鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

虫と人に会いに京都、大阪へ。虫愛ずるイベント当日編

2011-06-13 21:25:48 | 日記


 よく考えてみれば、というよりちょっと考えてもわかることですが、
「京都と虫」というのは常識的にみればミスマッチ以外のなにものでもない。

『虫愛ずる1日 in 京都』などというタイトルのイベントに、
いったい何人の人が興味をもって足を運んでくれるのだろうか?

しかしさらに考えてみると、
かの『堤中納言物語』のなかで燦然と輝きを放つ一篇『虫愛づる姫君』は、
京の都で栄えた平安文学作品のひとつ。
そう、その昔平安京で、虫を愛ずるという行為の風雅さというものがまず見出された
という歴史に思いをはせれば、
虫のイベントが京都で行われるということに、
ちっともちっとも、不思議はないのです。

 さて、6月4日、虫の日。
6時起床。ホテルで朝食。
8時、ロビーで赤穂からはるばる駆けつけてくれた、
トークイベントをいっしょにする有吉立さんと再会。
すらりとスタイリッシュ、凛とした雰囲気のこの女性が、
よもやゴキブリ100万匹と90種の虫を管理する仕事をしている人だとは、誰が想像できるでしょう。
 昨年10月、赤穂の海辺に建つアース製薬研究所飼育棟にお訪ねして以来の再会。
分けていただいたミナミアオカメムシのその後の様子など、
バスのなかで積もる話をしている間にガケ書房に到着。

 全員が集合したところで、準備に突入。
 トークの開始は10時・・・・・・1時間でできるだろうか?
そしてなんと山下さんから、「今朝、申し込みが31名になりました」と。
イスが足りません・・・・・・た、たち見?!


 本や書棚を動かして、
なやカフェからもイスが運び込まれ、
スクリーンを設置して、
PCで画像を映すテストをして・・・・・
みんな必死に動き回って、
9時45分には、最初のお客さんが入ってきたのでした。

 朝10時というとトークイベントの開始としては早いと思うのですが、
なんと申し込みをした方全員がいらしてくれました。

(三浦夕香理さん撮影)
右の書架の向こう側にも同じようにお客さんが,ぎっしり。


圧倒的に女性が多い中で、7名の男性の姿も。
6名の方はイスがなくて立ち見になり、もうしわけない気持ちでした。
 後できいたところによると、有吉さんの地元赤穂からおふたり、
ほかにも東京、神戸、大阪、滋賀などなど、
遠くからおいでくださった方もいて、うれしい驚きの連続でした。
 

 さて、『虫の愛で方 三人三様』というタイトルのトークですが、
池内美絵さん、有吉立さん、そして私の間で、
だいたいどんな流れでどんな話をしよう、という打ち合わせはしていました。
この日会場に集まってくださった方々もそうだと思うのですが、
ひとことで虫が好きといっても、人によって楽しみ方はさまざま。
女子は標本をつくったりコレクションしたりという死骸愛好よりも、
生態を観察する生体愛好家が多いようですが、
私たち三人は、特に好きな虫も、虫との付き合い方も違う。
だけどなんとなくお互いの虫の愛で方に共感できて、
それでときどき会いたくなったり、虫を交換したり(私は主にいただくばかりですが)、
ということをやってきました。

 日ごろどんなふうに虫との付き合いを楽しんでいるかとか、
これから飼育してみたい虫は?とか、
私はこの春から見つけた虫の写真や、
連れて行ったゴマダラオトシブミを見てもらったり。

 有吉さんは、2種類のゴキ○○と、カラフルなミナミアオカメムシ、
そして美麗昆虫の代表としてニジイロクワガタの夫婦を、赤穂の研究所飼育棟から連れてきてくれました。

気になる2種のゴキ○○ですが、どれにするか、事前に3人でじっくり話し合いました。
あんまり怖いものを見せたくないので、ゴキ○○は地元の代表ということで小柄なキョウトゴキブリと、
翅がなくて飛ばない、しかも性格がのんびり(池内さんによる評価)している、
ゴキ○○界の人気者マダガスカルオオゴキブリの2種が選ばれたのでした。

 あっという間に過ぎた1時間のトークの後は、
虫を手にのせたり、写真を見たりと大賑わいのひととき。


(三浦夕香理さん撮影)

有吉さんが持参してくれた虫はつぎつぎにお嫁入りしていきました。
オーストラリア産ニジイロクワガタは、なかなかこんな大物スターを飼うチャンスはないから、

妊娠していると思われるメス。


華美の限りをつくしているオス。

と私がいただきました。

オス「ぎゃー、だれか~ ヘルプ!」
止まり木がないとすぐにひっくりかえって
華麗なおなかを見せながらジタバタ。
なかなか起き上がれません。

しかし、ゴキ○○は嫁に行けないだろう、という予想に反し、
マダガスカルオオゴキブリの人気はさすがで、
手にのせたままなかなか離さない人も。
背中を押すと、鳴くんです、「ぎゅーっ」みたいな愛嬌のある声で。
やはり何に於いても人気者というのは、どこか人の心をつかむ魅力をもっているものなんですね。
有吉さんの飼育下では無菌状態で育てられるので、きわめて清潔。
こんなふうに手にのせてもばい菌を移されることはありません。

(三浦夕香理さん撮影)

そして、そのうちのおひとりが連れて帰ることになったのです。
でも彼が虫苦手とか。
えっ、大丈夫?
と訊くと
「うーん、とりあえず、
マダガスカル産のすごく珍しいダンゴムシということにしておきます」というのですが・・・・・・
そ、それ、かなり無理があるんじゃ・・・・・・・・・・・・。

マダゴキが不和の原因にならないことを、
彼がうまくだまされてくれますように
心より祈らずにはいられません。

 お昼になったので、向いのなやカフェに移動。

ここも25人くらいの参加で、なやさんの店内はテンヤワンヤの盛況。


そして気になる虫の日ランチのメニューは・・・・・・・・

天然酵母の手ごねパン、クリームチーズのイモムシ仕立て添え(イモムシは入っていません)

クワの実のジャム


ハチの子入りのパテ

左の小皿にのっているのが、ハチの子の塩焼き。(三浦夕香理さん撮影)

ジャガイモとエンドウ豆のスープ
繭に見立てたクッキー。クワの実入り。

(三浦夕香理さん撮影)

石挽き豆コーヒーかチャイ

という
ムシの日の気分をおおいにも盛り上げてくれるものでした。
私はハチの子の塩焼きはパス(ごめん!)してしまいましたが、
けっこうみなさんの手は出ていました。
それにしても、なやさんのパンのおいしいこと!
風味が複雑で深くて豊か。
パンをほおばりながら、私はきょうここに来てくれたひとりひとりと、話しをすることにしました。

店のまわりもいい雰囲気。

東京からはるばる来てくれたイラストレーター、陶芸家の宇佐美朋子さんは、
この日のためになんと知り合いのネイルアーティストにルリボシカミキリのネイルを描いてもらったという!


そして、手作りの虫クッキーのおみやげまでみんなに用意してくれていたのです。

宇佐美さんの虫イラスト入りのブログ、http://days.usamitomoko.com/
必見です!

 なかには「あ、こんどいっしょに虫探し行きましょう」と、虫友達ができたらしい人たちも。
そう、女性は特に、山道などでどっぷり虫目になっていると、無防備になりがちなので、
いっしょに歩ける友達がいるといいのです。
この場でそんな出会いがあるといいな、と思っていたので、
相棒を見つけた人がいるのを知ってすごくうれしい。

 みんなのおなかもいっぱいになったので、
イベント第3部、吉田山観察ワークショップへ出発。19人が参加。


 15分ほどみんなでおしゃべりをしながら歩いて山道の入口にさしかったとき、連絡があり、
観察会だけ参加という人がここで、7人も加わることに!

(三浦夕香理さん撮影)
山道の手前で、チョウ発見。

裏羽だけしか見えないのだが、さっき飛んでいるときにちらっと見えた黒と白の模様からするとコミスジか。

『むし探検広場』http://insects.exblog.jp/d2011-05-03/
の園長さんより「これは関東では見かけないが
関西ではけっこう飛んでいるホシミスジです」と教えていただきました。



 さて、きのうたった1回登っただけの吉田山です。
『虫愛ずる一日 in 京都』というイベントの一環として、
近くの山で観察ワークショップをやってみよう、と思ったのは、
まず自分自身が虫を見つけに歩きたかったから、という単純な欲望からはじまったこと。

そしてもうひとつの理由は、
いままで取材でカメラマンや編集者と、
また「虫さがしに連れてってください」という知り合いと虫目で歩いたとき、
私が虫目で歩いていて虫を見つけはじめると、その人たちも、
いままでは目に入らなかった小さな虫の存在に気がついてくれて、
そういうとき人は、びっくりするほどうれしそうで、活き活きするというのを見てきた、というのがありました。


 せっかくのイベントなのだから、来てくれた人と虫目で歩いてみたい、
という気持ちで挑戦した観察ワークショップ。
さて、はじめてみると、
虫目ペースで歩き出した私のまわりで、あちこちから
「この虫、なんですかあ?」と声が上がり・・・・・・・

(三浦夕香理さん撮影)

そう!参加者がみんなそれぞれ自分で虫目になって、つぎつぎと見つけたものを教えてくれる!

ふつう観察会というと、○○自然園の指導員とか、農学部の先生とかネイチャーガイドとかの専門家が引率して、
「はい、ココに見える小さいつぶつぶ、なんだと思いますか?これはアオスジアゲハの卵なんです。
ほら、この葉っぱの裏に幼虫がいますね」などと、熟知したフィールドの見どころを案内し、説明していく。
でもきょうの参加者たちは、自分の目でつぎつぎと、初めてみる虫を探してきてくれるのです。
その声は弾んでいて、どの虫目もうれしそうに輝いています。

 葉っぱの上にジョウカイボン。この時期によく見られる虫です。



 私も初めて見たマエアカスカシノメイガ。

きれいですね。このガは鱗粉が少ないので、翅がこのように半透明なのだそう。

 木の枝の葉っぱの上になにかいる、という声で枝を下げてみてみると


なんとゲンジボタル。

 虫の死骸に群がるシデムシを見ようと

人も群がる。

(三浦夕香理さん撮影)



 笹の枝には、孵化したばかりのジョロウグモの1齢幼虫が500頭くらい。

(三浦夕香理さん撮影)

 枯葉のあいだにいたのは白粉を塗った下がり眉の人面模様のような背面のアオオニグモ。


 山頂の東屋の前の階段で、遠足風の記念撮影。

数えてみたら、(写真を撮ってくれている三浦さんと、胸に抱かれた赤ちゃんもいれて)27人いました!


 早朝からのイベントなので軽めにしておこう、
ということで帰りは近道で下山して解散。
イベント第3部まで、すべて無事終了したのでした。
朝もはよから、虫愛ずる一日にお付き合いくださったみなさま、
ほんとうにお疲れさま&ありがとうございました!

 
「なんか冷たいもの、のみた~い」と叫びながらガケ書房にもどると、
なにやら店内、店外とも、人でいっぱい。すごくにぎわっています。
ここは人が足を運びたくなる、愛されている書店なんだなあ、
ということが一目瞭然なのでした。

 入口のもぐらスペースの池内さんのヤスデ屋さんにも、
次から次と人が訪れています。
外壁から突き出した車の向こう側に置かれたイス周辺にも人が集まり、
京都左京区の夕暮れどき、ガケ書房はまるで店全体が、
ゆったり、楽しそうに息をしている有機体のように見えるのでした。


3人で「またやりたいね」と記念撮影。

 さて、3日目は、東京へ帰る前に、
大阪箕面(みのお)の昆虫館へ行きます。
池内さんとの待ち合わせの1時間以上も前に箕面に着いてしまった私は・・・・・・・。
「虫と人に会いに京都、大阪へ」まだつづきます。