イスラミック・ブルー

スペイン、エジプト、イラン、トルコ、チュニジアへ、イスラミックな旅へ。
スペイン/地中海レストランガイド

2008-07-22 23:56:48 | イラン・トルコ編

 私のあこがれる墓石は、ジャン・バルジャンの墓石。
 四角い石、誰かが鉛筆で詩を書きつけ、それもまた雨に消される…
 時に、誰かか疲れた足を休め、
 荷物を置き、
 通りすがりに、ふと、目に入るか入らないか、
 そんな、草むらに覗く、苔の生えた石の下に眠りたいと思っていた。

 トルコの墓地は、薔薇で一杯。
 日本の墓の花立のところが、薔薇を植えられるようになっている。
 墓石を埋め尽くすように薔薇を植えているところもあれば、
 上品に、一対の薔薇の苗を植えているところもある。
 そして、墓石に彫られている薔薇、薔薇、薔薇…
 イスタンブールの墓地で、素敵な墓石を見つけた。
 まだ、咲ききらない花が、枝ごとぽっきりと落ちる…
 まだ先のある、若い命が突然奪われたかのような墓石に目を奪われた。
 
 本来、イスラーム教徒の墓は、簡素であるはずである。
 死とは、第二の人生の始まり。
 現世の全ての契約は解除され、
 伴侶も、死の瞬間、他人となる。
 何も持たず、真っ白な布に包まれ、砂漠に埋められる…
 ところが、エジプトではファラオの時代を未だに踏襲し、塀で囲った大きな墓が存在する。イランの墓碑も美しい、立派な詩が掘られた墓碑や石棺を見た。
 トルコも然り、はるか昔からの埋葬を続けているのであろう。
 墓地では、墓石にすがってなく人もいた。咲き乱れる薔薇の中で、人目もはばからず、愛しい人の墓石に額を寄せ、涙する。
 トルコ人のイスラームとは?と、しばしば疑問を感じたが、これもその一つ。
 死は不思議と、その人々の民族性をあらわにする。
 トルコにおいて、イスラームの歴史は長い。
 トルコ人の誰しも、イスラーム以前を意識している事はないだろう。
 
 薔薇、薔薇、薔薇…
 石に刻まれた、永遠の、その人だけの薔薇。
 ジャン・バルジャンの墓石か、それとも薔薇のなかに建つ薔薇の彫刻か。
 煩悩に捕らわれた私は、今日本人であると実感した。

 

 

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薔薇好き

2008-07-12 00:00:42 | イラン・トルコ編

 薔薇好きもここまでくるとどうでしょう?
 といいますか、表だって華美にすることが出来ないイランでも、他のイスラーム諸国同様、あの「真っ黒」の下はとても華やか。というか、ギラギラなことも…女性の下着が派手なことに、私などはまったく驚かない。
 しかしまあ、殿方もでしたか…と、しばしため息。このパンツに見入ってしまいました。
 2度は通り過ぎたのですが、やはり気になって写真を撮ってきました。
 実に私の持っているシーツにそっくり。薔薇模様のシーツの上から、もう一枚真っ白で薄手のシーツをかけて、その透けた中に見える大輪の薔薇に、そっと頬をよせると、良く眠れるような気がするのです。
 それがまあ、片方に私の両足が入りそうな、大きなパンツとそっくりだなんて!
 このパンツを思い出して不眠症になったらどうしようなどと、文学と詩の街、シーラーズの商店街で呆然としたのであります。

 

 

  

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スパイさんと探偵

2008-07-06 00:04:12 | イラン・トルコ編

 クルアーンには、繰り返し、書かれている。
 「悪いことをしたら、神は見ておられる。必ずその報復を受ける」

 私が生まれた頃、イランは華やかで自由なシャーの時代であった。
 その絶対王政が崩れ始めたのは、私が3つの頃。
 テレビで見たモノクロの映像を、今でもはっきりと思い出すことが出来る。
 ホメイニ氏の大きな肖像を掲げた民衆のデモ行進。

  「ホメイニさんなんか嫌い」

 当然、アメリカよりのニュースに、日本人がイラン革命を応援する意見を持ったとは思えない。祖父と見ていて、どんな説明をされたのか、何を語ったかまでは覚えていない。ただ、「この肖像の人は、良くない人」。そう感じていたことだけを良く覚えている。
 「ホメイニさんなんか嫌い」と、3つの私は言っていたという。
 私がイランに行くと言った時、母はこのエピソードをおかしそうに話してくれた。

 前世はアンダルシアで、ちょいと立ち話をする名前も知らない間柄だったジプシーに、ひょんなことで再会した。

 前世ジプシーだった彼女は、日本に生まれ変わっても、日本列島を彷徨う運命にあった。彷徨うのが宿命とも知らず、現世の夢は「スパイさん」
 各地で捜査活動に余念がなかった。ある時、聞き込み中の彼女は、私の名前を偶然耳にする。「ああ、前世アラブの洗濯女?会いたいの?」その人は何も知らずに、彼女を私に紹介した。
 さて、そんなこととは露知らず、現世の夢は「探偵」になりたかった私。洋服のポケットを検めたり、スーツやドレス、バックから靴に至るまで何でも丸ごと洗濯してしまうのは、前世からの宿命とは知らず、盗聴器が仕掛けられていないか、丹念に調べていた。

 こんな二人が再会して、イランを旅しようとは…お釈迦様はご存じなくとも、アッラーはご存知だったようである。
 本人たちの意思とは関係なく、運命の巡り合わせは、私たちにペルシャ語やアラビア語を習わせ、「本当はスペイン語が一番しっくりくるのに!」と、ぼやきつつも、どんどんイスラーム世界へと引きずり込まれていく。

 二人きりで初めての旅。
 前世でもなかった、初めての長い時間。
 長い、長い、それは長い時間。
 その時間は、前世を懐かしむのにはあまりにも長い、
 しかし、スパイと探偵には一瞬の時間。
 
 その日は、ホメイニ氏の命日。
 政府は「ホメイニ廟へお参りしなさい」と、言っていた。
 3連休、全国民が廟へ行ったら大変なことだ。
 当然、遊びに出かける多くの人々がいる。
 バスターミナルには、廟に行くバスだけで、他に行くバスがなかった。
 スパイと探偵は走り回り、か弱い外国人観光客の不安そうな顔を見せて、
 密か仕立てられたバスに乗り込んだ。
 テヘラン脱出に成功と喜んでいたのは、そう長く続かなかった。
 まもなくバスは、渋滞に巻き込まれ、そして完全に停止するまでに、大して時間はかからなかった。
 
 私たちが目的地に着くまでに要した時間。
 ほとんど飲まず食わず、トイレもない20時間。
 スパイと探偵ですもの。へいっちゃらです。

 クルアーンの中に繰り返し出てくる言葉とともに、幼い頃、自分が言った言葉を反芻する。
 人の悪口は言ってはいけない。
 このたび、私はイランに触れて、決して「ホメイニさん嫌い!」なんて思ったりはしない。
 ただ、そう言った天罰を、こんな形で下されようとは思っても見なかった。
 神は見ておられる…
 そう痛感した。
 翌日のニュースでは、「多くの人が移動しようとしたので、渋滞が起きた」とまことしやかに報道されていた。
 ホメイニさん、神にかけてそうだったのでしょうかね?

 

 ※このエピソードについては、是非スパイさんのブログもごらんください。

 
 

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