ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

レイ (Ray)

2005年08月14日 | 映画


 伝記映画というものは、数十年ぶんの時を2時間ほどに詰め込むために、かえって印象が薄くなったりするものだけれど、これは、「スターの伝記映画」としてではなく、悩みや葛藤に満ちたひとりの人間の生き様を描いているドラマとして見ることができたので、見終えた後に残る印象はどこか重厚な趣があって、満足できるものだった。


     
     ジェイミー・フォックス


 自分にとっての障壁を受け入れることができず、なにかで自分の気持ちをごまかそうとするのは、誰しも同じだ。だからこそ、葛藤に苦しみつつ生きてゆくレイに共感できるのだろう。
 ヘロインや女で気持ちをごまかしながらも、音楽に対して真摯であろうとする人間臭い姿勢には、やはり共感と感動を覚える。


 心の中の母と対話するレイが、自分の苦しみを母にさらけ出す場面には泣ける。
 亡き母がレイに教えたこと、それは前向きに、自分の力で生き抜いていくことにほかならない。
 レイの場合、盲目であることと、心に傷を抱えること、黒人であることが大きく彼の前に立ちはだかっている。しかし、母の強い教えが、のちに精神的などん底に落ちるレイを支えることになるのだ。
 そして、もしかするとそれは、映画を見たぼくをも支えてくれることになる言葉なのかもしれない、などと考えてしまった。


     
     ケリー・ワシントン(左)とジェイミー・フォックス


 ふんだんに演奏シーンがあるのは、やはりうれしい。
 とくに、ジャム・セッション風にインプロバイズする「What'd I Say」の演奏シーンでは、即興で音を作ってゆくことの面白さや戸惑いがよく感じられて、なんだか楽しかった。
 そしてジェイミー・フォックスの大熱演が素晴らしい。
 ジェイミーは3歳でピアノを始め、大学やジュリアード音楽院で音楽を学んだミュージシャンでもあるだけに、演奏シーンの迫力には圧倒される。
 それにも増しての演技力。レイ・チャールズ本人がジェイミーに「君はぼくの後継者だ」と絶賛したほどだ。
 残念ながらレイ・チャールズは、映画が公開された2004年の映画公開前の6月10日に、肝臓ガンのため73歳で亡くなっている。


 決してスターの華やかさにスポットを当てた作品ではない。でも、ひとりの人間の人生を通じて、生きていくことについて考えさせてくれる映画なんだと思う。


     
     レイ・チャールズ(左)とジェイミー・フォックス



◆レイ/Ray
  ■公開
    2004年
  ■製作国
    アメリカ
  ■監督
    テイラー・ハックフォード/Taylor Hackford
  ■音楽
    レイ・チャールズ/Ray Charles
    クレイグ・アームストロング/Craig Armstrong
  ■撮影
    パヴェル・エデルマン/Pawel Edelman
  ■出演
    ジェイミー・フォックス/Jamie Foxx (レイ・チャールズ)
    ケリー・ワシントン/Kerry Washington (テラ・ビー・ロビンソン)
    レジーナ・キング/Regina King (マージー・ヘンドリックス)
    クリフトン・パウエル/Clifton Powell (ジェフ・ブラウン)
    ボキーム・ウッドバイン/Bokeem Woodbine (ファットヘッド・ニューマン)
    ハリー・レニックス/Harry Lennix (ジョー・アダムス)
    アーンジャニュー・エリス/Aunjanue Ellis (メアリー・アン・フィッシャー)
    シャロン・ウォーレン/Sharon Warren(アレサ・ロビンソン=レイの母)
    カート・フラー/Kurt Fuller (サム・クラーク)
    デヴィッド・クラムホルツ/David Krumhpltz (ミルト・ショウ)
    カーティス・アームストロング/Curtis Armstrong (アーメット・アーティガン)
    リチャード・シフ/Richard Schiff (ジェリー・ウェクスラー)
    リック・ゴメス/Rick Gomez (トム・ダウド)
    ウェンデル・ピアース/Wendell Pierce (ウィルバー・ブラスフィールド=ローウェル・フルソン・バンドのマネージャー)
    クリス・トーマス・キング/Chris Thomas King (ローウェル・フルソン)
    ロバート・ウィズダム/Robert Wisdom (ジャック・ローダーデイル=スウィング・タイム・レコード社社長)
    テレンス・ダッシュオン・ハワード/Terrence Dashon Howard (ゴッシー・マッギー)
    デニース・ダウス/Denise Dowse (マーリーン・アンドレ=「ロッキング・チェア」のマダム)
    ワーウィック・デイヴィス/Warwick Davis (オベロン=「ロッキング・チェア」の司会者)
    ラレンズ・テイト/Larenz Tate (クインシー・ジョーンズ)
    パトリック・ボーショー/Patrick Bauchau (ハッカー医師)
    C. J. サンダース/C. D. Sanders (子供時代のレイ・チャールズ)
    ターロン・ベル/Terrone Bell (ジョージ・ロビンソン=レイの弟)   
  ■上映時間
    152分


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4 コメント

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はじめまして (カント)
2006-03-26 16:35:31
2005-08-14 17:52:29



この映画、とても良かったです。

こちらのブログのようにはうまく感想が書けませんでしたが、トラックバックさせてもらいました。

返信する
こんばんは! ()
2006-03-26 16:36:24
2005-08-14 23:50:29



ヘロインと女性関係は

チョット問題ありだけど!



Rayの生涯を知る事が出来る

良い映画だと思います。



やはり凄いアーティストですよね



乏しい表現力ですみません。

MINAGIさんの記事の内容に、いつも感心してます。
返信する
Unknown (MINAGI)
2006-03-26 16:38:01
2005-08-15 01:16:04



 カントさんはじめまして。

 おいで下さってどうもありがとうございます



 どうぞ気ままに覗いて、気ままに書き込んでくださいね。今後ともどうぞよろしくお願いします
返信する
Unknown (MINAGI)
2006-03-26 16:39:00
2005-08-15 01:21:42



 杏さんこんばんは☆



>ヘロインと~

 たしかに! いくら才能があっても、奥さんの立場からしたらしんどいですよね。うん。





 どうもありがとうございます!

 そう言ってもらえると、一生懸命頑張って書いた甲斐があります。うれしいですよ。

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