鈴木海花の「虫目で歩けば」

自然のディテールの美しさ、面白さを見つける「虫目」で見た、
身近な虫や植物の観察や飼育の記録。

卯の花におう

2010-05-18 09:50:41 | 日記

 週末に八王子の知り合いの家を訪ねました。

古くて大きな、縁側のある家。

縁側って、世界に類をみない日本建築のすばらしいアイディアだと思う。

ベランダともバルコニーとも違う、室内と外(人と自然)を濃密につなぐ場所。

豆のサヤをむいたり、

梅酒用に梅を選別したり、

ちょっとした針仕事をしたり、

緑をながめながらお茶したり、

干し柿をつるしたり、

折り紙したり、

月をながめたり、

花火をしたり、

思い出にふけったり・・・・

もういろんなことがここでできちゃう。  

でも今では多くの日本人が

「縁側」を失ってしまった・・・・・・。

 

 この日も室内よりも縁側で、とお願いして、足をぶらぶらさせながら、美味しいお茶とお菓子をいただきました。  

 ふと庭の向こうの生垣に目をやると、

そのあたりには白い花が今を盛りと咲いていて、

なにやらほのかな香りがするような気がする。

「あれは何の花?」ときくと、「卯の花」と。

 平岩弓枝の『御宿かわせみ』シリーズに、『卯の花かおる』という一篇があります。親の仇討ちをする青年が、仇を前にしたとき、あたりに満ちる卯の花の香りに、仇討ちを思いとどまる、という話。

「仇も、仇を討とうとするものも、同じ卯の花の匂いのなかにいた・・・・」という、シリーズのなかでも心に残る名篇です。 

 それで・・・卯の花のにおいって?とずっと気になっていたのです。仇討ちを思いとどまらせてしまうほどの、いい匂いって、いちどかいでみたいものだ、と。  

 ああ、これが卯の花の匂いか・・・金木犀とか沈丁花とかのはっきりした芳香とはちがう、あたりの空気に溶け込むようなごくかすかな香り。とうっとりしていると、アオスジアゲハが蜜を吸いに飛んできました。

 早く飛ぶのでなかなかクリアな写真が撮りにくいチョウですが、きょうは夢中になって蜜を吸っているところが、白い花がレフ版効果を生んで顔までちゃんと撮れました。

 卯の花の和名は「ウツギ」。ウツギはアオスジアゲハの食草です。  

 あ、花の奥にハナムグリがいる。

 すると、もう1匹のハナムグリが、いい娘みっけー、という感じでびゅーんと飛んできて・・・・・・

 

「きゃー、いきなり何するのよぉ!」

 

やっぱりいきなり、っていうのはね、いくらハナムグリでも。

 まずは、卯の花の蜜のお茶を飲みつつ

語らいなどすることからはじめることにしたようです。

 でも「ハナムグリ」って、きれいな名前。

ハナムグリさん、なんて呼ばれてみたい。

人間じゃこの名前はムリでしょうか。    

 

 家の裏にはちょっとした雑木林があるというので、帰りに寄ってみました。

葉っぱの裏にぶら下がっている丸いかわいいものは、クモの卵だとおもう。  

 

 コナラの枝には小さな虫の落とし文。

なぜか枝から切り離されていません。

一枚の葉っぱを使って、タマゴをこんなにきれいにきっちり包装するなんて驚きです。ぜひこんどは作業中のオトシブミを見てみたいものです。

  あ、ウスキホシテントウ!

図鑑では見たことがありますが、

実物に出会ったのははじめて。

4ミリくらいの小さなテントウムシですが、

ドットの散らばりかたも色のバランスも、とてもステキです。

よく見てみるとほんとうに種類が多くて、

テントウムシ観察はなかなか奥が深いです。

 

 こんどはすぐ近くのヤマグワの葉に、

1センチくらいの大きさのヒメツノカメムシを見つけました。

お肌つやつやぴちぴちの、若さはちきれそうなメス。

 最初、写真を撮ったときには気がつかなかったのですが、

彼女のおなかの下には、ミントグリーンのきれいなタマゴが!!!

 そこへ、悪もの(?)のアリが、

背後から近づき、タマゴを狙っている。

 

ツノヒメの若いお母さんは、すぐに臨戦態勢にはいると、

アリを撃退しようと果敢に戦います。

 

 あ、アリがずうずうしく、体に上ってきた!

おかあさん、危ない!

タマゴをおなかの下にかばいながら、それでもなんとかアリを撃退。

母卵ともにぶじで、よかった、よかった~

すぐそばで見ている私の鼻には感じられなかったのですが、

たぶんヒメツノのおかあさんは、カメムシの最強武器である

臭いにおいも出してアリを撃退したのではないでしょうか?

 

 ヒメツノの孵化と変態は見たことがないので、

ヤマグワの枝と共に採集することにしました。

家の近くの原っぱのふちにも、ヤマグワがあるのを覚えていたので、

なんとか食草を確保できそうだから。

 

  このおかあさん、家にきてから、片時もタマゴの上を離れません。

飲まず、食わず、動かず。

本能による行動とはいえ、見ていると心うたれるけなげさです。

でもごくたまに、体を横に傾けています。

同じ姿勢をつづけて肩がこったのか、

あるいは睡眠中?

そういえば、虫の睡眠ってどうなっているんでしょうか?!

これから孵化と変態がどんな風に進むのか楽しみです。

 

 卯の花を見たきょう、

『うーのはなーの におうかきねに

 ほぉととぎーす はやもきなきて

 しーのびぃねもぉらぁすー  なつーーぅはきーぬー』

 という童謡も思い出しました。