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イスラミック・ブルー

スペイン、エジプト、イラン、トルコ、チュニジアへ、イスラミックな旅へ。
スペイン/地中海レストランガイド

涙のマグレブ(モロッコ)

2009-01-21 21:18:18 | プロローグ

 フラメンコの靴音が耳の向こうにこだまし、
 断片的に見える世界を追いかけ、
 アンダルシアからジブラルタルへと向かった。

 足取りは重く、垂れ込めた雲がのしかかってくるような空、
 海峡を渡ればすぐそこにある、希望の大地。
 多くの船会社があり、待ち時間など関係なく、すぐに乗り込める船はいくらもある。
 それなのに、私が購入したチケットは何時間も後の便。
 まるで行くのを阻むかのような空、チケット…

 夕方つく予定が、真っ暗な中降り立った。
 マグレブとは日の沈むところ。
 夕日と共に上陸の予定が、暗闇で私はどうして良いか判らなかった。
 涙。
 
 マグレブにいる間中、私は泣いた。
 悲しくて、悲しくて、悲しくて、一生分の涙を流した。
 その理由が、年を重ねるごとに、思い出してくる。
 悲しくて、懐かしくて、帰りたくて、旅を切り上げた、マグレブ。
 そして「エジプトへお帰り!」と、モロッコ人に惜しまれつつ見送ってもらい、
 アンダルシアへ帰った私。
 この奇妙な体験が、史実を知ることによって、納得できた。
 
 その昔、アンダルシアに生まれたイスラーム教徒は、
 押し寄せるキリスト教徒から逃れ、密かにジブラルタルを渡った。
 羊を飼い、同じ宗教の人々の地は、安住と思われた。
 しかしここでは、スペイン語しかわからず、
 わずかな宗教的なアラビア語だけを解し、
 キリスト教の地に生まれ、育ったことを蔑まれる。
 
 アンダルシアに帰りたい…
 もっと、安住の地であろう、メッカに近いエジプトへ行きたい…
 
 この望郷と強い憧れが、今、私の中で廻る。
 大して行きたくもないのに行ってしまうエジプトと、
 還りたくてしょうがないのに、還れないスペイン。
 
 私はどこへ…

 

 

 

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月と薔薇と青の世界

2008-05-18 22:57:13 | プロローグ

 薔薇の生まれた国へ
 
 薔薇を見にゆく
 
 その昔、アンダルシアから文学の最高峰へと出かけた人々
 
 その足跡を、ゆっくりと、
 
 月明かりの下、青いタイルに導かれ

 キャラバンサライで、私は何を見て、聴く…
 

 月と薔薇と青の国へ
 

 

 

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異邦人

2008-04-27 00:49:06 | プロローグ

 「あなたを思い出すとき、いつも流れてくるのは久保田早紀の『異邦人』」
 言われなくても、この歌を聞くと、荷物をまとめて飛び出したくなる私。

 幼い頃の私、
 高熱にうなされ、立っていることも、寝ていることも、
 全ての姿勢が苦しい、喘息に悩まされた。
 O.ヘンリーの『最後の一葉』 を思い出し、窓から見える木々の葉が、
 早く最後の一枚になり、私を楽にしてくれたらいいのにと思った。
 
 思春期の私、
 自分の居場所を確保するために、太った。
 教室の白いカーテンが、風になびくのを見て、
 時の流れを感じた。
 心の中の時間は止まったまま。

 青春の時、
 肌がただれて、血だらけの夏、
 炎症値0。
 西洋医学では、何の解決も見なかった。
 私の心は叫んだ。

 寝ていて、何かが破裂した。
 私の中で爆発した。
 もう、生きている意味が判らなかった。
 「殺してください」と医者に頼んだ。
 頭の中の血管を切った私は、
 殺された方がましだと思う痛みと一月戦った。
 

 私は、歩くべき道に気がついていない。
 過去が、私を引き戻す、
 還るべきところへ、還りなさいと。

 引き戻す力に逆らって、見えないもやもやにしがみついて、
 あなたはいつまで、己の肉体を痛めつけるのだという声が聞こえる。
 なぜ、地中海から遠く離れた、日いずる国に生まれたのかを考えなさいと。
 マグレブ(日の沈む国)の国々へ、
 自由に飛んでいかれる処へ落としたことに。

 古いアルバムに、
 濃いピンクの大判の布を頭からかぶり、全身を覆っている、
 幼い私がいる。
 細かい薔薇の地紋が入った、イタリア製の布。
 赤いものを身につけると具合が悪くなる。
 いつも、青い海に抱かれているような、青か、白い服の私が、
 まるで、ライナスの毛布のように、大事にしている布。

 母はなぜ、私の誕生に薔薇を植え、
 アラビアンナイトを読んで聞かせ、
 大きなお盆に用意したティーセットでのお茶を好んだのか?

 あなたが還るその日のために、
 ただ、それだけ。
 心の中の声は、私の痛みに反比例してそっけない。

 死ぬよりも簡単な帰還の旅は、イタリアの片田舎でつまずいた。
 「バルセロナへ行きたいの」という私の叫びに、
 「君にはアッラーがついているから大丈夫」と、
 どこの国とも知れぬ異邦人が、そう私に声をかけた。
 どこから見ても東洋人のはずなのに。

  
あなたを思い出すとき、いつも流れてくるのは久保田早紀の『異邦人』

  祈りの声 ひづめの音 歌うようなざわめき…
  時間旅行が 心の傷を なぜかしら埋めていく 不思議な道

 私は異邦人。
 この歌の不思議な道のあるところこそ、私の国。

 私は、還った。
 私の魂の玄関、バルセロナの空は青かった。
 そして、私の魂が呼ぶところへ歩みを進める。
 薔薇の花が指標となって。
 今度はペルシャへと…

 


 


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私の薔薇

2008-04-10 00:28:30 | プロローグ

 イスラームを語るのに、薔薇なくしては語れない。
 
 深紅の薔薇は、唯一神、アッラー
 白薔薇は、その使徒、ムハンマド
 庭園には薔薇が咲き乱れ
 噴水からほとばしる薔薇水の匂いが、世界を満たす
 その昔、パシャの母が見つけた薔薇油は、針の先を浸しただけで、空気を換えた…
 口にするのは、甘い薔薇の香りのシャルバト(シャーベット)

 イスラームがスペインに上陸した時、薔薇も共にやってきた。

 まだ、9歳の私。
 外国文学にかぶれ、副パイロットが、スチュワーデスをデートに誘う時持って来る、箱入りの花にあこがれた。
 この箱の中の花は、ティー・ローズと私の中では決まっている。
 いつから、どうして決まっているのか、自分でもわからない。
 お話の中の副パイロットの花は、違う花だった。

 私がよく買うのは黄色い薔薇。
 鉢植えはほとんどが黄色い薔薇。
 なぜか判らない。
 薔薇はみんな好き。
 いろんな薔薇を手に取るけれど、
 自分のために大枚はたいても買うのはなぜか黄色い薔薇。
 
 ティー・ローズ。
 薔薇を愛するものが四季を通じて、薔薇を愛でたいと願い込めた…
 人に地球を一大帝国にすることは叶わぬ夢。
 しかし、ティーは東洋と西洋の薔薇が交わり生まれた、永遠の花。
 イスラームはそれを知っている?

 神は深紅の薔薇
 預言者は白い薔薇
 人々は黄色い薔薇

 そう、黄色い薔薇は、ティーから生まれた。
 そして芳しい匂いは、世界の人々に欠かせない、まさしくお茶の葉をもんだ時の匂いに由来している。

 スペインをイメージする時、黄色い薔薇は出てこない。
 しかし、私の還りたい南の国の、碧い海。
 青い空の下、オレンジの実、泰山木の白い花、アカシヤのレース模様の葉っぱの下で、黄色い薔薇は咲いている。

 

※写真の薔薇と本文中の薔薇は関係があるか、薔薇の方がもしお読みでした、ご教授ください。


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地中海を愛する人

2007-10-07 00:34:20 | プロローグ

  昨年の今頃、シカゴの街を歩いていた私は、シャガールの大きなモザイクに遭遇した。「四季」というタイトルの四面モザイクの大作は街に溶け込んでおり、足を止めるものはいない。
 私はなぜシャガールが好きなのか?そのことについて、取り立てて考えたことはなかった。ロシア生まれの画家に、私との共通点など見出そうと思うこともなかった。
 夕暮れの中で、モザイクを眺めながら、ふと思い出したこと。
 地中海。
 晩年、彼が愛したのは地中海。
 彼の地中海に対する想いと、私の想いが、どこかで通じるのかも知れない。
 子どものころ、私の作品を撮りに来る写真家がいた。毎年、毎年、「あなたの作品は、とても良い。ファインダーを通した時、その構図と色彩のすばらしさが良くわかる」とおしゃって、時には前の年の作品の写真を持って現れた。その人に最後に会った時、「君の色使いはまるでシャガールのようだ」とおっしゃった。
 師匠には、破天荒な作品を作ると、いつも小言を言われていた。
 一年に一度、毎年の感想が楽しみで、ただ嬉しかった。私はその方がどんな方なのか、お名前なのかまったく知らぬままであることに、お会いしなくなってから気がついた。その日から、月日は一昔以上も流れた。
 
 偶然は必然。
 
 私がシカゴでシャガールに出会った意味は?
 シャガールの世界を表現するのに、私には花が必要だった。
 シャガールの花…
 彼の愛した花はどんな花なのか?
 私の答えは、今年の作品展で… 

 

 

写真は作品のパーツ。展示は2007.10.12~14東京にて。


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前世の記憶

2007-09-28 00:38:14 | プロローグ

 去年の今頃、私はペルーで懐かしいものに釘付けになっていた。
 副葬品の中にあった裁縫箱。糸巻きと、糸紡ぎが入った箱を見て、私は長年の謎が解けた。
 幼いころの私は、「昔、段々畑でじゃが芋ととうもろこしを作っていたの。畑に行くのに、糸を紡ぎながら、山を登った」と、よく言っていた。そのため、弟に「お姉ちゃん、僕のお願いを聞いてくれる?インカの山賊にだけはならないでね」と、よく念を押された。
 
 インカに惹かれる理由は判らない。
 ただ、かつて、私はそこにいた。
 そう思うだけである。
 
 あるときインドネシアの輸入商から、「あなたにこれを差し上げたくなった」と、バリ島の伝統工芸であるアタという植物の茎で作ったバックをいただいた。初めて見るそのバックが、なんとも懐かしく、私は抱きしめた。
 近頃は、どこでも売っているが、その当時は見たことがなかった。
 不思議なことに、それから後も「あなたにこれを差し上げたいわ」と、たった数時間仕事をご一緒したマダムからまたしても、アタのかごが私の手の中に置かれた。
 そんな訳で、私は自分で買わずとも、アタの製品に囲まれている。
 その謎が、ペルーで氷解した。アタに良く似た、植物の茎で作られたこの入れ物は、きっと私がこの地で最後を迎える時に、一緒に埋められたに違いない。私の大事にしていた糸紡ぎと、共に…
 そして、次に生まれ変わったのは、羊の国スペイン。征服者の船にのった魂は、たどり着いた先で、懲りずにまた糸を紡ぐ。
 イスラームときっても切れない絨毯を作るために。
 そして繰り返し、一番新しい前世の記憶をたどり、糸を紡ぎながら私は、もう一つ前の時代へたどり着いたのかもしれない。
 私の魂の糸玉をころがし、一本の糸に戻した時、始まりはいつの時代であろうか?

 

バリのアタについてはこちらをご参照ください。

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旅立ち

2005-02-16 22:11:15 | プロローグ
泰山木の花が大きな蕾をつけると、私を呼ぶ。庭の真中にある大きな大木の根元に私はいつも寄りかかっていた。木は、私を送り出す。新しい友達のところへ。学校へ。新たなところに踏み出す勇気をくれた。 「さあ、行ってごらん」と。
東京の泰山木は、耐えている。葉は硬く、器のように丸まり、朽ちることすらしない。それは「東京に骨を埋めたくないんだ」と言っているようだ。南国のプライド高き木は、雪が降るとその寒さと重さに耐えられず、大きな音をたてて、折れる。

あるとき、木が倒される日がきた。
木は私に訴えかけた。「私の祖国に行って、仲間に伝えて欲しい。はるか東方の国でも、仲間は生きていると、そして私の花や葉の本当の姿を君に見て欲しい」
幹が引き裂かれるとき、悲鳴のようなそんな叫びが聞こえた。

東京で泰山木の花が咲くと、私は空を見上げる。
この大きな白い花が映える空は、こんな灰色がかった空ではない。
真っ青な空を求めて大きく開いた花にささやく。
「還ろう。あなたのふるさとに」

スペインのアランフェスで、咲き乱れる泰山木を見た。柔らかく平らで艶やかな葉。そして青い空に生える白い花。
この木が赤い実をつけることを、私はスペインで初めて知った。
香しい花びらに想いをのせて、春になると青い空と海を持つ国へ私は旅立つ。


旅人それは羊飼い

2005-02-14 21:31:21 | プロローグ
パウル・コエーリョに『アルケミスト』という作品がある。
貧しい農家の少年が、「広い世界を知りたい。そのために旅に出たい」という大きな希望を胸に父親に相談する。父親は「私たちの仲間で、旅ができるのは羊飼いだけだ」と息子を送り出す。
少年は夢に出てきたエジプトのピラミッドを目指して、アンダルシアの平原から旅をはじめる。彼の前には占い師やセイラムの王様と名乗る老人が現れ、彼を後押しする。羊を売り、マグレブに入った少年はスーク(市場)でだまされて一文無しになる。クリスタル商人に出会い、アラブ式の商売を歯がゆく感じつつも懸命に働き、ピラミッドへの夢をあきらめない。
商人は少年に、そしてこの本を読んでいる間中、私たちの耳に残る「マクトゥーブ」という言葉を印象的に投げかける。
「『それは書かれている』というような意味さ」と商人は言う。
「しかし、アラブ人に生まれなければわからないよ」とも。
そして少年はついにキャラバンと共にピラミッドを目指し、再び歩き始める。そこで出遭ったアルケミスト(錬金術師)に「何かを強く望めば宇宙のすべてが協力してくれる」という言葉をかけられる。
エジプトのオアシスではべトウィンとの出会いと、恋。
人生においての試練と教訓を学び、人間の弱さに負けそうになりつつも少年は自分の夢を信じて旅を続ける。

私の旅は羊飼いの少年とシンクロする。
欧州の片田舎から列車を乗り継ぎアンダルシアへ。そして船でマグレブへ。飛行機でエジプトへと私は向かった。そこで見た青の数々。
時を越えて、私は糸を紡ぎタペストリーを織って売る。売れるとまたピラミッドの影を感じつつ、青い空と海を渡り、アラブ世界へと帰ってゆく。
「旅をできるのは羊飼いだけ」
私は今様の羊飼いならぬ羊使い。
私は天の子ども、白い雲をつれて青を求める。

それはダーウィンから

2005-02-14 00:18:48 | プロローグ
羊。雲が地上に降りてきた。
天から使わされた子ども達。

私が羊について書くとき、必ずダーウィンの一節を引用する。
「羊の家畜化の起源を探るのは徒労に終わる」
この情緒的な文章は、論文の場合最後に削除することになる。
それでも私は必ず記す。
人類を象徴するもの。それは衣類。
羊は私たちに肉、毛そしてミルクを与えた。
しかし、一番重要なことは文化をもたらしたことだ。
毛を固めフェルトをつくり、そして糸にすることを覚えて織った。
もっとも、糸から織の行程は植物繊維を使ってのほうが早い。
しかし、毛を利用することを思いつくのに、そう時間はかからなかったであろう。
羊は、いつでも私たちとともにある。

羊飼いは語り部。
天の使いを連れて、何処へ…。
月明かりの夜、羊飼いは語る。
さて何から語り始めようか。