金属中毒

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プロポーズ小作戦103

2009-09-13 12:13:04 | コードギアス
プロポーズ小作戦103
2021年2月10日


それはジノが言ったからですか


言わなければ良かったと思うことがある。一生の悔いになる言葉がある。
だがたいていの場合、そういう言葉は言わずに終わることはできないものだ。
ある程度の年齢になるとそれがわかってくる。

若かった。言った方も若く、言われた方はさらに若く。
どちらもそういう言葉をどう処理していいか知らなかった。





ニコバル諸島での紛争未満が一応の決着を見た後、星刻は洛陽に戻った。公館に戻るとすぐ老齢の元女官の訪問を受けた。天子が会いたがっているという。
奇妙な話である。内容がでは無く伝達方法が。もし私的に早く会いたいなら直通電話を使えばいい。公的なら専用回線なり、公式な使者なりを使うべきだ。
もちろん会いたいという内容に異存があるわけではない。状況さえ許せば星刻は一日中でも天子の傍にいたいのだから。
ただ、天子の意思によっては公的訪問か私的訪問か区別せねばならない。
引退した元女官、公とも私ともいえない使者。
どう判断すべきか?

結局星刻は公的訪問を選んだ。どちらにしても帰還報告をせねばならない。
高級文管や女官達がずらりと並ぶ中で10メートルの距離を離して膝をつく。
現在この国で星刻が膝を屈するのは天子ただ一人。
数年前は大きな椅子の上にちょこんと置かれたアンティークドールであった天子だが、最近は身長も伸びたしそれなりの自覚もできたゆえか威厳らしきものを感じさせるようになった。
(ここまで来た)
ふいにそんな言葉が星刻の胸を満たす。
幼い天子に救われ、星達の立会のもとで誓いを立てた。あの日々からもう10年。あの頃の愛らしさけがれ無さはそのままにたとえようもなく美しくご成長された。
(もう少しです。もう少しで安全で平和な国を天子様に)

膝をつきうつむく星刻に天子が言葉をかける。
この報告は形式的な言葉をやり取りするだけである。
いずれはこれも改善するべきだが現状はまだそういう方面まで手が回らない。
なにしろ、あの悪逆皇帝に新生中華の中核となるはずだった1000人にも及ぶ文人を瞬殺されてしまったからだ。
星刻としては自分一人が助かるよりも、あの同士1000人が生きていてくれた方がよほど中華のためになったのにと、かの悪逆皇帝に苦情を呈したいほどである。

形式的な報告を終え控室に戻るとまた天子からの使者が来た。
下人時代は天子様の御用という一言で簡単に奥の宮に入れたのに、階級が上がった今では逆に不自由になった。
使者に導かれようやく中の宮の一室に入る。そこは偶然ながら天子がジノとお勉強していた部屋であった。
後になって思えば場所が悪かったのかもしれない。

「天子様」
星刻は無意識に(天子様専用の)この上なく優しい表情になる。
いつもなら天子はその星刻に飛びついてくる。あのちょっと巻き舌の丸い発音で「しんくー」と呼んで。
その手ごたえが少しずつ重くなって最近では柔らかくなって、星刻の至福の時間となっている。
しかし、今日は違った。
「星刻」
天子の声が固い。いつもの蕾がほころぶような微笑みがない。
(何者が天子様のお心を傷つけたのだ?!)
星刻の手は無意識に剣を探す。
そんなやからは私が処分する。
処分すべき対象が自分であることに星刻は気がつかない。

「星刻」
「はい、天子様」
固い声と優しい声が交差する。
天子は大きく深呼吸する。
それを慈父の表情で星刻は見ている。
「星刻」
「はい、天子様」
ようやく想いを決めたのか天子が声に力を込めた。
「どうして殺してしまったの。あの人たちは悪い人たちとは違うのに」

プロポーズ小作戦102

2009-09-13 00:04:18 | コードギアス
プロポーズ小作戦102
2021年2月10日

ゆるゆると撤退する両軍。
その動きに変化が起きたのはキイーンという特有の張りつめた音を聞いたから。
飛行型のナイトメアに特有の音。慣れたものなら音だけでその機体がどの世代に属するかわかり、さらには個々の機体まで識別する。

ランスロットいや、零の音か。スザク・ゼロまで呼んだとはナナリー皇帝は本気で介入したいらしい。
裾が長すぎて歩きにくい伝統衣装を左手で軽くさばいて星刻は音の方を見上げた。
漆黒の機体がすぐに近づいてくる。
黒、ナイトメアにこの色を使えるのはゼロただ一人である。
零はゆっくりと降り立った。神虎と背中合わせに位置に。

ゼロが降りた。特にポーズを付けることなく仮設基地に歩きだした。
ゼロになりたての頃のスザクはゼロらしくポーズを決めようと努力したのだが、内心の気恥ずかしさが出るのかどうしても様にならなかった。シュナイゼルはゼロらしい決めポーズを50種類も作り演技指導も熱心にしてくれたのだが・・・そういう点間違いなくルルーシュの兄だなぁとスザクは思った。
結局鞘を持つ国を中華に変えた時から、無理な演技はやめた。


このとき全員の目が仮面の英雄ゼロに集まっていた。
その為に数十人の者が動いたのに、警備兵の反応がわずかに遅れた。

撤退中のインド藩王軍の一角が不意に崩れ、勢いのまま仮設基地に流れ込んで来る。
これは本来インド藩王国連合軍の司令官が掣肘すべき構図である。しかし、流れ込んできた重装兵士の一群が最初に攻撃したのは、当の司令官であった。
星刻は反射的にシュナイゼルを奥に押しやった。この場合個人的な好悪感情よりも軍人としての反射が先に立った。後で星刻が惜しかったと思ったかどうかは想像に任せる。
星刻は剣の使い手として高名だが、銃の名手でもある。当然撃ってくると見て兵士達は遮蔽物に隠れた。
しかし、この日星刻は丸腰であった。

時間にしたら1分足らずであった。奥に押し込まれたシュナイゼルが警備兵を呼ぶ。その声が銃声にかき消される。
硝煙と血の匂いが混じる。軍人にとってはなじみの臭いが空間を満たす。
十数発の銃声が重なる。
その交差する位置に星刻はいた。
銃弾から逃げ切れないことを星刻は瞬時に悟る。
こういうとき訓練された軍人の脳は恐るべき速度で情報を処理する。敵兵の位置や銃の角度から銃弾の軌跡を計算する。
致命傷にはならない。
淡々と星刻の脳は計算結果を出す。
星刻は動かない。そもそも人間の神経や筋肉の構造からして、脳の計算速度に追いつけるはずはない。

覚悟していた痛みは起きなかった。
代わりに足元の感覚がなくなった。
見慣れた黒い仮面がすぐそばにある。

銃声に反応してオリンピック記録を塗り替える速度で走ったスザクは、仮設基地の薄い壁を剣で一閃。そのまま剣を上に投げ、星刻を抱えて跳んだ。自由落下した剣は見事に敵兵の胸を貫いた。

噴出した血が呼び水になり、シュナイゼルの警護兵が飛び込んできて2分間でインド兵を撃ち殺した。


仮設基地内が騒然とする。
このときインドの司令官が死んでいれば、世界は再び流血の時代を迎えたかもしれない。
不幸中の幸い。老齢の司令官は軽傷であった。
すぐにゼロの指揮のもと生き残った犯人への尋問が行われる。
致死量を超す自白剤を打って聞き出したのは、この行動は彼らの宗教が原因であった。
復讐の女神ネティス、インドでの呼び名をガルラ女神。
あらゆる恨みの復讐を担当する女神。
驚いたことにこの行動にでた兵士達の復讐の対象を動機もばらばらだった。
殺害対象も目的も動機もそれぞれ異なる。
こういうテロは対応に困る。自殺目的のテロのほうがまだ扱いやすい。


シュナイゼルは何事もなかったかのように、優美に紅茶のカップを持ち上げる。
この優美さこそが皇族の最大の強さである。
この優美さの強さを星刻は持たない。
星刻がシュナイゼルを意識している理由の一つにコンプレックスもあげられる。



今回の紛争で星刻は全体に低調であった。政治的にインドに後れをとり、ブリタニアの介入を許し、さらにテロの現場で判断を誤りあやうく重症を負うところであった。ゼロがかばったので無事だったが軍人としてのプライドを大いに傷ついた。

そういう精神状態で会ったのがいけなかったのか、星刻は洛陽に戻ってからの天子との会話で自分でも許せないようなことを口にしてしまうのだ。