お兄ちゃんも死んでしまった。
12時半ごろ家を出る時は、まだ生きていたのに、
3時半ごろ戻ってみたら、もういなかった。
水槽はきれいに洗われて、お兄ちゃんは植木鉢のお墓に埋められていた。
3週間前の土曜日、
ほたる祭りの夜店で出会った金魚たち。
不器用な私が、どういうわけか3匹も掬いあげてしまった。
初めての経験に、舞い上がり、思考力を失った。
「どうする?持って帰る?」と訊かれた、その意味さえわからなかった。
家に帰り着いて初めて、我が家には金魚鉢も何もないことに気付いた。
翌日、汲み置いた水道水を入れたバケツに放すと元気よく泳ぎ出した。
かに見えたけれど、
それは、水温も水質も違う環境に驚いてパニックを起こしていたのだ、と後で知った。
水を変える時は、3分の1とか半分とかずつ変えなきゃいけないらしい。
ネットで少し金魚の買い方を勉強して、
所用で出かけた帰りに、小さめの盥と、エサと、水を浄化する石を買ってもどると、
すでにりっぱな水槽がリビングに置かれ、金魚3兄弟はそこで泳いでいた。
底には涼しげな小石が敷き詰められ、水草が揺れ、
その草の間をす~いすいと気持ちよさそうに泳いでいる。
エアーポンプからはブクブクと酸素も送られている。
良かったねー、素敵な新居をプレゼントしてもらって!
「いいでしょー!」といった顔つきで近づいてきたのは、一番チビで赤い金魚。
赤ちゃんだ。
赤ちゃんより大きくて真っ黒で、形がかっこいいのは、黒ちゃん。
一番大きくて黒いのは、お兄ちゃんと名付けた。
我が家に来て10日を過ぎた頃、金魚3兄弟は寄り添うようにして過ごすようになった。
水の底でひっそり、動かずに、かたまっていた。
あまりにも動かないので心配になって、またまたネットで調べる。
冬場は水温が低いとそういうこともあるらしいが。
やっぱり病気なのかな~
塩水浴させてみようかな・・
水を変えてみようかな・・
どちらにしても、新しい水を汲み置いて・・
あれこれ考えているうちに、今回も、夫がさっさと薬を買ってきた。
見かけによらず、繊細で情の深い夫は、動物や植物にとても優しい。
彼に言わせると、私が冷たい薄情人間ということらしい。
水槽の水を替えたり、薬浴させたり、餌を替えたり、塩水浴も試したり、
いろいろやってみたけれど、
13日午後、赤ちゃんが力尽き、その夜、黒ちゃんも・・・
水草を取り除いた広い水槽で、お兄ちゃんは少し元気そうに泳ぎ始めました。
弟や妹たちの分も生き抜くぞ!と言うように。
「夜店で買った金魚はすぐに病気になって死んじゃうのよね~
でも、そこでしぶとく生き残った金魚は、その後ずーっと長生きするものよ」
友人の言葉を思い出し、お兄ちゃんもそのタイプかも・・・と、期待。
でも、二日後には再び水底でじーっとするようになって、
黒い肌に浮き出た白い斑点はますますくっきり大きくなって・・・
昨日は水面で口をぱくぱくさせて苦しそう。
母のことを思い出してしまった。
今朝は、また水底でじっとして。
その目は、絵のようにまん丸で、いつもと同じ丸。
起きていても眠っていても同じ丸。
苦しいのか、楽になってきたのか、何も教えない。
でも、なぜか今朝は、その目が大きく見えた。
何か言いたそうな目に見えた。
そして、午後、お兄ちゃんは死んでしまった。
妹や弟たちのところへ旅立った。
ごめんね。
あなたたちの育て方も知らずに、
衝動買いのように連れてきてしまった愚かな私を許してください。
あなたたちの命をおもちゃのように弄んでしまったこと、許してください。
あなたたちと過ごしたのはわずか3週間足らず。
福島で自殺した酪農家の方は、
手塩にかけて育てた牛を30頭も処分しなければならなかった…