イスラミック・ブルー

スペイン、エジプト、イラン、トルコ、チュニジアへ、イスラミックな旅へ。
スペイン/地中海レストランガイド

朽ちゆく時

2011-06-18 23:11:11 | ないしょ ないしょ

「死んでもいいんだよ」

背中を丸くして、真っ白な顔で、
かみ締めた唇の赤さが異常に際立った口がそう言った。
こんなことを言わせた人たちを、ただ哀れに思う。
本人は、もう切れ切れの命かもしれないが、死にたくはないのだ。

「死んで欲しいなら、一緒にいないよ」
手を握って、一生懸命笑った。

西日の当たる階段の窓辺に、
咲き始めから朽ちている薔薇が一輪、凛としていた。

芯が茶色くなった花、
その周りのピンクの花びらはピンとしている。

夢か現か…
たまにやってくる人たちに、齢90を超えた、寝たきり老人の深層はわかりにくい。
目の前で「判りはしないと」話していることが、
いかに傷つけるか…
意識がなくても「感じる」のに、
まだ意識も、意思もある人には、深く突き刺さる言葉がある。

私はいつも、その人たちと入れ違いに帰宅する。
「ただいま」と声をかけると、
「もう誰も来ない?」と返事が返ってくることがある。
じっと、耐えに耐えている日があるのだ。

朽ちてゆくものは、
時に美しい。
そこだけ時間が止まったかのような、
不思議な空気が漂う。
花も人も、枯れて、見苦しく、目を背けたくなる時がある。
しかし、朽ちてゆく瞬間に、
えもいわれぬ美しさをかもし出す時がある。
その瞬間の長く感じること。

階段の途中で私が足を止めるのは、
どんなに長くとも秒の世界。
それでも、この薔薇に吸い寄せられた時のことを思い出すと、
その時は、止まっていた様にも、無限にも感じていた。

生きとし生けるものは、
知らぬ間に朽ちてゆく
腐るのではなく、朽ちてゆく人生を送りたい

これが私の毎日…