10月3日、第210回臨時国会が開催され、そこで岸田首相の所信表明演説がなされた。冒頭の挨拶の中、最近福島を訪問して東日本大震災という未曽有の国難から立ち上がることができたことを実感したとの発言があった。福島原発の廃炉作業において、デブリの所在場所も今だ掴めていない現状でもすっかり終わったかのような印象を持つとは呆れ果てる。人の話をよく聞く岸田首相であるが、廃炉作業の現状の説明者が余程上手かったのであろうか。
また、表明演説の中で、物価高・円安対応でエネルギー安定供給の確保、再エネ・省エネの推進を表明したが、原発推進には直接触れていなかった。しかし、8月24日、官邸で開いたGX実行会議で、原子力発電所の新増設や稼働期間の延長について検討を進める考えを表明していた。
さて今年の夏は猛暑だった。この暑さは温室効果ガスの影響と考えられ二酸化炭素の排出規制の必要性が身に染みた。この夏の電力不足の懸念は何とか乗り切ったが、この冬にも電力不足の懸念があるそうだ。この電力不足は、東日本大震災後多くの原発が停止しており、不足分を補う火力発電所の老朽化による休止や廃止が進んでいることが原因のようだ。更に、ロシアのウクライナ侵攻で燃料となる石油やLPGの供給不足も影響しているとのことだ。
そんな中、政府が経済財政運営の基本となる「骨太の方針」で、原子力発電について昨年は表記されていた”可能な限り依存度を低減する”に代えて、”最大限活用する”を盛り込み、原発回帰が動きだしていたのだ。これまで息を潜めていた原発推進派が地球温暖化や電力不足にかこつけて一斉に動き出した。
欧州でも脱炭素を進めるため、二酸化炭素を出さない原発に回帰する流れが強まっているようだ。欧州は天然ガスの約4割をロシアに依存し、特にガスパイプラインでつながるドイツでは影響が大きく代わりの電力源を必要とし、また仏は2021年来、脱炭素電源として原発新増設を鮮明にしている。
日本もこの流れに乗った感であるが、日本は東日本大震災時の原発事故の後遺症からまだ立ち直っていない。廃炉計画は遅々として進まないばかりか、低レベル放射能の核廃棄物はおろか高レベル放射性の核廃棄物の最終処分法や処分場も決まっていない。冷却用の汚染水の海洋投棄は決定したようだが、地元住民は風評被害を心配している。更に以前原発で生じたプルトニウムを高速炉で燃やす核燃料サイクルを計画していたが、その計画は頓挫したままだ。
これら負の遺産を残したままで次の計画とは無責任もいい加減にしろと言いたくなる。
2022.10.12(犬賀 大好ー854)