毎日、毎日、私はのどかな牧草地帯を散歩していた。
運河にかかる、ナツメヤシの木を、ポンと渡しただけの橋を渡ってみたり、
ロバに話しかけたり、
お家を勝手に拝見したり、
牛の模様を観察したり、
畑仕事のおじさんに「お茶あがっていきなされ」と声をかけられたり…
「たり・たり」な毎日を送っていた。
カイロでは、デモ隊と軍が衝突し、流血さわぎ。
外出禁止令が引かれ、食べ物は配給だけと言うところもあった。
そんなことはテレビの中のこと…
革命以来、新聞もカイロから来なくなった。
アルジャジーラの放送も「ブツッ」と切られた。
農村では、いつもと変わらない生活だった。
スズメの鳴き声がうるさくて起きた。
ロバの悲鳴のようないななきも、いつもどおり。
食べるものはたくさんあった。
携帯電話は壊れていた。
公衆電話はないところにいた。
日本語はまったく通じなかった。
緊張感ある空気は、微塵もなかった。
歴史的瞬間にエジプトにいたというのに、
その実感はまったく得られなかった。
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