襦袢や、襟足、洋服なら袖口のカフスボタン…
見えるようで見えないところのおしゃれが大好き。
イスラーム世界は平安時代と同じ。
御簾の向こうの姫君。
詠まれた歌の手に思いをはせ…
真っ黒な衣装の裾から見える、色とりどりの着物。
目深にかぶったベールの奥の輝く瞳。
無防備な指先に感じる知性。
イスラーム全盛期、世界の陶磁器が集まったカイロ。
美しい、色とりどりの皿や壺。
中でもたくさんあったのは素朴で、需要が多い水壺。
ナイルの水をろ過する為に、壺のくびれの下につけられたフィルターは、
作り手と、誤って壊したものしか目にすることがなかったにもかかわらず、
美しい文様が彫られた。
ナイルの葦、
パピルス、
小石、
小さな、舌触りの悪いものを取り除くために、
美しいアラベスクと、神への言葉が、その存在を自己主張することなく、
日々、人々に安らぎを与え続けた。
割ってしまった壺の、美しいフィルターを、
蜀台代りにしたのか…イスマレーヤの小さな博物館の、誰もが素通りしてしまう、
小さなコレクション。
その美しさを知り、追いかけるものが世界に少なからずいる。
博物館の片隅で、
かつてはごみをよりわけたフィルターは、
多くの見学者の中の、一握りの人達をより分け、小さな模様の穴越しに、
遠く栄えた、大帝国の夢を見せる。