about him

俳優・勝地涼くんのこと。

『阿波DANCE』(2)-5(注・ネタバレしてます)

2008-11-30 01:43:01 | 阿波DANCE

・おじいちゃんにアホの定義を訪ねる茜。おじいちゃん曰く「何も考えんと回りのものを受け止めていく」こと。
茜のみならず、現在のコージもユッキーたちもこだわるところが多すぎてアホの境地にはほど遠いですね。コージ父は踊る時には日頃のむっつり顔とは別人のような笑顔になりますが、これも踊る時には普段のしがらみ一切を捨ててアホになりきっていればこそなのかもしれません。

・「次は鳴門西高校阿波踊り部のみなさん・・・今、たった一人で踊りこんで参りましたぁ~」。一瞬コージ一人しかいない事態に戸惑いつつも巧みにフォローし明るく言い放つアナウンスの女性がいい味で笑えます。
講堂で一人校長先生に抱負を語ったときといい、一人になってしまっても逃げ出さないのはコージの美点ですね。一人踊るコージを俯瞰で(他の連の人たちも入れて)映すことで、彼の孤独感を浮き彫りにしています。

・「結局今の俺は何もないし」と自嘲気味の台詞を吐くミノルの頭をカズがはたく。コージに怒鳴ったシーンに続いてカズが強いところを見せる。
「奇蹟は起きる。必ず」。彼の言う奇蹟とは、離れていったはずの茜とユッキーが揃い5人で阿波ダンスを成功させることらしい。
ここで男子四人組と茜が最初に出会った時話していた「天女の起こす奇蹟」の伝承が生きてくる。天女=茜が再び現れた時が奇蹟の起きるとき。そしてカズの予言?はもうじき現実となります。

・コージに自転車を押してもらった船着き場?で自転車を練習する茜。こんな両サイドが狭い場所では転べば海に落ちる可能性が高い。
もっと広くて車の来ない公園とかで練習するのが妥当ですが、あえてここにしたのは自転車がらみでコージとの思い出がある場所だからでしょうね。安全性より感傷を優先しての場所選びは、彼女が場当たり的なアホに一歩近付いた証のように思えます。
「わーっ」と声を上げながら海に飛び込むあたりも小気味よいです。

・再び一人踊りこんでくるコージ。この場面、大勢のギャラリーの前で一人で(離れたところには他の連もいるけど)踊る、それも阿波ダンスでなく本来の阿波踊りだけに、勝地くんも緊張したんじゃないかなあ。

・自転車で踊る人々のど真ん中を突っ切る茜。何たる迷惑な。こんなアホ行動も、踊る阿呆に見る阿呆が集う「アホの祭典」阿波踊り大会の日なれば許されるってことなんでしょうね。
自転車乗れるようになったばかりのわりに走り方が安定しているのは、さすがダンサーの運動神経。

・茜とコージが言い争ってる時にスタンドに現れ、阿波ダンスの旗をふるユッキー。「コージ、約束したやろ。俺たち三年間同じ連で踊るって」。
これまでの経緯を忘れ去ったかのようなユッキーのさわやかな笑顔。元はといえば彼の模試優先と嫉妬がチーム分裂の原因だったんだが。
さまざまな確執はとりあえず後回しにして、今は全て忘れて(アホになって)踊ろうというのが彼らの選んだ道―アホになること、という解釈でいいだろうか。
ストーリーの流れ的には、ユッキーはぎりぎりで模試をすっぽかして踊りを取るという「アホ」をやらかしたと取りたいんですが、もう暗くなってるから模試終わってから来ただけのような感じだなあ・・・。

・いきなり放送席をジャックして阿波ダンスの音楽をかけつつユッキーは晴れやかに笑う。優等生がすっかりはじけてしまったか、茜をもしのぐ迷惑行動。
校長がユッキーに「アホー!」と怒鳴ってますが、これはもはや誉め言葉みたいなもの。まあ高校生だけに若気の至りということでなんだかんだ周囲も許してくれるんじゃないでしょうか。
大人になってから「あの時は俺たちずいぶん迷惑かけたよなー」「でも楽しかったよなー」なんて目を細めて語る類の青春の一コマですね。自分の経験を鑑みても、結局思い出話で盛り上がるのはこうしたバカで傍迷惑なエピソードですしね。やられた運営側も「あのアホどもには参ったよなー」「でもあの年は盛り上がったよなー」なんて語り草にしていきそうです。

・一人音楽にあわせヒップホップを踊り出す茜。その表情はいつも踊る時のむっつり顔ではなく明るい笑顔を浮かべている。先に一人踊っていたコージのような悲壮感はまるでなく、堂々としたダイナミックな踊りっぷりが眩しい。
榮倉さんの笑顔の魅力がシーンに説得力を持たせています。

・「父ちゃん、俺・・・アホになってくる。ええか?」「何で聞くんや。アホは自分でなるもんや」。ごもっともです。
アホになる―しがらみを振り捨てて無心になるのに父親の許可を求めるという矛盾した行動をとってしまうコージは、いろんな意味で父親に縛られすぎていて、実は一番アホに遠い男だったのかもしれません。

・生徒たちの勝手なパフォーマンスに慌てる校長をよそに、コージ父の「よっしゃ、いくでー!」の掛け声に踊り手のみなさんが一気に会場に雪崩込み、茜たち5人の回りを取り巻く。まるで鳴門の渦のように。
渦大好きな湯川先生がさも嬉しそうな顔でカメラを向けるのがこのタイミングなのもナイス。

・カズがミノルの背を馬跳びで跳び越え(これ高さがあるので結構難しいんでは)、代わって前面に出たコージとユッキーが二人組で踊ってダブル側転する。「二人のパートの練習にユッキーが来ない」と言ってたのはここの部分のことですね。
さらに正面に出た茜が上体を半ば仰向けに倒して片足ずつあげるように踊る。茜は足が長いのでこうした動きがとても映える。
そして放送席からは「大衆食堂 うずしお」のマスターがラップで乱入。「こうなりゃなんでもアリでっせ」という(ラップの)台詞が全てを表しています。

・この展開に興奮する湯川に、突然その場に現れたさやか先生ががばっと抱きつく。直後首をぐるっと振りあげて湯川を見つめた時の表情が誘ってるとしか思えない色っぽさ。こんな女性が向こうから抱きついてきたら、確かに「300年に一度の奇蹟」かも。
この状況でデレデレになるのでなく、「奇蹟やー!」と豪快に叫ぶ湯川先生はコージに匹敵する熱い男だと思います。

・いよいよ白熱してゆく会場。この「阿波ダンス」のシーンは長すぎても勢いがだれてしまうし、一番のハイライトだけに短ければ説得力が減ってしまう。
それをマスターのマイクジャックや湯川・さやかのラブシーンなどを上手く挟みつつ、時間的にだれそうになるあたりから曲のテンポが増してわかりやすい形でラストスパートに入ることで観客の緊張感・ノリを持続させて、最上の時間配分にもっていってます。
個人的には5人組が阿波ダンスを踊り始めた時面目丸つぶれだと反対していた校長がいつのまにかノリノリで踊っているのがツボでした。反対してたはずの人間さえ知らず知らず巻き込んでしまうのが踊りのパワー・アホのパワーなんですね。

・踊り終えた5人は周囲から暖かな拍手を送られ、達成感に満ちた笑顔でそれを受けるが、やがて茜だけは目を潤ませ泣き顔になって涙が目の淵から零れ落ちる。
この表情の変化が実に自然で絶妙。榮倉さん一番の見せ場なのでは。

・浴衣の女の子たちに「一緒に写真とってもらってええですか?」と聞かれて、自身を指差すカズとミノル。
5人全員に声をかけたんだと思ってたんですが、女の子たちも「はい!」とあっさり頷く。ほんとにカズとミノル狙いだったのか?
元々女にモテるのが目的だった二人の願いが見事達成された形。ここにもまた奇蹟が。この作品、何気に伏線の張り方・拾い方はしっかりしています。

・再びいつものノリで口喧嘩をはじめる茜とコージ。しかしコージの「東京帰れ」発言は、実は仲間意識の強い茜をまた傷つけるんじゃあと思ったら、茜はしばし考えてから「帰るよ」と自分の決意を語る。
コージは一瞬ショックを受けた顔をしてから「おー、帰れ帰れ」と表情が一変する。このあたりの変化はさすが上手いです。

・駅での別れのシーン。茜はいつもと違い前髪を七三の位置で流してるせいか、今までになく雰囲気が柔らかくなっている。
ユッキーは医者志望をやめて絵の学校に行くことにしたと告白。「いつまでも親のいいなりじゃ情けないからな」。茜、コージに続いてユッキーの「親越え」がここで描かれる。
カズが茜に涙声に話しかけるのに、「天女さん」がいなくなるのがそれだけ悲しいんだなあと思いきやミノルともども「俺ら来週ダブルデートなんや~」「茜のおかげや~」。
嬉し泣きかい!そういやユッキーの告白に対する返事はいいんですかね?

・「辛くなったらいつでも戻っておいで」という母の言葉に茜は「わかってる。だって、ここがあたしの故郷だもん」。
お母さんから離れて再び東京に戻る道を選んだものの、「茜に故郷を作ってあげたかった」という母の思いはちゃんと受け止めている。理想的な「親離れ」の形ですね。
そして彼女に短期間でここを故郷と呼べるほどの愛着を感じさせてくれたのはやはり阿波ダンスを通して鳴門の人たちと一体となった経験だったのでしょう。特にひと夏を共に過ごしたチーム阿波ダンスの面々は今後とも彼女の記憶に深く刻まれてゆくんでしょうね。

・電車に乗り込んだ茜は「みんなありがとう。あいつによろしくね」と笑う。その笑顔に少し含まれる寂しさは、皆や「故郷」との別れの寂しさだけでなく、コージが見送りにきてくれなかったことへの寂しさも混ざっていたのでは。
茜を見つめるユッキーの表情は、そんな彼女の内心を見抜いているように見えます。

・電車の席に座り、阿波ダンスの衣装を取り出し、金メダルを手に取る茜。
以前は東京での栄光の象徴だったこのメダルですが、今の彼女にはむしろコージとの思い出の品として認識されてるじゃないでしょうか。メダルを眺めていた直後にコージが現れますし。

・自転車で電車に併走しながら「茜ーー!」と初めて彼女の名前を叫ぶコージ。見事に予想通りの展開です(笑)。阿波ダンスの旗を荷台に結んでのぼりのように立ててるのがコージらしいというか。
てっきりここで茜も「コージー!」と初めて名前を呼ぶかと思ったんですが、「ほんまにアホやー!」と叫んだのには意表をつかれた。
「それってひどくないか?(笑)」と初見では思いましたが、物語を見ていくとむしろ「アホ」呼ばわりは最高の賛辞なんですよね。「コージ」と名前で呼び掛ける以上の敬意を表した、愛を篭めた呼びかけですね。それも関西弁なことで茜が鳴門の人間になったことも示されている。
多分この二人今後恋仲になったりはしない、というよりひょっとすると二度と会うこともないのかもしれない。コージの「一生アホでおれよ」という言葉からもこれが最後の別れというニュアンスが伝わってきます。
二人にとってお互いは高校最後の夏に奇跡的体験を分け合った仲間、恋愛未満の微かな慕情の相手として綺麗な思い出になってゆくのでしょう。

・コージは「一生アホでおれよ」と言ったあとに「約束やからな!」と続ける。
ユッキーとの間で、そしてカズとの間で、彼らとの友情の証としてたびたび口にされてきた「約束」という言葉が最後にまた登場する。それも「三年間同じ連で踊る」のような「何かをする」約束ではなく、今のままの茜でいてくれという、約束というよりは願い。
熱血男の真っ直ぐな情が伝わってくる名台詞だと思います。

・去ってゆく電車を見送るコージは涙を堪えているように眉を寄せ口を少しへの字にしつつ微かに笑顔も浮かべてみせる。
複雑でありながらどこか幼さも感じさせる表情に、自転車に乗ってるせいもあって『パコダテ人』を思い出してしまった。

・コージの方を見送る茜は電車の中で一人涙を流しながらも綺麗な笑顔を浮かべ、そして阿波ダンスの衣装を口元にそっと押し当てる。
その仕草にコージへの、そして鳴門で過ごした日々への愛情が溢れているように感じました。

・メインキャラクターの顔や名シーンが写真のように切り取られ、少しずつ提示されてゆくエンディングはアルバムをめくっているような感覚を呼び起こす(実際曲の半ばで写真と寄せ書き?が置かれているシーンもある)。
湯川先生が撮った写真という裏設定があるのかはわかりませんが、彼らのひと夏の歴史を一緒にひもといているような気分。
上で「大人になってから「あの時は俺たちずいぶん迷惑かけたよなー」「でも楽しかったよなー」なんて目を細めて語る類の青春の一コマ」と書きましたが、少年時代を回想するという形式ではない、現在進行形の作品なのにどこか懐旧の情を覚えてしまうのは、この映画がアホでいられる時代―青春を描いているからなのでしょう。
主題歌が90年代半ばに大ヒットしたTRF「survival dAnce」なのは、あの頃青春時代を過ごした年代を観客として想定してるということなのかも。現在青春まっさかりの若い人が観たらどんな印象になるんでしょうね。
勝地くんはインタビューで「青春映画なのでまず10代の方に観てもらいたい」と話してましたが、つい小利口に大過ない生活を良しとしてるような若者がこの映画に感化されて「アホになるのもいいかも」と思ってくれたらいいな。

・ラスト、一枚だけモノクロの写真(阿波ダンスを踊り終えてポーズをとる5人)があるなと思ったら、阿波踊り大会での彼らの活躍を報じた新聞記事の中の写真だったとわかる、というオチが上手い。
珍しく湯川先生以外のカメラマンが5人を写して、「明日の朝刊楽しみにしててや」という場面がここに生きてくる。見事なラストシーンだと思います。
ついでに書くと、最後のサビに入るところでコージが法被を脱ぎながら走ってくるシーンがコマ送り状態になっていて、開いた胸元にちょっとドキッとしました(笑)。

 

この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『阿波DANCE』(2)-... | トップ | 『PICT MAGAZIN... »

阿波DANCE」カテゴリの最新記事