送するリソソームのメンブレントランスポーターであり、シアリンの異常によってリソソームに多量な遊離シアル酸が蓄積する。