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国連人種差別撤廃委員会で厳しく問われた日本の〈差別〉

2018年10月27日 | 社会・経済

小森 恵 (反差別国際運動(IMADR)事務局長代行)

 Imidas時事オピニオン2018/10/26(構成・文/海部京子)

   2018年8月のある日。ネット上で、ジュネーブの会議場で厳しい質問に答える日本政府代表の姿が中継されていた。テーマは、ヘイトスピーチ、慰安婦問題、アイヌ民族の遺骨や外国人技能実習生、マイノリティー女性の問題……と多岐にわたっている。これはなんだろう? と釘づけになった。国連人種差別撤廃委員会の日本審査の中継が行われていたのだ。今夏行われたこの審査で、何が問われ、政府はどう答えたのか? NGOの取りまとめ役として準備段階からこれに関わり、詳細を現場で見てきた小森恵さんにお話をうかがった。

 

日本の「差別」は顕在化している

 2018年8月16日、17日に、スイス・ジュネーブで国連人種差別撤廃委員会(Committee on the Elimination of Racial Discrimination)の日本審査が行われました。この委員会は、国連における主要な人権条約の一つである人種差別撤廃条約に加入している締約国が、条約を履行しているかどうかを審査する機関です。

 日本が人種差別撤廃条約に加入したのは1995年。日本審査は2001年、10年、14年に続いて今回は4回目になります。

  日本の場合、人種差別は目に見えにくいかもしれませんが、被差別の問題、アイヌ民族、琉球・沖縄の人々、旧植民地出身者とその子孫、外国人、移住者、難民といったマイノリティーへの差別・人権侵害は連綿と続いています。しかも、近年は街頭やネット上でのヘイトスピーチという形で、差別的言動はより顕在化してきました。

   世界どの国にもなんらかの差別が存在しています。人種差別撤廃委員会は、人種差別撤廃条約に加入している締約国に、定期的に報告することを義務付けています。条約に加入したら、その国で問題となっているさまざまな差別を解消するために、国としてどのような措置をとっているのか、数年ごとに委員会へ報告書を提出しなければなりません。そして、その報告書をもとにジュネーブで人種差別撤廃委員会の委員と政府の代表が質疑応答をし、審査が行われるわけです。

  日本政府は今回の審査に向けて、外務省が16年8月に「市民・NGOとの意見交換会」を開きました。というのは、委員会に提出する報告書を作成するのは政府ですが、国内の差別の詳細な実態は、永田町にいる政治家や霞ヶ関にいる官僚にはなかなかつかめません。そのため、政府は報告書を作成するに当たって、差別問題や人権問題に取り組んでいるNGOや市民の意見を聞く必要が生じます。そうして、内閣府、法務省、文部科学省、厚生労働省などがそれぞれ担当する差別問題について報告書を書き、外務省がそれを取りまとめて17年7月に人種差別撤廃委員会に提出しました。

  また、委員会は政府の報告書だけではなく、直接NGOや市民からも意見を募ります。政府の報告書は委員会のウェブサイトに公開されるので、それに対して、国内の実情はどうなのか、差別は改善されているのか、サイト上で「NGOや市民もレポートを提出してください」と呼びかけるのです。

  国連には人種差別撤廃委員会の他にも女性差別撤廃委員会などいろいろな委員会があり、いずれもオープンなシステムになっています。ウェブサイトにアクセスすれば、締約国の関連する報告書は誰でも見ることができます。また、委員会が募集するレポートも誰でも提出できます。

  今回、私たち国内のNGO19団体と3人の個人は「人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)」としてレポートを一つにまとめ、委員会に提出しました。他にも、日弁連(日本弁護士連合会)や複数の団体・個人がレポートを送っています。

 

委員たちから厳しく問われた政府の姿勢

 このようなプロセスを経て、日本政府代表団が8月にジュネーブにおもむき、16日と17日に日本審査が行われました。代表団には、外務省、内閣府、法務省、文科省、厚労省などから10数人の官僚が参加しています。また、私たちNGOのメンバー、弁護士、議員など約30人が、会場で審査を傍聴しました。

  審査をする人種差別撤廃委員会は、18人の委員によって構成されています。これらの委員は、提出された政府の報告書およびNGOや市民のレポートをすべて読み込んで精査しています。差別問題はさまざまな人権問題に関与しているので、委員たちは、女性差別撤廃委員会の審査や、国連加盟国が互いに人権状況を審査する普遍的定期審査(UPR)、市民的および政治的権利に関する国際規約(自由権規約)委員会の審査などの日本に関する資料にも目を通し、参考にしています。

 審査の1日目、委員たちからは鋭い質問が次々と日本政府代表団に投げかけられました。質疑では、前回14年の審査から、日本国内の人種差別がどれだけ改善されているのか、政府はどのような対策をとっているかの進捗も問われます。しかし、1日目の質問に対する2日目の政府回答に、大きな前進は見られませんでした。

  委員会が、今回提示した日本の課題は多岐にわたります。例えば、在日コリアンの人々に対するヘイトスピーチとヘイトクライム、朝鮮学校の生徒たちへの教育の保障、アイヌ民族への雇用・教育・公共サービスにおける差別、被差別出身者の戸籍への違法なアクセス、外国出身のムスリムに対する警察によるプロファイリングと監視、「慰安婦」だった女性への人権侵害、難民認定申請者の長期にわたる収容、外国人技能実習制度の不備、外国籍の人々に対する民間の施設・公共サービスにおける排除や差別、マイノリティー女性への暴力や人身取引・性的搾取などなど……。

 こうした課題のほとんどは、過去3回の審査でも委員から質問を受けています。4回目となる今回も、委員の問いに対して、政府は「検討中である」とか「引き続き取り組んでいく」などといった回答を繰り返しました。

 加えて、「被差別出身者の定義が明確でない」「琉球・沖縄の人々は先住民族である」という委員会の指摘を、政府は今回も認めようとしませんでした。これは誰が差別の対象になるのかといった定義を巡る問題であり、毎回の審査において委員会と政府の見解は平行線をたどっています。

 そして、委員会が1回目の審査から言い続けている「国内人権機関の設置」もいまだ実現していません。国内人権機関とは、あらゆる人権侵害からの救済を促進する独立した機関のことです。国内の人権侵害を防止するために政府に提言したり、人権侵害の申し立てを受けて調査をしたり、救済のための介入や救済の促進をしたりする専門委員会の設置の必要性は、この間ずっと、私たちNGOも訴えてきました。しかし、今回も政府は「(設置を)検討している」との回答でした。

 さらに、差別的言動の処罰を規定している人種差別撤廃条約の第4条(a)(b)も、日本政府は留保したままです。第4条(a)(b)は、人種差別の扇動、暴力、宣伝活動などの行為について「法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること」「法律で処罰すべき犯罪であることを認めること」とうたっています。締約国は条約に加入するにあたって、国内法との関係などの理由で受け入れることができない条文を留保することができます(ただし、細かい条件が付いている)。そのため、日本政府は第4条(a)(b)を受け入れず、憎悪や暴力を助長する言動を法律で禁止しようとしません。

委員会は、「ヘイトスピーチやヘイトクライムは法律で規制すべきである」とし、1回目の審査から留保の撤回を求め続けてきました。政府は「法規制をすると、憲法が保障する表現の自由を侵すおそれがある」との理由から、今回の審査でも留保を維持しました。

今回の審査で新たに示された勧告の数々

 こうして2日間の審査を終え、8月30日には、人種差別撤廃委員会が総括所見を発表しました。総括所見文書の冒頭部分では、前回の課題が十分に実施されていないことが懸念として示され、続いて約20項目にのぼる課題の是正を勧告しています。その中には、新たに踏み込んだ勧告もありました。  

 一つは、在日コリアンの人々が地方参政権を行使できるよう求めた勧告です。日本国内における在日コリアンの人々への差別は、国連の普遍的定期審査や自由権規約委員会などでも課題になっていますが、地方参政権について言及したのは今回の人種差別撤廃委員会が初めてです。

 それから、女性の複合差別も指摘しています。在日コリアン、アイヌ民族、被差別出身者、外国人といったマイノリティー女性は、家庭内や職場などで民族性および性別にもとづく暴言や暴力や虐待など、複合的な形態の差別を受ける場合があります。今回は、これを放置したままにせず「彼女たちの個別の諸課題をよく理解して、対処できるよう、関連する統計を収集すること」と明確に勧告しました。(以下、総括所見文書の内容は、人種差別撤廃NGOネットワークの翻訳〈仮訳〉による)

 また、被差別出身者について、「戸籍データを機密扱いにすべき」と述べています。委員会は、これまで被差別出身者の戸籍への不正アクセスに対し、罰則をともなう法律の制定を求めてきました。今回の勧告では、それに加えて「機密扱い」という措置をとることを要請しています。

 琉球・沖縄の問題はさらに踏み込んでいます。総括所見には次のように書かれています。「米軍基地の存在による、沖縄の女性に対する暴力の報告と、民間人の居住地域における軍用機の事故に関連して琉球・沖縄の人々が直面している問題に関する報告に懸念する」「締約国が、女性に対する暴力を含む、琉球・沖縄の人々の適切な安全と保護を確保すること、ならびに加害者の適切な訴追と有罪判決を確保することを勧告する」。

 今まで「米軍基地の存在」を勧告において指摘されたことはありませんでした。沖縄では、米兵や軍属による性暴力、米軍機の事故が後を絶ちません。委員会は、政府が琉球・沖縄の人々を先住民族と認識せず、土地や資源に関する権利の保障もせず、人種差別撤廃条約の第5条が定める「暴力又は傷害に対する身体の安全及び国家による保護についての権利」をないがしろにしていると断じています。つまり、琉球・沖縄の人々を守るのは「あなたたち政府の責任ではないのですか?」と問うているのです。

 今回は、前回14年の審査の後、16年に「ヘイトスピーチ解消法」と「差別解消推進法」が制定されたことは評価されました。しかし、まだまだ多くの課題が国内に存在していることも改めて示された審査だったと言えるかもしれません。

行政、NGO、市民の連携が求められている

 日本政府は、審査前に提出した報告書の序章に「我が国は、人種差別と戦うためあらゆる方策を講じている」と書いています。しかし、これまで3回の審査では、ほぼ同じか類似する多くの課題が繰り返し指摘されてきました。そして、今回4回目の審査でも、政府は人種差別に正面から向き合っているようには見えず、「あらゆる方策を講じている」とは言えないのではないかと思います。

 人種差別撤廃委員会だけでなく、政府は国連の条約委員会の勧告を重視しない傾向が見受けられます。13年には、拷問禁止委員会が従軍慰安婦問題について「日本の公人が事実を否定し、被害者を傷つけている」との懸念を示し、法的責任を公に認めることを始めとしたいくつかの勧告を出しました。この時、政府は「勧告に法的拘束力はない」として、従わない旨の答弁書を閣議決定しています。

 ですが、法的拘束力はなくても、勧告に対する道義的な責任はあります。国連の人権に関するさまざまな条約委員会は、世界の国々がそれぞれの国において、すべての人の権利や尊厳を守るために作られた機関です。人権侵害や人種差別のない世界を実現することが委員会の目標であり、そのために各国から推薦され、国連で選出された委員が審査をしています。日本が人種差別撤廃条約に加入している以上、条約委員会の一つである人種差別撤廃委員会で示された勧告は尊重すべきものだと思います。

 一方、政府が法的拘束力はないと軽視したとしても、このような勧告は、国内の差別の克服に向けた取り組みにおいて大きな力になります。NGOや市民社会組織が、課題を解消するための条例制定を目指して行政や地方議員に交渉をする場合に、「国連の委員会の勧告」があれば耳を傾けてもらえるからです。

人種差別撤廃委員会は、これまでと同様に今回の総括所見でも「次回の政府報告書の準備においてNGOや市民と対話し、協議するように」と勧告しました。政府だけで差別をなくすことはできません。行政、NGO、市民が広く連携し、さまざまな課題にいっそう取り組んでいかなければならないと実感しています。

 


 

 今日はほぼ一日雨。休息日としました。先ほどからやんだようで 、少し体を動かすため散歩してきます。と、思ったらまだ降っていました。

 のぶどう