ぽれぽれ百綴り

犬好きおばさんのんびり雑記。

シロさんとのなれそめ-前編-

2016-04-23 12:06:22 | いぬ・シロさん
もうしばらくシロさんのことを。

シロさんは15年前の春にやって来たそうです。

当時、私はひとり暮らしをしていて、
ひんぱんに実家の愛犬ももに会いに帰ってました。

シロさんのことは母から聞きました。

最近、白い大きな雑種犬がうろついていて、
時々、もものご飯を食べにくるねん。
ももが怒っとるねん。
まあ、ご飯を食べ残して放っておくあの子が悪いねんけど。
その犬、がっりがりにやせてて。
歩き方とか座り方とかなんや変やから、
どこか悪いと思うねん。
あれはきっとまだ子どもやわ。
ふっとい手足したはったわ。
まだ大きくなるねやろうなあ。
もうあそこまで大きくなってたら、
飼ってくれるひともなかなか見つからへんやろうなあ。


毎週のように実家に帰ってると、
私もその白い犬を見かけるようになりました。
母の言うとおり、
やせて、薄汚れて、おどおどして、びっこをひいた大きな白い犬。
母が「シロ!」と呼ぶと、反応してこちらを見ました。
「シロ!」
私も真似して呼ぶと、そそくさと姿を消してしまいました。
「あんたがいるとアカンな」
母に言われました。

捕まるなよ。
飼ってもらえないなら、誰にも捕まるな。

わが家にはすでにももがいます。

(ビーグル系mixといわれた捨て犬だったもも)


(穴掘り偏愛主義。巣穴のネズミを捕まえることも)

体重16キロのももより大きなその犬のことを
祈ってやるくらいしかできませんでした。


ある日、実家に帰ると母が言いました。


シロ、保健所に連れて行かれてん。
ももを襲ってご飯を横取りするようになって、
もも、えらい怪我してしもてん。
だから、仕方ないやろ?
お母さんが保健所に連絡してんけど、
そうするしかなかったやろ?


涙ながらに告白しなくても…。

「うん、仕方ないと思うわ」


シロは保健所に捕まった。
母が連絡したから捕まった。


私は自分のなかでこの出来事が消化できず、
ある女性にメールを送りました。
当時、不幸な動物の保護活動をなさっていた作家さんです。


『お母さんを責めないであげてください。
でもまたこんなことが起きたら、
どうか次回からはまず私に相談してください。
お力になれるかもしれません。
私が代表を務める団体のホームページでは、
そんな不幸な子たちの里親募集もしています』


返信には、
保健所に保護され、飼い主の見つからなかった子たちが、
どんな辛い最後を迎えるのかが書かれていました。

『今、各地で行われている殺処分の多くは、
安楽死とはほど遠いやり方です。
彼らが閉じ込められたガス室に送るガスは吸うととても苦しい毒ガスで、
大きな子が死ぬには十分な量ではなく、
けいれんしたその子たちは、
焼却施設に投げ込まれ、
生きたまま焼かれます』
(15年前のお話です。)


衝撃を受けました。
この世の中できっと何にもいいことなんてなかったシロは、
そんな残酷な扱いを受けて命を奪われるのか。
最後まで恐怖に怯え、苦しむのか。

シロが捕獲されてからすでに1週間以上経っていたので、
もうこの世を去ったかもしれません。

間に合わないかもしれないけれど…と思いながら、
翌日、保健所と動物愛護センターに連絡しました。

保健所で何日か保護された犬や猫は、
動物愛護センターという施設に送られ、
そこで1、2週間の留保期間を経て、
飼い主が見つからなければ殺処分されるそうです。
(留保期間の違いは保護されたタイミングと、
子犬か、成犬か、野良犬・雑種犬か、元飼い犬・純血種かの違いで期間を調整するため)

「それくらいの白い雑種犬、1匹いますわ。
確かに座り方がおかしいですわ。
怪我しとるんでしょうな」

どういうわけか、
シロは手違いがあって、
成犬・雑種犬・野良犬として最速で処分されるはずが、
その週の殺処分を免れていました。

なんて強運な!

事情を話して母を説得しました。
うちでは絶対に飼わない、速やかに里親を探す、と約束させられました。
翌日、仕事を早退させてもらって、
母の運転で迎えに行きました。
母は駐車場で待つと言います。
事務所で引き取りの手続きを済ませると、
犬たちが収容されている施設に通されました。
シロは『リーチ』と書かれた端の個室にいました。
頭をうなだれ、やせた背中を丸め、
しっぽをおまたにはさんで、
腰が抜けたような格好で、
狭い部屋のすみっこで震えていました。
その目は焦点が合ってなく、
おしっこをもらし続けており、
以前は薄汚れても白いとわかった体は、
汚物にまみれて異臭を放っていました。

斜め向かいに大きな檻の部屋がありました。
からっぽでした。
ああ、ここに収容された子たちが、
処分されたところなんだ。
当初同室だったシロは、その子たちの悲鳴を聞いていたんだ。

「シロ!」
私が呼んでも反応しません。
私を知ってるはずなのに。
心が壊れてしまったのか?

「外に出したら正気に戻るかも」
センターで働く犬の訓練士さんがうずくまるシロを連れ出してくれました。

「シロ!」
もう一度目を見て呼びかけました。
シロの顔色がぱあーっと明るくなるのがわかりました。
犬の表情がこんなに変わる瞬間を、
私は生まれて初めて見ました。
目には光が戻ってきたようです。
「助かった」
そうわかったのでしょう。
喜びにあふれたシロは、
びょんびょんと勢いよくはねて飛びかかってきました。
シロに触れたのはそれが初めてでした。
私はシロに選ばれたような気になり、
私にも喜びが込み上げてきました。
シロのことを誰ともスキンシップのできない野良犬だと思っていたので。
「シロ!」「シロ!」
シロの手を取って一緒に跳びはねました。
ひとりと1匹は歓喜に染まり、
汚物の色に染まりました。

センターの方が写真を撮るシャッター音が、
パシャパシャとうしろで聞こえました。

「シロちゃうやん、茶色やん」
車に乗せると、汚いシロを見て母が言いました。
鼻がもげそうな匂いがしました。


その週はそのまま実家から会社に通いました。
シロにはまだ野良犬気質の残っていたので、
逃げないように実家の裏庭につなぎました。
大きかったこともあり、怖くてあまり近寄れませんでた。
なにより汚物まみれで臭かったですし。

お互いに少しずつ慣れてきて、週末に洗ってやると、
まっ白なきれいな犬があらわれました。
(後にベージュになった耳もこの時はまだ白かったです。)

健康診断を受け、
シロは1歳未満で健康な女の子とわかりました。
ワクチンも受けました。
腰骨が少し曲がっているのは怪我が自然治癒したもの。
(後々の検査でシロは幼少期に腰椎を圧迫骨折していたことがわかりました。)
足の怪我は自然に治り、あとは残らないとのことでした。
「ハスキーの血が混ざっていますね。
この子はまだ大きくなりますよ」
ドクターは、野良犬でこんなに大きな子は珍しいね、
ラッキーな子だね、と笑って言いました。

その後、シロは実家預かりとなり、
先の作家さんの団体のホームページで
里親募集を掲載していただきました。


ですが、現実は甘くありませんでした。

ほぼ成犬、雑種犬、元野良犬、
しつけに適した時期を逃した大きなシロの里親募集は難航しました。
シロには里親さんはあらわれませんでした。

一度掲載期間を延長してもらい、
作家さん自らのコメントを載せていただき、
熱く募集を続けました。

やっと名乗りを上げてくださったのは、
県内で屋外の敷地につないで多頭飼いをなさっている男性
(近隣住民の方々から苦情を受け、新たな敷地を探している様子でした。)

石垣島在住で、大きな犬をとにかく無料で手に入れたいという若い女性
(メールの文面が幼い子どものようなひらがなだらけの話し言葉でした。)

里親が見つからなければと、申し出た北海道の保護団体
(何十万円かの預託金を前払し、毎月数万円を送金するシステムでした。)

その3つだけ。

いずれも不安でした。

ホームページ掲載期間の期限が迫っていました。
この中から選ぶしかないのか。

ぎりぎりまで悩みました。



「お母さん、飼うわ」


母が神に見えました。


「あの子、苦労人やん。
すっかりうちの子になったつもりでおるのん、
今さらよそにやったら、あんまりやろ」

2001年5月末のことでした。
引き取ってから2か月近く経っていました。

名前は「シロ」から変えようがありませんでした。
本人がもうそれで覚えちゃってるし。


(引き取って間もない頃のシロさん。
元野良犬らしいツンケンした目つき。
当初リードの持ち手の輪っかを杭にひっかけてつないでたのですが、
後に私たちが見ていない時にこれを自分でくわえて外す、
という技を覚え、自由を楽しむように)


シロさん、あんた、ほんとにラッキーやで。

ご覧いただきありがとうございました。