5月25日は旧暦の釈迦誕生日でした。
宿を移動し部屋に落ち着きコーヒーを淹れて、面白いドラマでもやって
いないかと電源を入れたら、たまたま映った画面に韓国の高名な僧侶、
法頂(ポプチョン)スニム(スニムはお坊様を意味する韓国語、以下
法頂さんをスニムと呼びます)とチョン梅農園のホン・サンニさんが映し
出されてびっくり!
番組はほとんど終盤で、釈迦誕生日の特番であること以外、何も分から
なくてとても残念でした。ホンサンニさんとスニムというと2年前の春3月、
光陽(カンヤン)にある農園の梅花祝祭を訪ねた時を思い出します。
ソムジン川を望むチョン梅農園(2013.3.20)
農園内にある売店に、大きな写真集が2冊置かれていました。何気なく手に取り
ページを繰っていくと、ホンサンニさんがご縁を結んだ方について書かれたエッセー
とチョン梅農園の写真がコラボレートされていました。
その中にスニムについて書かれた頁があり、法頂さんとホンサンニさんが知己で
いらっしゃったことを知りました。
梅の花が見事に咲くと、スニムは後ろ手を組んでここへいらしたものだ。何しろ梅の花が
お好きで、あちこちへいらっしゃるが、美しく、たくさんの(花が咲く)私の畑が、スニムの
お気持ちをすがすがしくするのだろう。「あのてっぺんに全部梅の花を植えて、ここを
天国にしましょう。心に滓のある人が全部捨てていかれるように。」どきっと怖くなって、
「私できません」と言ったけれど、私がやるべきことだと思ってその後、栗の木を伐りとり
その場所へ梅を植え、九節草を植えた。(以下省略)
山全体が梅の木で覆われたホン・サンニさんの梅畑、元々はシアボジ(義父)の
畑で、そこには栗も植えられていたそうですが、スニムの提案で一面梅畑にした
ことが分かりました。
スニムがいらっしゃると、竹を割ったようなご気性にお似合いだと思って、白い器に
銀のお箸とスプーンを添え、必ず落花生のお粥と白キムチをお出ししてもてなされ
たそうです。おいしそうに召しあがる姿がありあり浮かぶと、春逝かれたスニムとの
お別れを嘆いていらっしゃいます。
ぺ・ヨンジュンが、家族(ファン)が韓国文化に親しめるように書いてくれた本、『韓国の
美をたどる旅』は、元来韓国を旅することが楽しみだった私に、旅の中で彼が訪れた
土地を訪ね、かの人がその地でどんな思いを抱いただろうかと想像しながら旅をする
という新たな楽しみを生んでくれました。個人旅行ですから行きやすい場所に限定され
ますが、発行後6年まだまだ行きたいところがあります。
さてスニムに話を戻しましょう。スニムは、著書に登場されてはいません。
本を書きあげるなかで、彼が強く抱いていつも立ち返っていたイメージのようなもの
それを知りたくてたずねた吉祥寺で、法頂スニムに出会いました。
本づくりに深くかかわってくださった、吉祥寺の和尚様への関心から訪問したのでした
が、以来和尚さまはすっかり影をひそめてしまいました。
吉祥寺は元料亭だった建物を、法頂スニムに心酔した料亭の主人から寄贈され
1997年に寺院登録されたものだそうです。
スニムは1994年にご自身が中心となって創設した市民集会‘清く香しく’の活動を
吉祥寺の開院とともに同寺を根本道場に本格化、『この集会は「心を清く香しく」
「世の中を清く香しく」「自然を清く香しく」をスローガンにソウルをはじめ釜山、大田、
光州他の主要都市で、個人の啓発、社会浄化、社会福祉、自然保護の具体的な
活動を展開している』(法頂著『清く香しく』訳者あとがきより)
スニムは俗世を離れ江原道の山奥の質素な小屋に一人暮らし、たまに集会に出て
なさる法話や月に一篇書く文章を通じ世間とのつながりとされたようです。
吉祥寺に訪ねたときで、既に他界されて2年後のことでした。直接お話を聞く機会を
持てず残念でしたが、それはスニムにお叱りを受けそうな욕심かもしれません。
(合掌)