丸ひと月何もしないでこもっていた。
時が止まったように、誰からも連絡も来ず、
寝たいだけ寝ていた。
ある日、むっくり起き上った。
ふと開いた不動産屋の物件を見てメールを送ったものの、
エジプトポンドとユーロを見間違ったことに気がついて、すぐに取り消しのメールを送った。
エジプトポンドとユーロでは10万円単位で家賃が違う。
ところが、その不動産屋からすぐに電話がかかってきた。
「あなたにぴったりの物件があるかもしれないから、希望を全部言ってみて」
私の希望を聞くとすぐに折り返しますと言って電話は切れた。
不動産屋から15分後再び電話がきて
「今あなたのいるところから10分のところに、ぴったりの物件があるから、10分後に見にいきませんか?」
きけば、そこは言わば銀座の和光の前…
そんなところに人の住むところがあるのか?
散歩がてら出かけてみると、とても門番とは思えないお兄さんが立っていて、案内してくれた。
この国の門番のイメージは、いつでも民族衣装である。
エジプト人の友人が誰しも「エジプトにワンルームはないよ」と言っていたが、
私にちょうど良い小さくてきれいにリフォームされた部屋がそこにはあった。
アマルナのレリーフが壁を覆い、
マリメッコのような花模様のピンクの新品のソファがリビングにしつらえてあった。
キッチンは新しいシンクに、新しい食器と鍋が並べられていた。
不動産屋から電話がきて一時間後、私はもう契約する返事をしていた。
エジプト有数の会社の本社が並び、
きらびやかなブティックが軒を連ねる。
映画やドラマのロケに使われる、古い建物やホテル。
王宮。
国立図書館。
銀座通りから少し入ったところに広がる19世紀から20世紀初頭のフラット。
市場。
これぞ神様のおかげで!