ないない島通信

「ポケットに愛と映画を!」改め。

「銀河鉄道の父」

2023-05-10 18:26:05 | 映画

たまたま時間が空いたので、立川高島屋にあるキノシネマで、

「銀河鉄道の父」(成島出監督 2023年)

を観てきました。

これがねえ思いがけず良い映画でね。最近いい映画に巡り合うなあ・・

これは、宮沢賢治の父宮沢政次郎から見た宮沢賢治の物語です。政次郎を役所広司が演じています。

宮沢賢治を演じているのが、菅田将暉(すだまさき)。TVドラマ「ミステリーと言う勿れ」で久能整(くのうととのう)を演じた俳優といえばわかるかと思います。

直木賞を受賞した同名の小説(門井慶喜著「銀河鉄道の父」)を映画化したものです。

原作は読んでないのだけど(けっこう分厚い)、映画もよかったなあ。

何より宮沢賢治を父親の目線で描き、なおかつその父親像もこれまでの定説を覆す新しい父親として登場させたところがすごい。

なにしろこのお父さん、もう賢治を溺愛しまくっているのですよ。明治の男が、息子が赤痢で入院したとき自ら泊りがけで看病したというのだから、今時のパパも真っ青の溺愛ぶり。

そのせいか賢治はのびのび育つけれど、身勝手でけっこうな放埓ぶりを発揮します。

父親に家業である質屋を継げと言われれば即座に「いやです」と言い、学業をおろそかにしたため成績は振るわず、大学に進学させてほしいと言っておきながら、実際は盛岡の高等農林学校に進学し、家業は継がずに人造宝石で商売をしようとし、挙句の果てに日蓮宗に入信しとやりたい放題。

それでも、たびたび大喧嘩をしながらも、結局は溺愛する息子に勝てない父。

母親は後ろからそっと二人を見守る守護神のようで、これじゃあ役目が逆じゃないの、と言いたくなるほどの、現代風の父親だった、というのが原作小説の政次郎の描き方のようです。

これ、宮沢賢治の親子の物語ではあるけれど、実はもっと深く、人と人とが出会うとはどういうことか、という根源的なテーマを描いている物語のような気がしました。

親子といえども一つの出会いであるわけで、政次郎と賢治はこうして人として出会ったのだ、という解釈です。

妹トシとの関係も同様です。

「宇宙兄弟」でムッタとヒビトが兄弟として出会ったように、政次郎と賢治は父と子として出会った、そういう風に見るともっと興味深い。

さらに、二人の後ろからそっと二人を見守る芯の強い母親像というのも、これまた現代的で、この作者は只者ではないぞ、と思わせてくれます。

私たちはすでに宮沢賢治がどれほど有名な作家であるか、知っているわけです。

その宮沢賢治の幼少期から無名時代を順々にたどっていきながら、新しい賢治像を作りあげるという離れ業をやってのけたわけです。

こちらは彼の生い立ちや様々な葛藤、そして何より結末を知っているだけに、後半はもう涙でぐしゃぐしゃでした。

妹トシとの関係もいい。トシもまた明治の女というよりは現代的な自立した女性として描かれています。

賢治のあのトランクも登場します。羅須地人協会も。

実は20代初めに、宮沢賢治の足跡を訪ねて花巻に何度か行ったことがあります。

宮沢賢治記念館ができるよりずっと前のこと。宮沢清六さんがまだ健在で、訪ねていったら会ってくださいました。訪ねてくる賢治ファンが多いのでしょう。賢治の手書き原稿を見せていただいた記憶があります。半世紀も前のことです。

宮沢賢治全集も持っていたけれど数年前に全巻手放してしまいました。あれは手放さなければよかったとちょっと後悔しています。

宮沢賢治は私にとっても大きな出会いでした。「天気輪」も宮沢賢治から拝借したわけだしね。

というわけで、新しい解釈の宮沢賢治ではありますが、賢治ファンが見ても納得のいく映画。また宮沢賢治をよく知らない方にもお勧めの素敵な映画です。

コメント
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