ステンドグラスが投げかける光の宝石に魅せられた後は、
薔薇の花を追いかけて、ミフラーブにそって、天井を仰ぐ。
天井に咲く、薔薇の輪に、
回る、回る、想いの迷宮へと、記憶が吸い込まれていく。
廻る、廻る、逃避への甘い誘惑に誘われ、
いい思い出だけが吸い上げられるように、エラムへ
エラム、楽園へ導かれ、また、薔薇の花をなぞって、外へと出る。
中庭のバラをつたい、茨の奥へと迷い込む。
なんだか、フランス語が聞こえてきそうな、
妙な錯覚にとらわれ、
こんなボンボン入れがフランスにはありそうだと、思い、
しかしそれが、開け放たれた窓から聞こえる「メルシー!」と叫ぶおばさんの声が原因と知る。
中庭の向こう側、ステンドグラスのモスクと対照的な、簡素なつくりと、電飾。
はっと我に返る。
そのままであったならば、そこにある井戸へ吸い込まれ、
シャイターンの住む世界へまっさかさまであったかと、現実に引き戻される。
薔薇の花の魔術。
※エラム…楽園のペルシャ語
ミフラーブ…メッカの方向を示す、モスクの中のくぼみ
シャイターン…サタン(悪魔)