夏木広介の日本語ワールド

駄目な日本語を斬る。いい加減な発言も斬る。文化、科学、芸能、政治、暮しと、目にした物は何でも。文句は過激なくらいがいい。

英語の7月と8月の由来の東京新聞の説明はおかしい

2009年03月05日 | Weblog
 東京新聞の「教育に新聞を」(Newspaper In Education 略称 NIE)の英語の質問箱(3月3日)に、英語のSeptemberは9月だが、元々は7月だったそうで、それはなぜなのか、との質問に対する答の形で7月と8月の由来が載っている。
 September、October、November、Decemberのそれぞれsept、 octo、 nove、 deceは欧米の各国語で綴りの多少の違いはあるが共通で、7、8、9、10を表している。本来はそれぞれ7月、8月、9月、10月だったのだが、ユリウス・カエサルが7月に自分の名を割り込ませ、アウグストゥスが8月に自分の名を割り込ませてしまったので、以降、順に2カ月ずつずれてしまった、と説明している。

 確かにそれは正しいのだろうが、二つの月が割り込んだと言うからには、じゃあ元は一年は10カ月だったのか、との疑問が出る。元から12カ月だったのなら、消えた2カ月は何だったのか。そして1月から6月までは元々の数字のままなのか。
 こうした疑問が当然に出て来るはずなのだ。だが説明は「いつの時代にあっても権勢欲というか自己顕示欲が強いものですね」で終わってしまっている。なんじゃ、これ、である。執筆者は翻訳家で河合文化教育研究所研究員とある。なのに、これでは説明になってないじゃないか。

 古い暦では1月から4月まではローマ神話の神々の名に因んで付けられていた。
1月 マルス Mars
2月 アプロディテ Aprodite
3月 マイア Maia
4月 ユノー Juno
 見ての通り、英語のMarch、April、May、Juneである。しかしこれらは現在は3月から6月である。ここにも2カ月のずれがあるではないか。
 2カ月ずれたのには次の理由がある。
 11月はローマ神話のヤヌスJanus、12月は同じくフェブルウスFebrusの名に因んで付けられていた。11月はJanuarius、12月はFebruariusである。ヤヌスは門の神で、ローマの鍵を持ち、戦時には扉を開き、平和時には門を閉じるとされた。二つの顔を持って常に前と後ろを見、敵と味方を見、過去と未来を見ていた。
 マルスは軍神である。ローマは戦争によって国土を広げて行った国だ。従って、マルスが一年の始まりを受け持っていたのである。
 当時は人間の活動が始まる春が一年の始まりで、春分から一年が始まった。それが春分を年初にしなくなり、門の神であるヤヌスを年初の神とするのがふさわしいと考えられるようになり、11月と12月が年の始めに割り込んで、3月以降がずれたのである。これが改訂したヌマ歴で、それは紀元前153年の事とされている。

 さて、これで現在の1月から6月と9月から12月が揃った。抜けているのは7月と8月である。その2カ月がユリウスとアウグストゥスだと言うのがこの記事の説明である。二人が割り込んだために2カ月のずれが生じたと言うのだが、そのもっと前から2カ月のずれは生じていたのである。
 その7月と8月の元々の名前は7月がキンティリスQuintilis、8月がセクスティリスSextilis。これがラテン語の5と6であるのは2カ月ずれているからである。
 つまり古い暦(ヌマ歴)では1~4月はローマ神話の神、5~10月はラテン語の数字、11~12月はローマ神話の神だった。その改訂歴(ヌマ歴の改革)では1~6月がローマ神話の神で、7~12月が2カ月ずつずれたラテン語の数字なのである。
 キンティリスがユリウスになり、その後、セクスティリスがアウグストゥスになったのである。割り込んだのではない。取って代わったのである。

 以上の話は『暦と占いの科学』(永田久 新潮選書)の説明を基にして、私なりに整理した。9月から12月が2カ月ずれている理由として十分に通用し、何の疑問も残らないはずである。私は一介の編集者。教育研究所研究員より正しい説明が出来るのはおかしいのではないのか。短い説明では無理だ、とは言わせない。二人の権力者が割り込んだがためにずれたと結論付けているのは明確に間違いなのである。
 もっと前からずれていて、二人の権力者が古い月の名とすり替えただけの話だと簡単に説明出来るはずである。これが間違いだとするなら、正しい説明を是非ともお聞かせ願いたい。