俗物哲学者の独白

学校に一生引きこもることを避けるためにサラリーマンになった自称俗物哲学者の随筆。

完売

2016-07-08 09:50:41 | Weblog
 商売において「完売」は望ましいことだろう。売れ残らなければ粗利益率が最大になる。需要を正しく予想して必要数を適切に手配したからこそ完売に至る。ところがコンビニ業界では完売を余り高く評価しないそうだ。少しだけ売れ残る仕入れのほうが「機会損失」の無い商売として高く評価する。
 90個仕入れて完売した場合と100個仕入れて1個売れ残った場合の粗利益額を比較すれば次のようになる。なお売価はa、粗利益率30%(原価率70%)として試算する。
 90個仕入れて完売した場合の利益はa×90×0.3=27aとなる。一方100個仕入れた場合はa×99×0.3-a×0.7=29aとなる。確かに1個売れ残った場合のほうが粗利益額は大きくなる。だからコンビニ業界では売れ残りを余り気にせず残った商品は惜しげもなく廃棄することが商慣習として定着している。しかしこの試算は正しいのだろうか。大きな見間違いがあるように思える。
 この試算では特定の商品が完売になればそれを目当てにして来店した客は買わずに帰ると仮定しているが「たかが」コンビニで消費者がそんな購買行動を取るとは思えない。おのぎりAが売り切れていればおにぎりBやCが売れ、それらまで売り切れていればDやEが売れるだろう。Aが売り切れても機会損失には直結せずB~Eの販売増に繋がるのではないだろうか。完売は必ずしも丸々機会損失には繋がらない。
 完売を咎めるのはフランチャイズ店に少しでも多く仕入れさせようという本部側の悪巧みなのではないだろうか。各店は本部に騙されて過剰仕入れを強いられて廃棄ロスを負担させられているのではないだろうか。
 これとは全く違った完売がある。所謂プラチナチケットがそれだ。受け付け開始からほんの数分で完売するから買い損なった人はたとえ多少割高であろうとも改めてネットやダフ屋から買う。このケースでは、宣伝効果を狙ってわざと安目の価格設定をしているからこんなことになる。プレミアが付くのは希少価値がある商品に限られる。即・完売という事実が宣伝効果を持つから購買意欲を煽って次回以降の販促に役立つ。おにぎりAではこんなダフ屋ビジネスなど起こらない。特定のおにぎりが完売しても他のおにぎりで充分に代替できる。
 価格は、需要と供給のバランスに基づいて市場で決められる。市場で決まる価格のほうが「定価」よりも正当な価格だろう。ホテルのディナーショーであればホテルの格と芸能人の人気によって決まるからそれぞれの価格は千差万別であり、開催前に売れ残っていればダンピングもあり得る。価値が正しく価格に反映されていれば即・完売ということにはなるまい。即・完売とならない価格設定のほうが適正価格であり、こちらのほうが健全なビジネスだろう。