6月7日、「防衛産業強化法」が成立した。大きな反対もなく、気づかない人も多かっただろう。しかし、この法律は非常に危険な法律だ。
その内容を端的に言えば、日本の武器産業を世界中に輸出できるほど強大化し、大きな戦争にも十分対応して武器を供給できる産業にする法律である。そのために武器メーカーに助成金を出し、さらには、武器メーカーの事業継続が困難な場合に製造施設や設備を国が取得、保有までできることにする。つまり国有武器企業を作るのだ。
直近の動きで懸念されることがある。「防衛装備移転三原則」の見直しだ。
元々日本は「武器輸出三原則」で武器輸出を禁止していた。しかし、安倍政権のときにこれを廃止。「防衛装備移転三原則」を定め武器輸出を解禁した。その際、この三原則の下に「運用指針」を定めたが、殺傷能力のある装備品の輸出は認めなかった。
輸出先も「安全保障面での協力関係がある国」に限定していたのだが、ウクライナに防弾チョッキやヘルメットを提供するために、指針を改定し、対象国に「国際法違反の侵略を受けているウクライナ」を加えた。指針さえ変えれば、武器輸出の対象国を自由に拡大できるのだ。
現在、自民党と公明党の間で、さらなる指針改定の協議が行われている。岸田政権としては、G7の議論を通じて日本だけが「殺傷能力のある武器」の提供をしていないことが浮き彫りになったことが追い風だ。ウクライナのためなら仕方ないという理屈で殺傷能力のある武器の提供を認める改定を行うだろう。
それと同時に、日本の武器の東南アジア諸国への輸出も進む。安全保障面での絆を強めるという名目だが、経済成長著しく急速に軍拡が進む同地域の武器需要を取り込み、日本の武器産業の拡大を狙う戦略である。
そして、最後のステップが、台湾有事の際の台湾への武器提供だ。台湾を見捨てるなという国民世論を高め、それを背景に台湾に武器提供を行う可能性は十分にある。中国との戦争につながる非常に危険な道のりだ。
だが、それで終わりではない。武器産業の強大化でさらに深刻なことが起きる。それは、国民の多くが、戦争を望むようになることだ。
欧州も同じだ。米英仏などの有志国連合がシリアを空爆していたころのフランスのニュースを思い出す。フランスの戦闘機「ラファール」が、中東諸国などに数十機単位で大量に売れたため、戦闘機メーカー・ダッソー社の下請けを含めて3000人の雇用が創出され、工場の5年間フル操業が決まった。工場労働者と地元住民がはしゃぐ姿とともに、ラファールがシリア空爆でその威力を証明したことが成約の原動力だったと報じられた。戦争は最高の武器見本市なのだ。
最近、フランスやドイツのテレビで同様の報道が続いている。冷戦終了後、欧州では武器工場が次々と閉鎖され、多くの失業者が出た。それらの古い工場が、ウクライナ特需で再生した。弾薬工場が復活したフランスのある地方では失業していた男性が雇用されて屈託ない笑顔を見せ、住民も街の景気が良くなると手放しで喜んでいた。
これが武器産業と戦争の現実だ。
「戦争では敵も味方も失うものばかり」と言われるが、実際には、「正義の衣」を身にまとう「悪魔の軍需産業」が陰で大もうけをしている。だが、本当に怖いのはその先だ。工場で働く一般の労働者もその地域の住民も喜ぶようになるのだ。
最近、「継戦能力」という言葉をよく聞く。台湾有事に参戦した場合、相手が中国だから長期戦になる。その間の武器弾薬の補給を可能にするには、巨大な武器産業が不可欠だ。巨大な武器産業は大きな政治力を持ち、関連の労働組合も強大になる。全国に武器工場城下町もできる。
そんな状況で、「台湾有事だ!」という事態が生じたとき、参戦反対の声は、「台湾を見捨てるのか!」という正義を装う声にかき消され、それでも抵抗する人たちには、「非国民!」という言葉が投げかけられるかもしれない。その裏で多くの国民が密かに戦争を喜ぶことになる。
戦争を止める最後の砦。それは国民世論だ。しかし、その国民が、歯止めになるどころか、旗を振って自衛隊を送り出す。そんな光景が繰り広げられる未来が見える。
今回の法案にどの政党が賛成したのかを見てほしい。
自民、公明、維新、国民民主に加え、立憲民主まで賛成した。社民党も反対でなく退席。反対すれば、多くの国民の支持を失うと考える議員が多かったのではないか。
安倍政権のときからの経緯、そして、立民でさえ恐れる「軍拡を容認する国民世論」への変化。加えて、巨大軍事産業が地方を支える経済になれば日本がどうなるのか。
私の懸念は決して「杞憂」ではないと思うのだが、いかがだろうか。
日本共産党と参院会派「沖縄の風」は反対。
何か、恐ろしい社会が待ち受けているようだ。
今のうちに潰さねば。
戦争反対!
戦争は直ちにやめよ!