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俳優・勝地涼くんのこと。

『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(2)-3(注・ネタバレしてます)

2008-08-28 02:43:43 | 東京タワー
・不動産屋へ行く場面で平栗くんのモヒカンヘアーが初お目見え。映画館でくすくす笑いが漏れていたのが思い出されます。
傘で頭隠すようにして、不動産屋に入る瞬間まで髪型を出し惜しみしてるのもナイス演出。
ダンサーを目指して上京した平栗くんですが、努力する姿が一切描かれずに「ダンサーの夢破れた」とナレーションで済まされるものだから、すごーくあっさり諦めたみたいで何かヘタレっぽく感じられます。ヘタレが似合うキャラですけどね。
(p.s.『Famima com』(ファミリーマートの無料配布誌)2007年5月号の勝地くんインタビューによると、「ほかのシーンとの兼ね合いもあて、モヒカンは特殊メイク。ぜひ、地毛でやりたかったんですけどね」とのこと。地毛でって・・・男気ありすぎです(笑))

・部屋を借りるために出版社(それも講談社)勤務と大嘘を吐くボク。隣りで平栗くんが「えっ!?」という顔をしてるのが笑える。
直前の「ダメの二階建て」とか、平栗くんが出る場面はいい感じに笑いを取ってくれます。

・えのもと初登場。「アルフィーの高見沢さんです。」 似てはいないが、個性はある絵ですね(笑)。

・借金催促の電話が来たと事務?の女性に呼び出されるボク。
「いつもいない(という返事)でいいですか?」と尋ねる女性に、「いいんじゃないですか」「自信持って」と答えるボク。言える立場かと(笑)。
ボクの場当たり的な適当な性格が端的に表れた名台詞ですね。他人事みたいな口調がまた(笑)。
しかしよくこんな借金取りに追われてるような講師がクビにならないなあ。

・飲み屋の若い客に「仕事決まったとね?」と尋ねるオカン。「あそこは俺には合わんばい」と答える客。
物事が上手くいかないのを相手(社会)のせいにしがちな「負け組」な男の姿にオカンはボクを重ねあわせたりしてるんだろうな。直後にボクから金の無心の電話が来るし。

・店の壁に飾ったボクの卒業証書を見上げるオカン。賞状や免許証ならわかりますが、単なる卒業証書をわざわざ飾る人は珍しい。
それだけボクが何とか学校を卒業したことが嬉しく、また卒業までボクの学費を払いきった自分を誇らしく思う気持ちがあったんでしょう。

・「たびたび悪いけんど」と言いながらオカンに電話で金を無心するボク。
その前にオカンが「電話しても全然出」ないと文句を言ってますが、これはすでに電話を止められたか、借金取りからかかってくるため電話に出られないかのどっちかなんでしょうね・・・。公衆電話からかけてるところを見ると前者か。

・すでに金(ばあちゃんの具合が悪いので、帰ってきてもらうための新幹線代)は送ったというオカンに「え?」と一瞬戸惑うボク。
「あんたまさかその金も使うたんじゃなかろうね?」と言われて言い返さないので、ほんとにボクが使い込んだかのようですが、シナリオ(『シナリオ 東京タワー』収録)の段階では、実は平栗くんが密かに着服していて、そのせいでボクがおばあちゃんの死に目に会えなくなった事を気に病んだ平栗くんが部屋を出てゆく、という流れになっていました。
尺の関係なのか実際の映画ではその設定は消されていますが、この「え?」というボクの台詞に元のシナリオの影響が少し残っているようです。

・おばあちゃんを見舞ったときの回想。
「あそこに百万円あるから、それで鍋を買いなさい」という台詞が、登場当初は毅然としていたおばあちゃんがすっかりボケてしまってる無常感、それでも孫を思いやる愛情の双方を感じさせるのが悲しい。百万円→鍋という発想の飛び方が一種ユーモラスなのもなおのこと悲しさを強めている。
オカンも臨終直前に鍋の味噌汁=ボクの食事を心配してましたが、この母娘はこんなところも似てるんですね・・・。

・麻雀に気の乗らないボクは雀卓の向こうに幼い自分を幻視する。「あんた何しに東京に出てきたとね」と静かにボクを責める幼いボクは「ロン」の一声とともに牌を倒す。
オカンが喉頭ガンを患ったと知ったのをきっかけに猛烈に働きはじめ、頭角を表してゆく後の活躍ぶりを思うと、この時点までのボクは才能とエネルギーを余るほどに持ちながら、それを発揮すべき動機付けを得られなかったがために自堕落な毎日に溺れていたのかと思えます。
結果エネルギーをもて余したその疼きが、おばあちゃんの状況を聞いたさいの良心の痛みに連動して、「自分を責める自分」を見せたのでは。
この直後、同居人の平栗くんが何事も成せぬままに東京を離れるエピソードでさらに焦燥感をあおられつつ、ボクは目覚めの時を迎えることになります。

・ボクの元におばあちゃんの死を知らせる電報が届いた直後に、荷物をまとめてボクと暮らした部屋を出てゆく平栗くん。
シナリオ段階での「平栗くんがボクの新幹線代を着服」(上述)設定がなくなったため、おばあちゃんの死と平栗くんが出て行くことの因果関係も消滅しているので、映画では単にタイミングが重なっただけなんでしょうね。
ところでボクは平栗くんがゲイと知りつつ一緒に暮らしていたわけですよね?となると同居ではなく同棲?女の恋人がたびたび登場するボクは完全にノンケっぽいのに。
別に平栗くんにとってボクが好みのタイプでない(恋愛対象ではなく純粋に友達)なら同居もアリかと思いますが、そのわりには(手付きのアヤしげな)ボディタッチが妙に多いんだよな~。
このあたりは実在の「同郷の後輩、モヒカンでダンサー志望の同居人」バカボンに、オカマ&ゲイだとか元は美容師だとかのいろんな設定をプラスして平栗くんというオリジナルキャラを造型したためのひずみかな、という気もします。

・別れ際にボクのことを「あんたは才能あるから、頑張りぃ」と励ます平栗くん。
多くの役において、勝地くんの声には優しいトーンで話していても凛としたものを感じるんですが、平栗くんではその凛とした響きは薄まってただただ柔らかく優しい。
オカマだから、というだけでなく根っから気の優しい平栗くんというキャラクターを体現しているように思います。
最後に「僕はもう、頑張りきれん」と告げるときの泣き笑いのようなトーンが切ないです。

・甲状腺ガンを手術したオカンは「首のシワが縮まった」と嬉しそうに語る。
ボクに心配させないための強がりからくる発言なのでしょうが、こんな時に冗談を言えること、親不孝を繰り返す息子をなお気遣えるオカンの心の強さ・大きさに打たれます。

・現在、オカンの病床にはべって仕事をしているボク。上下とも濃いピンク系の服は男性が着るには難易度の高い色使いですが、驚くほど似合っている。
この場面に限りませんが、仕事が軌道に乗り出してからのボクの服の色使い(赤・ピンク系が多い)は全体にすごい。映画評で「こんな色の服が似合うのはリリー・フランキー本人かオダギリジョーしかいない」(概要)と書いたものを読んだ記憶がありますが、言い得て妙。
服の似合いっぷりを抜きにしても、この映画(現在パート)のオダギリさんは髭や髪型のせいかリリーさんご本人に雰囲気がよく似ている。オダギリさんも母子家庭で育ちお母さんへの思い入れはボクに通じるものがあるそうですし、よくぞオダギリさんをキャスティングしてくれた、と思います。

・えのもとと敷金礼金を折半して部屋を借りるボク。
あらゆるサラ金から融資を断られる状況でどうやって当面の金を調達したのか。「なんとか工面して」のナレーションで済まされてますが、本筋に関係ないながら詳細が気になる・・・。
母子の愛情物語として読者の紅涙を絞ったこの物語ですが、個人的にはむしろ「マルチなアーティストの半生記」と受け止めているので、彼がどん底の暮らしから社会的成功者になってゆくターニングポイントでの身の処し方が妙に気になってしまうのでした。出版・放送業界へのコネをどうつけたのか、とか。

・「あと三万円で借金完済っすよ」と言うえのもとにボクが微笑む。ボクの髪が伸びていることで、猛烈に仕事を始めてから借金を返し終わるまでに相応の時間が流れたことを一目で理解させる。
この時のボクの笑顔には先までにはない柔らかさがあって、仕事が軌道に乗り精神的に(おそらく生活的にも)余裕が出てきてるのがうかがえます。
窓から差し込む光が部屋を明るく照らしているのも、それを象徴しているよう。

・ボクが送った著書を受け取ったオカンから電話が。
今までオカンから貰う一方だったボクは、オカンに何かを贈るのはこれが初めてなのでは。それも安手の本ではなくハードカバー。
オカンもさぞ感慨深かったことと思います。息子に改まって「ありがとうございましたー」と電話口の向こうで頭を下げるあたりにオカンの感激ぶりが表れています。

・ボクの借金完済祝い&平栗くんの開店祝い。はっきり説明はないものの、ミズエたちの会話内容からするに、平栗くんのお店はどうやらゲイバーであるらしい。
平栗くんが白い着物姿なのが、グラスを両手で持つ手付きなども合わせて、バーのママさん然とした貫禄があります。

・ボクの手を握りながら、「マイナス抱えたまま終わっちゃう人間がどれだけいると思ってるの、東京に。」とボクを誉める平栗くん。
そういう彼自身もダンサーの夢破れ、ボクとともに貧苦にあえぐ経験をしたものの、今はこうして自分の店を構えるまでになっている。
東京で店を開いてるということは、故郷に帰ると言いつつ東京で、おそらくはゲイバーないしその種のお水系のお店で働いて、資金と人脈を作ったんでしょうね。ボクとの同居を解消してからここに至るまでの平栗くんの軌跡も気になります。

・ボクと話す途中、中年の男客が入ってくると、平栗くんは「いらっしゃーい♪」と両手を小さく振っていそいそと男の方へ駆けつける。おそらくは開店前に勤めていた(それ系の)店の常連客なのでしょう。
その男の方を向いた時の笑顔や仕草が何やらなまめかしいのにどきっとしました。営業用にせよ本気にせよ、男性に対してごく自然に女っぽい媚態を示すあたり、平栗くんが根っからその道の人なのだと見せつけられた感じ。
『おれがおまえで~』の時もそうでしたが、本当にそっちの素質(才能)があるんじゃないかとうっかり不安になってしまいそう(笑)。

・中年男性に続いて、ミズエとその友達が入店。どうも友達の方がミズエを連れてきたらしいですが、開店間もないこの店に、どんな縁があってカタギの女の子二人がやってくる気になったものやら。
この時ミズエはボクに「ここ(隣りの席)、いいですか?」と声をかけるが、以降はボクはえのもとと、ミズエは友達と話していて、二人の間に会話はない。互いに反対隣りに向かって話をしている二人をカメラがフレーミングして「そして新しい彼女ができたのでした」とナレーションが入る。
出会いの場面、それも本当にただ出会っただけの場面を映し出して、二人の関係の深まりは一切描かないまま、「恋人になった」という結果だけを説明する――最初と最後だけで過程を飛ばす見せ方がシンプルかつクールで実に格好良い。

(つづく)

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