私は考えている。
なんとなく思っている。
何とはなしに、遠くを見つめ、心はどこかへ。
ローマ皇帝たちは、このイベリアの地で生を受け、
都を築き、
一点を見つめていた。
はるか地中海の向こうのかつての大帝国を、
決して涸れる事のない水、
黄金色の小麦、
光の粒が散らばった、ナツメヤシの実、
世界の穀物庫と皇帝たちが呼んだエジプト。
皇帝たちは、ギリシャの神々とエジプトの神々を融合し、新たな神々を作り出した。
ギリシャ神話に出てくるヘルメスは旅の神。ヘルメスの力を得てエジプトへ遠征した皇帝たちは、エジプトの知恵の神、トト神に惚れ込み、この二柱を融合して新たな神を生み出した。
それ以来、今日に至るまでトト神のデザインは、護符の意味も含んで愛され続けている。ダリの作品にも気品のあるトト神が見られる。
羊飼いは血が騒ぐのか、いつも豊かな大地に目が向いている。
いつでも、誰でも、旅に出た羊飼いが出遭うアルケミストは、時を越えて同じ人物である。その名はヘルメス。
ヘルメスとトトの融合、偉大な錬金術師、ヘルメス・トリスメギストス。
旅と知恵の融合。そがもたらすのは、世界一大帝国の夢。
壮大な歴史を踏みしめ、今の世も羊飼いは羊飼いのまま旅をする。
ヘルメスとトトに守られて。
目指すは、絶えることのない水と食物の国へ…
※写真、フィゲラス、ダリ美術館所蔵