イスラミック・ブルー

スペイン、エジプト、イラン、トルコ、チュニジアへ、イスラミックな旅へ。
スペイン/地中海レストランガイド

食の話・タルタ・デ・サンティアゴ

2005-04-12 22:54:23 | タベルナ・マタアム・食いもの屋
 母の友人から不細工な封筒が送られてきた。開けてみると、ナッツ入りのチョコとタルタ・デ・サンティアゴがホイルに包まれて入っていた。見た感じメレンゲのような硬くて薄い、うーんマコロンをホールケーキにしたようなといえばいいか…。食べてみと表面はメレンゲで中はアーモンドの粉を練ったいかにもスペインのお菓子!という感じ。
 その方は、最近日本でも有名になった、巡礼の旅、サンティアゴ・デ・コンポステーラから帰国。興奮冷めやらぬ間に、そしてお菓子が美味しいうちに!早速送ってくださったのだ。巡礼中に立ち寄った教会で買ったそうだ。修道女が作っているそうで、必ず十字架が刻まれていると、添えられた手紙に書いてあった。家に来た一切れには残念ながら見ることが出来なかったが。
 久しぶりにスペインの空気が鼻を抜けて、ふわーっと広がった。アンダルシアから抜けられない私が、彼の地へ行かれる日はいつのことか。そのときはフランスからはじめたいと思う。歩くのは無理でも、せめて自転車で回ってみたい。ホタテを身につけて、スタンプを集め、ゴールでは煙香に燻され、古の巡礼者気分を味わいたい。一人はさびしいな。この旅をはじめるときは、誰か傍らにいる事を願って。

絶壁の城、スヘーロス

2005-04-07 22:54:08 | アンダルシア
 アンダルシアの村。カリフの街道ルートにあるカステージョで、一番行ってみたかったところがスヘーロス。
 スヘーロスの写真を見ると、カステージョが岩から生えているように見える。はじめてみた写真には、ゴンドラのケーブルかと思われる二本の線が写っていた。早ガッテンした私は、「これはゴンドラであがらねば行くことの出来ない、切り立った崖にある塔のような城なんだ!」と思い込んでしまった。
 スヘーロスへのバスは急勾配を円を書くようにのぼっていく。私の中で、絶壁の城のイメージがどんどん湧いていく。「さあついたよ」とバスはかなり傾斜のあるところで停まった。閑散とした民家のようなバルと、何かの建物の間で、バスはしっかりとブレーキがかかっていなければ、今にも滑り落ちそうな感じで停まっている。
 スーツケースをガラガラ転がしながら、とりあえず案内所の矢印の方に急な坂道を登ってみる。そうでなくても閑散とした村なのにどんどん山の中に入っていってしまうようだ。とにかく荷物を置くのが先決だ。急な坂をそろりそろりと降り、住宅街に入っていく。店が無い。民家ばかりだ。しばらく行くとパン屋が一軒。ほかに店らしきものは何も無い。さらに歩いていくと、旅行案内所があったので、飛び込んでみる。地図が欲しいと言ってみるが、ここにはないという。博物館でもらえるとのこと。そこから数軒先にアパートのマークがあったので、宿を提供してくれるか聞いてみた。「この村にホテルは一軒だよ。うちは貸せないわ」と、ホテルの方向を示してくれた。
 指差してくれた方に歩き出すと、小さな広場に出た。この形は…。もしかしなくてもカステージョだ!なんと小さな、そして簡単に入れそうな城なんだ!あらららら。とにかく荷物を置かなくちゃ。
 さて、どういうことだろう?私はもとのバス停に出てしまった。なんと小さな村だろう。それなのにホテルが見つけられないのは何でだろう?バス停の前にいたおじさんにホテルの場所を聞いてみる。何人かに聞いて、ひっそりとした住宅街に隠れるようにしてあるホテルにたどり着いた。
 設えはシンプルだが綺麗に整っている。静かなたたずまいのホテルに、私は「二泊したい」とパスポートを差し出した。泊り客が居るのかいないのか判らないぐらい静かなホテルだ。フロントの男はにこやかに言った。「一泊で十分ですよ」
 毎日移動してきたところだったので、私は高くとものんびりしたかった。小さな村でスケッチしたりして過ごすのも良いと思っていた。ところが男は勝手に一泊と宿帳に書き込み、鍵をくれた。
 「二泊したいの」と、もう一度言ってみたが、同じ答えが又返ってきただけだった。なぜだろう?
 カステージョの前の博物館にいってみると、ちょうどシエスタの時間で閉っていた。向かいのバルで昼食を取ることにする。ところがこちらの食べたいものは「品切れです」となかなか注文品が決まらない。赤ワインのソーダ割り、ティント・ヴェラーノをゆっくりと飲みながら料理を待つ。
 食事を終えて出てきても、まだ時間がある。村の中を散策してみることにする。シエスタの村は静まり返っている。真っ白い家が立ち並ぶ。所々の家の窓には大きな麦の穂やススキと何か乾燥させた植物で作ったものが斜に飾ってある。アンダルシアでしか見られないものだが何だろう。ヒイラギと鰯の頭みたいなものか?と勝手な判断をする。ドアを見て歩き、ファティマのドアノッカーに思わずニンマリする。そして、気がついた。ドアの真上につけられた家の番号が面白い。1が1に見えない。ひらがなの「し」をちょうど反転させたような形なのだ。1の着く住所の家を探して歩く。マドリーやバルセロナでは見た覚えが無い。村中が静かなのをいいことに、私のお家拝見はとどまることを知らない。小さいけれど、私にとっては楽しみがいっぱいの村。さて、いつになったら城にたどり着くのか?

青と白のパティオ

2005-04-06 22:28:22 | いにしえの話
 暖かくなって、花という花がいっせいにほころんだ。桜が咲き乱れ、美しい日本晴れに文字通り花を添えている。スペインも花の美しい季節がやって来た。5月に入るとアルハンブラなどの庭園や、マドリッドのバラ園は地上の楽園となる。もちろん各家庭のバルコニーやパティオも、ゼラニウムをはじめとする花々でいっぱいになる。
 そのスペインのパティオに、大きな湯船みたいな綺麗なタイル張りの一角を見ることがある。大抵は屋根がついていて、そして、洗濯板がおいてある。かつて、人々はここで洗濯していたのだ。実際にまだ洗濯しているのを私は見たことが無い。大抵水は無く、真中だけが磨り減った洗濯板はひび割れが入る。
 私は昔から洗濯板で手洗いするのが大好きである。洗濯機に入れる前に、ちょっと部分洗いすると洗濯物は真っ白に仕上がる。水が温んで洗濯板が大活躍の季節がやって来た。
 洗濯板でぎゅっぎゅっと洗濯物をこすりながら思い浮かべるのは、パティオの洗濯場。真っ青な空の下で、真っ白に洗い上げるリネン。パンパンと威勢良く広げて干すのはどんなにか爽快だろう。今以上に洗濯が好きになるに違いない。
 そして、密かに思っていること。あそこで犬を風呂に入れたら楽だろう。家中を水浸しにされることも無く、オレンジかぶどう棚の木陰で体を震わせて水気を飛ばし、体を舐める犬の姿はきっと絵になる。
 パティオで洗濯。私の夢。

カブラ、チーズが私を呼んでいる

2005-04-04 23:24:56 | アンダルシア
 スペインに着いて荷物を置くと私がまず飛んでいくのはマルカドナ。スペインには町に一つ必ず市場がある。小さな店が軒を連ね、さまざまな食品が所狭しとおかれている。そして必ず買うものは、パンとチーズ。パン屋のパンに目移りし、どれもこれも買いたい気持ちを押しとどめるのに苦労する。慌てて買わずとも、食べ終わったらまた直ぐ買いに来られるのに。次に選ぶのはケソ(チーズ)。中でもカブラのケソは天下一品。プレーンも美味しいが、胡麻やクミンの香りが食欲をそそる。「いつの日かカブラに行ったら、大きなチーズをホールで買おう」と、よだれを口に一杯ためながら私は夢見ていた。 
 スケジュールを組むとき全く予期していなかったが、風に任せてふらふらしていた折、ふとカブラで下車した。
 バス停から見える町への入り口はアーチの門があり、まっすぐと長い道の両側に、比較的新しい家がずらっと並んでいる。そこはまるでディズニーランドか何かのテーマパークを思わせるかわいい町並みである。そしてなんともいえないパンの美味しそうな香りがあちこちからしてくる。私は即座に、この町に今日は泊まろうと思った。スーツケースを転がして町の中をぐるぐると歩き回る。途中インフォメーションに行ってみるが、なぜか休み。どうしてアンダルシアのiは気ままなの!?気ままは私だけでたくさん!とちょっとすねてみる。
 しかし、それはいつまでも続かない。なぜかこの町はパンの匂いで一杯だ。行けども行けども宿屋は無い。とうとうバス停に戻ってしまった。日向ぼっこしながら話しに興じているおじいさん達に聞いてみる。「近くに泊まるところは無いよ。ずーと行った国道沿いにあるだけさ」という。手ぶらなら良かろう。そしてカステージョがあるならば、私は延々と歩いてそのホテルに向かっただろう。カブラには美術館やモニュメントが少ない。予定していたのであればいいが、ちょっと立ち寄っただけだ。私は次のバスを調べて、博物館へと向かった。
 博物館では荷物を預かってくれた。「勝手に見て」と、入り口にある事務室のお姉さんに言われ中に入ってみた。そこには大きなモザイクが、床にもそして壁にも復元されていた。素朴な柄であるが、引き込まれる。この床にシャボンを流し、磨き上げた女。バタバタ走り回る子ども。静かにたたずむ男…そんな姿がフーと浮かんできた。と、段差を踏み外し、私は大きな音と共に後ろにひっくり返った。空想もいい加減にしないと、そのうち頭を打って永遠に夢の中だ。
 ライオンや犬、ニワトリのかわいい置物や建物一部。ローマ時代のランプなど小さな展示物がたくさん並んでいる。そして、素焼きの壷。神話の世界に思いを馳せる、翼有の動物。
 パン屋の匂いに後ろ髪を引かれ、そしてチーズ屋を発見できなかったことを心残りに思いつつ、私はカブラをあとにした。いつの日か、私はここで朝を迎える。鳥の声で目覚め、窓を一杯に広げる。そしてパン屋へとスキップする。それが出来る町。そして、帰りにはケソを丸ごと抱えて町を出る。
 カブラ、その名を聞いただけでおなかがすく。