日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

日本の農業とTPP

2015年10月31日 09時21分56秒 | 日々雑感
 環太平洋経済連携協定(TPP)の大筋合意で、農業水産物は81%の品目の関税を撤廃することになり、安い輸入品と競合する農家の不安が高まっているとの話だ。しかし、米、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖、の重要5項目の中核部分はしっかり守っていくことが出来たと、甘利TPP相は胸を張る。 

 米に関しては、1kgあたりの輸入関税341円を維持し、米国と豪州から最大で年約8万トンの輸入枠を新設した。現在の最低輸入義務枠(ミニマムアクセス、MA)は年77万トンであり、その約1割増しに過ぎず、しかも、MAのような輸入義務はなく、民間の需要がなければ輸入しなくてもよいらしい。額面通り受け取れば、大した影響は無いであろう。

 日本における米の年間需要約780万トンであるのに対し、生産量790万トンで、相変わらず生産過剰状態であり、しかも食生活の多様化で需要は年8万トンの減少の方向らしい。米農家はTPP云々に関わらず、厳しい将来が待ち受ける。農地の大規模化や米のブランド化等、何らかの努力が強いられる。これまでの兼業農家は政府の買い取り制度に守られて来たといえども、従事者の高齢化と共に急激に減少していくだろう。

 キャノングローバル戦略研究所の山下氏は、“貿易の自由化を皆が怖がるが大きなショックが無ければ、国内農業は変わらない”と言うがその通りであろう。困難な状況に直面した時に、何らかの工夫、挑戦、努力は、農業に関わらず何事においても必要である。

 政府は、全閣僚をメンバーにしたTPP総合対策本部の初会合を9日開いた。安倍首相は「守る農業から攻める農業に転換し、意欲ある生産者が安心して取り組めるものにしていく」と強調した。補正予算案には、農地の集約を促したり、輸出に積極的な農家を支援したりして、農業の競争力を高める政策を中心に盛り込む予定とのことである。小泉進次郎議員も自民党の農政部会長に就任し、攻めの農業への変換を訴えた。

 TPPに対する政府の前向き姿勢は結構であるが、兼業農家に対する保護は何らかの形で続くであろう。休耕田の増加は買い取り制度の副産物であるが、このような必要以上の保護政策は長い目でみれば蛇の生殺し状態になる。少なくとも若者が、農業に喜んで挑戦できる環境を整えてもらいたいものだ。(犬賀 大好-177)

新3本の矢はどこに向かって放たれるのか

2015年10月28日 09時05分27秒 | 日々雑感
 第3次安倍内閣では、アベノミクスは第2ステージに入ったとして、一億総活躍社会を目指し、新3本の矢として ・希望を生み出す強い経済、・夢を育む子育て支援、・安心につながる社会保障、を放とうとしている。新たに放つ3本の矢の具体的目標は2020年頃までにGDP600兆円の達成、出生率1.8の達成、介護離職ゼロ、である。これまでの3本の矢が、異次元金融緩和、財政出動、成長戦略、であったのに比べ、目標数値を一見明確にしたが、その実現性は一層怪しくなった。

 GDP600兆円達成に関しては、経済界からは疑問視の声が聞こえる。2014年度のGDP490兆円に対し、経済の成長率3%以上の達成は到底不可能と考えられるからである。出生率は2014年には1.42であり、この値を上げるためには、様々な原因を解決する必要があるが、こちらも到底無理と考えられる。介護離職ゼロに関しては介護を理由に仕事をやめる人が年間10万人位だという。高齢化問題は深刻である一方財政難も深刻であるため、政府は在宅介護を重視する政策を採っている。在宅介護を推奨すれば当然身近な人が面倒見なくてならず、介護離職は増加の方向である。この矛盾をどう解決するか。

 安倍首相は、安全保障関連法案を、憲法解釈を変更して成立させた。これに対し、自民党内部からの異論はほとんど聞こえてこなかった。これに味を占めたのか、この強気の姿勢が今回の新3本の矢にも現れている。「実現不可能な難題でも、俺が言えば皆が黙って付いてくる」と。

 安倍首相は、この目標に向けて、加藤勝信一億総活躍担当相に政策の取りまとめを指示した。加藤氏は10月19日、厚生労働省や経済産業省など計10府省庁の幹部による「一億総活躍社会づくりに関する関係府省連絡会議」の初会合を開いた。「すべての政策を総動員し、縦割りを排し、政府の持てる力をしっかり発揮してほしい」と述べ、新任大臣らしい意気込みを示した。引き続き23日には国民会議のメンバーを発表した。増田寛也氏の起用はもっともであるが、菊池桃子氏には何を期待するのであろか。単なる人気取りとしか思えない。

 既に石破地方創生担当相のところには、「まち・ひと・しごと創生本部」があり、塩崎厚労相は「一億総活躍社会実現本部」の立ち上げを表明した他、それぞれの部署でも似たような本部設立を表明しているとの話だ。それぞれの部署で話を煮詰め、加藤氏のところで取りまとめると言えばなるほどと納得しそうになるが、国益より省益が優先する官僚機構にあっては、加藤氏がいくら有能でも、絵に描いた餅の類となるであろう。

 また、縦割り排除の掛け声は結構であるが、官僚の厚い壁が立ちはだかる。先に厚労省管轄の保育園と文科省管轄の幼稚園の一体化あるいは一元化構想でも官僚の壁を壊すことは出来なかった前例がある。少子化の時代、数少ない子供を大切に一貫して育てることは極めて当たり前のことと思うが、こんな簡単なことですら出来ないのだ。

 一億総活躍社会はすべての省に関わる事項であり、保育園と幼稚園の統合より数段の難しさが予想される。総活躍社会の実現と縦割り行政の打破は、共に超困難ではなかろうか。(犬賀 大好-176)

VW社の不正ソフト問題を考える

2015年10月24日 16時44分48秒 | 日々雑感
 独メルケル首相は、ギリシャ問題、難民問題、ここに来てフォルクス・ワーゲン社(VW)の不正問題と体が休まる時が無い。VWは独の一自動車企業に過ぎないが、世界を代表する企業であり、独の技術の高さと信頼性の高さを象徴する企業であるからだ。また独の経済の好調さを支える主要な企業であるためメルケル首相としても一企業の問題として放っておくわけにはいかないだろう。
 不正発覚のきっかけは、米国ウエストバージニア大学の研究だ。2012年非営利組織「クリーン輸送のための国際会議」(ICCT)の依頼で、ディーゼル車の排気ガスに含まれる窒素酸化物を測定することになった。目的は欧州車がいかに環境性能に優れているかを立証するのが目的であった。
 ディーゼル車の排気ガスにはガソリン車に比べ窒素酸化物が多く含まれる。このため、排ガス浄化装置を付加し、窒素酸化物を除去することが行われる。しかし、この付加により燃費が損なわれることになる。そこで、排ガス浄化装置を検査時には動作させるが、一般走行時には休ませるというのが不正の内容である。最近の車はコンピュータで制御するため、すなわちソフトウエアで制御するため不正ソフト問題と称されるわけだ。
 アクセルやブレーキの動き、速度の変化、ハンドルの動きを検出し、検査時と一般走行時の違いを人工知能で判断していると思っていたら、単にハンドルの動きの違いで判断していたようであり、ある意味がっかりした。最近の人口知能の発展は目覚しく、ついに車にまで適用されるようになったかと一人合点していたが、とんだ勘違いであったようだ。検査時にはハンドルの動きが無いというだけだった。
 ディーゼル社への米国での排ガス規制はガソリン車と原則同レベルと厳しい。「燃料に関わらず、有害物資の排出は一律に規制する」は、シンプルを好む国民性の表れだとのことだ。
 VW社の排ガス規制をめぐる不正問題で、歴代経営陣が関与した疑いが深まっている。独DPA通信は関係者の話として、VWの開発部門が2005年~2006年に導入を決めたと伝えた。苦戦していた米国で、コストを抑えながら厳しい環境規制に対応するため検討されたという。米国では2008年以降に不正ソフトが搭載されていた。
 ドブリント独運輸相は、10月15日、独国内の不正車両約240万台のリコールを命じた。不正車両のうち排気量2ℓのディーゼル車は「不正ソフトの修正だけで十分」、それ以下の排気量の車はエンジンの部品交換などが必要と指摘した。ヨーロッパでは、米国に比べ基準がゆるいためそれでよしとなるのであろうか。
 米国におけるリコールの内容は報道されていないが、不正ソフトの交換だけで済むはずが無い。走行時にも安定して機能する浄化装置があるのだろうか。開発済であるならば、交換で済むが、無ければ車自体を廃棄しなくてはならなくなる。
 不正が疑われる販売車両は世界で1100万台にのぼるらしい。費用は膨大な額になるだろうが、それより絶大なる独の信頼性を失墜させた影響がはかりしえない。(犬賀 大好-175)

東京オリンピックのエンブレム問題

2015年10月21日 08時42分36秒 | 日々雑感
 佐野 研二郎氏は東京オリンピックとパラリンピックのエンブレムをデザインしたことで一躍時の人になった。しかし、TOKYOUのTの字をモチーフにしたデザインがベルギーの某劇場のロゴを盗用したのではないかとの疑惑がもたれ、結局白紙撤回となった。佐野氏自身は、単なる作品撤回だけではなく、今後の仕事に対する信用が大いに失墜したことであろう。
 そもそもデザインが似ている、似ていないかは、感性が決める話であろう。同じ形でも色が異なれば、別のデザインにもなり得る世界での話であり、今回のエンブレムにしたところで、全く異なるデザインと判断してよい気がする。しかし、過去の佐野氏のデザインに盗作まがいのデザインが多数見つかったことが、佐野氏の信用を落としてしまった。今後、佐野氏の作品を見れば何かの模倣であろうとの目で見てしまう。
 エンブレムは改めて一般公募することになり、10月16日に応募要綱が発表された。今回の応募では幅広く参加を募ることになった。前回の応募総数は104点だったが、今回は1万件を越えると予想されるらしい。12月7日が締め切りであるが、審査方法は今後の委員会で話し合われるとのことだ。最終的には国民投票をしたいとの意向もあるようである。
 プロのデザイナーは、佐野騒動の余波を受けてしり込みしているそうだ。インターネットの普及で誰でも簡単に類似デザインを探し出すことが可能になったからである。デザインは、素人目には極めて簡単な作業だ。ど素人の私でさえ応募してみようとの気になる。
どれかに決まったところで必ず異議が出てくる。要は感性の問題であるため、意見は百人百様であろう。万人が一致することは有り得ない。特に斬新なアイデアは始めなかなか受け入れられないのは世の常だ。必ず選択した根拠の説明を求められる。
 デザインコンサルティング会社の中西元男氏は、「会社のロゴなどシンボルは思想の凝縮であり、理念や経営方針を明確にしなければロゴは決まらない」と述べている。さて、東京オリンピックの理念や方針は明確になっているだろうか。招致運動のとき叫ばれた東日本大震災からの復興やコンパクトの言はどこかに消えてしまった。残るは“おもてなし“であるが、これはある理念を実現するための手段であろう。
 元々のオリンピックの理念はスポーツを通しての国際平和であろうが、最近のオリンピックはお祭り騒ぎを通しての経済活性化である。これを軌道修正するためにも、エンブレムをすっきり決めるためにも、今からでも遅くは無い。東京オリンピックの理念を明確に示してもらいたいものだ。(犬賀 大好-174)

3本の矢はどこに行ったのか

2015年10月17日 09時33分37秒 | 日々雑感
 第3次安倍内閣では、新3本の矢を放つと言う。安倍首相の既に放った3本の矢は、・金融緩和、・財政出動、・成長戦略であったが、その行方をちゃんと確かめた上での話であろうか。
 2年半前ほどに始まった大規模金融緩和では、円安が進み、企業の輸出や海外事業で得る利益は増大し、株価は大幅に上がった。その結果、名目GDPは約500兆円となり、税収も増えた。アベノミクスは企業を強くしたのは間違いないだろう。そして多くの大企業が政権の要請に応じて2年連続でベースアップに踏み切った。その結果、パートを含む労働者がもらう一人当たりの平均現金給与は増えているようではあるが、逆に円安による物価高や消費増税で差し引きを考えると生活が楽になったと手放しには喜べない状況だ。
 更に、アベノミクスで雇用は100万人以上増えたと胸を張る。しかし、その中味は、政権発足前の12年春からの3年間で、正社員は56万人減少、非正規社員178万人増加との話で、この点でも手放しには喜べない。
 異次元緩和で日本銀行が大量に買い込む国債は、いずれ売却しなくてはならないだろう。国債価格を急落させずに売却するためには、国の経済状態がかなりよくなっていることが必要だろう。米国の作戦は10年~20年がかりとも言われている。日銀では更に長く厳しいものとなるだろうが、止めるどころか最近は株価低迷のてこ入れの為か追加緩和まで取りざたされている。止めれば経済が悪化するし、続ければ借金地獄は一層厳しくなるし、行くも帰るも地獄状態だ。行き着く先はハイパーインフレ地獄と思われるが、黒田日銀総裁は相変わらずインフレは制御可能と真底から信じているのであろうか。異次元緩和の矢は、暴走を始め、地獄に一直線の気がする。
 第2の矢である財政出動は、3.11東日本大震災復興のための公共投資が一番であろう。安倍政権に関わらず誰の政権になっても必要なことであり、特にアベノミクス云々の話ではない。アベノミクス特有の2~3兆円規模の地域商品券配布等も財政出動の一環であろう。それなりに地域の経済活性化につながったと思うが、定着するのはこの内どれくらいであろうか。一過性で、1000兆円を超える国の借金を増やしただけに終わらないことを願うばかりだ。
 第3の矢、成長戦略では、外国人観光客の急激な増加があった。この増加が円安のお蔭であるならば、アベノミクスの成果であろう。中国の経済が低迷し始めたとのことであるが、中国人の来日人数と爆買い量に関してはさほど影響していないらしい。これを考えると、中国における富裕層の儲け具合は半端でなく、円安効果はたいしたことでない気がする。
 規制緩和の成長戦略は、それが需要を喚起するものでなければ、儲ける人が代わったというだけの話である。典型は薬品販売の規制緩和である。インターネット販売が緩和され、薬局に代わり、インターネット関連に儲けが移ったというだけである。
イノベーションの促進等の成長戦略は元々即効性のある性質ではなく、長期に亘る地道な努力が必要である。歴代の内閣が実施しているが、安倍政権で急に成果が上がる筈は無い。
 アベノミクスの第1の矢の行方が一番心配である。第3次安倍政権で新3本の矢を放つという。前の3本の矢を早く忘れさせたいための新3本の矢のような気がする。(犬賀 大好-173)