イギリスの本を読んでいると出てくる、キュウリのサンドイッチ。
自分で作って食べても、ぜんぜん文学の世界に入り込めない、「胡瓜サンド」
母は、物語に出てくる食べ物をなんでも再現して作って食べさせてくれた。
私はいつでも物語の世界に、胃袋も満たされつつ飛んでいくことができたが、時にそうならない食べ物がいくつかあった。
その代表が「キューカンバ・サンドウィッチ!」
日本の我が家で食べるのは「キュウリのサンドイッチ」か 「胡瓜サンド」で、まるで「具がキュウリしかなかった」サンド。
まさか、憧れのキューカンバ・サンドウィッチの本物に、カイロで出会うとは夢にも思っていなかった。
とある、夏の午後。
たまにはマダムを気取って、フォーシーズンズホテルでハイティを と、友だちに誘われて出かけた。
向かいの動物園の、
カバに餌を上げたり、クーラーを楽しむクマを見たり、
美大生にフェイスペインティングをしてもらう子どもをほほえましく思ったり…
そんなことはすっかり忘れてしまう、別世界。
温かなスコーンに、たっぷりと塗るクロテッドクリームとジャム。
どれにしようか迷うお茶。
海老とサーモン!
素敵な建物と部屋と時間。
19世紀のイギリスの貴族たちにとって、贅沢品だったきゅうり。
当時イギリスの植民地だったエジプトの高級ホテルに、おいしいキューカンバ・サンドウィッチのレシピはあって当然。
キュウリのサンドイッチ しか知らなかった子どもが、キューカンバ・サンドウィッチを知って、大人になった気分。
あれだけをたくさん食べたいと言う衝動を抑え、またいずれ、優雅なマダムを気取ってハイティに…
物語に登場する魅力的な食べ物をなんでも再現して作ってらしたという碧さんのお母さん、そういう逸話を読むたびに、羨ましくなります。
神様はいるんですよ!
母の世界は、物語、映画、絵画に大きく影響されています。おもちゃや服は買ってやれない、遠出もしない、大家族で制約も多い、そんな中で子どもにしてやれることは、物語の再現だったのかもしれません。