イスラミック・ブルー

スペイン、エジプト、イラン、トルコ、チュニジアへ、イスラミックな旅へ。
スペイン/地中海レストランガイド

一面薔薇のタイルに魅せられて

2009-12-20 23:06:47 | イラン・トルコ編

 ステンドグラスが投げかける光の宝石に魅せられた後は、
 薔薇の花を追いかけて、ミフラーブにそって、天井を仰ぐ。
 天井に咲く、薔薇の輪に、
 回る、回る、想いの迷宮へと、記憶が吸い込まれていく。
 廻る、廻る、逃避への甘い誘惑に誘われ、
 いい思い出だけが吸い上げられるように、エラムへ

                

 

 エラム、楽園へ導かれ、また、薔薇の花をなぞって、外へと出る。
 中庭のバラをつたい、茨の奥へと迷い込む。

 

                    

 

 なんだか、フランス語が聞こえてきそうな、
 妙な錯覚にとらわれ、
 こんなボンボン入れがフランスにはありそうだと、思い、
 しかしそれが、開け放たれた窓から聞こえる「メルシー!」と叫ぶおばさんの声が原因と知る。
 中庭の向こう側、ステンドグラスのモスクと対照的な、簡素なつくりと、電飾。
 はっと我に返る。
 そのままであったならば、そこにある井戸へ吸い込まれ、
 シャイターンの住む世界へまっさかさまであったかと、現実に引き戻される。

 薔薇の花の魔術。
 

 

 ※エラム…楽園のペルシャ語
  ミフラーブ…メッカの方向を示す、モスクの中のくぼみ
  シャイターン…サタン(悪魔)


薔薇のモスク~イランの遠き一日

2009-12-14 18:25:38 | イラン・トルコ編

  あなたにどうしても行ってもらい処があると、
  午前10時に必ずつくようにと、きつく言われて向かった。
  10時よりも前でも後でもダメよと念を押されて、
   ありがたいことに、道にも迷わず、私はそこへたどりついた。
 外からは、そこに来た意味が判らない、高い塀と小さな門。
 重い木の扉を押し、暗い通路を通り抜けると、広い中庭に出た。
  急に現れた私を見つけたおじさんが、遠くからちょっと待てと呼びとめる。
 「マダム、チケットがいるよ」と、言われた。
 
 モスクといえば、青いタイルの涼やかな印象が強い。
 しかし、このモスクは淡いピンク色の光を放っている。
 近づいてみると、一面薔薇の花のタイルで覆われている。
 外観に圧倒されていると、おじさんに早く中に入りなさいと言われた。

 

 

           

 

 

 朝日が、ペルシャ絨毯の上に、宝石を敷き詰めていた。
 その宝石を踏んでしまったら、消えてしまうかの如く、
 柱に寄り添うようにつま先立ちに立って、その光を見詰めた。
 部屋いっぱいの宝石は、時間と共に、潮が引くように、少しずつ天へと還って行った。
 毎日、毎日、太陽が出ている限り、この宝石は天からもたらされ、つかの間、人々の心を洗う。
 
 イランを思い出す時、
 この薔薇のモスクも思い出す。
 タイルに描かれた、薔薇の一輪、一輪を指でなぞり、
 薔薇のかぐわしい匂いが、光の粒となって、絹の絨毯に投げ出される様を、
 外国人にも強制される、スカーフと、全身を覆う服装も手伝って、
 遠き日、ここに、遊んだ、無邪気な幼い私を、まばゆい光の中に見出す。
 
 日が高く昇ってしまって、暗い室内には、人目を避けて密談をしに来たカップルがひと組。
 遠くに聞こえる喧騒。
 ふと、我に帰り、何時の日かまた、午前十時に…

 当方のあわただしい島で、午前十時に、このモスクを思い出せる日は、まずない。
 思い出すのは、疲れて、疲れた事も良くわからない、
 眠いのに眠れない事がよくわからない、
 そんなぼんやりした、心の隙間を、この薔薇の宝石が埋める。