10月3日、国会が開幕し岸田首相の所信表明演説が行われた。この中で、冒頭に日本経済を必ず再生させるとの力強い宣言があったが、その後の演説の中に ”新しい資本主義”の新規さが見当たらなかった。
岸田首相は、予てより過度な自由主義経済は多くの弊害を生んでおり、これに代わる”新しい資本主義”は一人ひとりの国民の持続的な幸福を実現する考えであると主張していた。その具体策がはっきりしていなかったが、これも安倍元首相の亡霊に脅かされ自身の政策を打ち出せなかったと同情もしていたが、今回の所信表明演説でも触れなかったことをみると、”新しい資本主義”は単なる思い付きであったと落胆せざるを得なかった。
岸田政府は ”成長と分配の好循環”等を実現する目的で、内閣に新しい資本主義実現本部を設置し、今年10月4日、総理大臣官邸で第10回新しい資本主義実現会議を開催したようだ。しかし会議では、賃金・最低賃金の引上げに伴う転嫁対策・中小企業対策の強化について身近な話題に関する議論が行われたようであるが、”新しい資本主義”の名前に相応しい議論は無かったようだ。
岸田首相の”成長と分配”の考えは、安倍元首相の進めた異次元金融緩和による格差拡大を解消するものと大いに期待していたが、全くの期待はずれであった。今回の安倍元首相の国葬開催強行や旧統一教会問題の対応で、岸田内閣の支持率が急落したが、今回の所信表明演説では支持率の回復は全く見込めない。
今回の所信表明演説で、新しい資本主義の旗印の下、「物価高・円安への対応」、「構造的な賃上げ」、「成長のための投資と改革」を重点分野にあげているが、従来路線の延長で新しい資本主義の名前が恥ずかしい。
「物価高・円安への対応」では、円安メリットを生かすとして海外からの観光客を復活させ年間5兆円を達成すると目論んだが、3年前爆買いで有名だった中国からの観光客は中国のゼロコロナ規制でいつ復活するか分からないし、又中国人もいつまでも日本製品にあこがれている訳でもないだろう。
「構造的な賃上げ」では、企業の生産性を上げることが賃上げにつながるとしたが、生産性を上げる課題は歴代の政権も議論していたがこれまで解決はなされていなし、今回も掛け声だけの感が強い。
「成長のための投資と改革」でも歴代のどの政権も成長戦略を述べてきた。今回もバイオ、AI等の具体的な項目は上がっているが、技術的な進歩と経済的な発展は別問題である。
岸田首相の支持率の回復は、旧統一教会対策への丁寧な説明に負うところが大きいであろうが、個人的には新しい資本主義に対する期待が大きかっただけにこちらに対する影響の方が大きい。2022.10.05(犬賀 大好ー852)