マグノリアの咲く家に生まれた。
大人ばかりの家で、
赤ちゃん言葉も、子ども扱いもされず、
存在すらを忘れられ、
誰も、長時間私を見ていないことに不安を覚えない。
「パンツが木の上に飛んでいますよ!」と、
通りすがりの人がわざわざ、声をかけるほど大きな花。
「あれは、花なんです」と答えると
「ええ!!?」と、目を凝らして見上げるほどの、大輪の花。
マグノリア。
花びら一枚が、幼い私の両手よりも大きかった。
いつも、いつも、
マグノリアは私を見ていた。
生まれたときからずっと、ずっと私を見ていた。
3つになると、ひとりで遊んでいるときは、
いつもマグノリアの根元にいた。
家族の誰もが、自分のことに忙しく、
新しい赤ん坊に忙しく、
病に倒れた祖父に忙しく、
私は、家族みんながふと私を忘れた瞬間、
いつも、マグノリアの根っこの上に立ち、
大きな幹に寄りかかっていた。
「あっちゃんは?」という声が家の中から聞こえてくるまで、
いつも私は、マグノリアに抱かれていた。
マグノリアの後ろに咲く、
誕生の記念に植えられた、赤い薔薇を見ながら、
いい匂いに包まれていた。
人が怖い。
人が怖い人は、知らない人が後ろに立つのは、恐ろしい。
刃物を持った人が立つのは尚、恐ろしい。
だから、私は誰にも私の髪を切らせなかった。
ずるずると、いつの日か、
その髪をつたって、どこか自由の国へ降りてこうかと、
囚われの姫君ぶって、
伸ばして、伸ばしていた髪。
その人は、
いつも、さりげなく、手を差し伸べる。
細やかさは、木漏れ日のようで、
誰しも寄りかかりたくなるような雰囲気を持っている。
ああ、なんと、お名前がマグノリアですもの。
私は安心して、背を向け、髪をあずけた。
私の背にあるのは、いつもマグノリア。
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