コルシア書店の仲間たち (文春文庫) | |
須賀 敦子 | |
文藝春秋 |
今まで須賀敦子という人を知らなくて、なんと損をしてきたことかと
思います。偶然彼女の名を見つけ、この『コルシア書店の仲間たち』、
『ミラノ霧の風景』など、立て続けに読んでいます。ほとんどがエッ
セイ、あるいは自伝で、どの作品も小説というには、個人的にすぎ、
読み進むにつれ、須賀敦子という生身の人間の体験を、私自身も一
緒になって生きているような気持ちになる、不思議な魔力を持ってい
ます。一人の日本人女性がイタリアに自分のアイデンティティを見つ
け、深く深く入り込み、イタリアを、特にミラノを中心とする北イタ
リアを、その時代を、人を、その肌触りを、匂いを、大雑把に言えば
文化を、文章で見事に具現化してみせました。彼女の描く人々(主に
イタリアの)は上流の生まれであれ、極貧の生まれであれ、生死の境
をさまよってきた人であれ、平穏な人生を送ってきた人であれ、皆そ
れぞれの悲しみ、苦しみ、希望を持ち、限りなく魅力的で、愛おしさ
を感じます。
須賀敦子全集〈第1巻〉ミラノ霧の風景・コルシア書店の仲間たち・旅のあいまに | |
須賀 敦子 | |
河出書房新社 |
須賀敦子は聖心女子大、慶応大と進み、1953年にパリ大に留学したと
聞くと、才媛ではあっただろうけれど、よっぽど良いお家のお嬢さんだっ
たのだろうと思われますが、まさにその通り。でもそこからが、並のお
嬢さんと違うところです。フランスがどうも肌に合わないと彼女は、ペ
ルージャでイタリア語を学び、そこから運命的にイタリアに惹かれてい
きます。ミラノでイタリア人男性と結婚し、彼が急逝するまで、13年間
を過ごします。
須賀敦子 静かなる魂の旅---永久保存ボックス/DVD+愛蔵本 | |
須賀 敦子,中山 エツコ,ジョルジョ・アミトラーノ | |
河出書房新社 |
彼女の全集に、池澤夏樹が「異国に生まれなおした人」という後書きを
書いています。違う世界に行ってそこで暮らす。それがうまくいった時、
その人はそこで生まれなおす。須賀敦子はそれができたのだろうと。
rebornという言葉が浮かびます。そして彼女はそこで、旅行者ではなく、
一時的な滞在者でもなく、そこに根ざしてほんとうに生活を生きました。
その体験が、彼女の中で反芻され、深く理解され、成熟して、あの珠玉
の作品たちになったのでしょう。日本とイタリア、2つの国のどちらでも、
真実の生を生きた人、そんな感じがします。何十年も生きてきて、真面
目に生と向い合ってきたのかと、時々おぼつかない気持ちになる私は、
羨望にも似た憧れの気持ちで、彼女が語るイタリアの人々や街の話に
読みふけっています。
(フィレンツェ)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます