ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

タイム (Time)

2021年05月17日 | 名曲

【Live Information】


 「プログレッシヴ・ロック」といえば「難解」とか「マニアック」などといったイメージがあって、手を出すにはおっかなびっくり、とまではいかないにしても、多少気おくれしたりする人も多いのではないでしょうか。
 プログレの雄であるピンク・フロイドも、たしかにフリー・ジャズを思わせる曲や、前衛的な手法を採っている曲がありますが、幻想的だったり浮遊感があったりきれいなメロディを持つ曲が少なくありません。
 その中でぼくがとても好きなのが、モンスター級メガ・ヒット・アルバム「狂気」に収録されている「タイム」です。 


 ロック史上に燦然と輝き続ける名盤「狂気」。
 人間の内側に潜んでいる暗部や苦悩、社会の歪みや不条理をテーマに、ロジャー・ウォーターズが全編の歌詞を書いたコンセプト・アルバムです。
 1973年に発表されると、同年のビルボード(アメリカ)で週間アルバム・チャート1位、ニュー・ミュージカル・エキスプレス(イギリス)1位、オリコン・チャート(日本)2位の大ヒットを記録しました。ビルボードの年間アルバム・チャートでも1973年11位、1974年も11位、1975年71位にランクされています。
 その後もアルバムは売れ続け、ギネスに登録されるほどの記録的なロング・セラー・アルバムとなりました。今に至るまで全世界で5,000万枚以上を売り上げた、ポピュラー音楽史上に残るアルバムです。
 全10曲が収録されていますが、アナログ・レコード時代の名残りである「A面」と「B面」の区切り以外は、最初から最後まで曲の切れ目がないのが特徴です。





 いわゆる「プログレッシヴ・ロック」というジャンルを聴き始めたのは、高校に入ってからだったかな。
 友達に教えてもらったのが、「エマーソン・レイク&パーマー」、そして「イエス」。
 どちらもティーン向けのポップなバンドではなく、クラシックやジャズの要素も大きく取り入れた高校生には知的すぎる音楽を志向していて、しかもすごいテクニックを持っていたので、気軽に楽しむにはハードルが高く、聴くにもちょっとした覚悟が必要だったんですね。
 ところがピンク・フロイドはどことなく違っていました。
 ブリティッシュ・ロック特有のどこかほの暗い雰囲気や、プログレッシヴ・ロックのバンドにありがちな実験的かつやや難解に感じらる音楽性(ピンク・フロイドには前衛的なアプローチの曲もありましたから)はEL&Pやイエスと共通のものがありましたが、シンプルな中にも抒情的・幻想的なメロディーも多く、聴き始めた当初からなんとなく心惹かれるものがありました。


 「タイム」は、「狂気」の4番目に位置しています。
 この曲が好きな理由は、なんといってもデヴィッド・ギルモアが奏でる情感のこもった美しいギター・ソロにあります。
 ピンク・フロイドの曲どころか、今まで聴いたいろんなロックのギター・ソロの中でも特に好きなもののひとつなんです。



 
 
 いろんな種類の時計のベルが、けたたましく一挙に鳴り始めるところから曲が始まります。
 刻まれる秒針を模した音は、人生は長いようで束の間なのだ、ということを示唆しているようにも感じられます。
 同時に聴こえるのはバス・ドラムでしょうか。まるで心臓の鼓動のようでもあります。
 ボーカルは、デヴィッド・ギルモアとリック・ライト。ワイルドなボーカルはギルモア、呟くように淡々と歌うのはライトでしょうか。
 テーマのメロディはブルースからの影響も伺えます。まさに「ブリティッシュ・ロック」な曲です。
 対してサビのメロディには浮遊感があり、メロディアス。
 サビあとに入ってくるギルモアのブルージーなソロは、まさにギターが歌っているようです。
 ギターが息づき、感情を高ぶらせ、訴えかけてくるように聴こえるんです。


 聴いただけでは英語もあまり理解できないので、当時のぼくは歌詞にはあまり興味がなかったのですが、ロジャー・ウォーターズが書いた歌詞はメッセージ性が濃く、人生に対する教訓そのものでもあります。
 「若いうちは、無尽蔵にあると思っていた時間。
   いつしか時は矢のように過ぎ去り、時間を無駄に使い続けた我々は人生の終わりに近づいていることにようやく気づく」
 時間を無駄に消費してきたことに気づいた時には、もう取り戻すことはできないのですね。
 これがわれわれに対する警鐘でなくてなんなのでしょうか。
 「これでよかったのか」と自分を振り返ってみた時、正直言って時を無為に失ったことに対する虚無感や、取り戻すことができないことへの恐怖感を覚えないではありません。
 現実を鋭く突き付けてくるような歌詞は、社会派のロジャー・ウォーターズの面目躍如、といったところです。



 


◆タイム/Time
  ■発表
    1973年
  ■シングル・リリース
    1974年2月4日(「Us and Them」のB面としてアメリカでリリース)
  ■演奏
    ピンク・フロイド/Pink Floyd
  ■プロデュース
    ピンク・フロイド/Pink Floyd
  ■作詞 
    ロジャー・ウォーターズ/Roger Waters
  ■作曲 
    デヴィッド・ギルモア、ロジャー・ウォーターズ、リック・ライト、ニック・メイスン/David Gilmour, Roger Waters, Richard Wright, Nick Mason
  ■録音メンバー
   [ Pink Floyd ]
    デヴィッド・ギルモア/David Gilmour(guitars, lead-vocals, backing-vocals)
    ロジャー・ウォーターズ/Roger Waters(bass, synthesiser)
    リック・ライト/Richard Wright(electric-piano, organ, synthesiser, lead-vocals)
    ニック・メイスン/Nick Mason(drums, percussion)
   [ Guest Musicians ]
    ドリス・トロイ/Doris Troy(backing-vocals)
    レスリー・ダンカン/Lasley Duncan(backing-vocals)
    リーザ・ストライク/Liza Strike(backing-vocals)
    バリー・セント・ジョン/Barry St. John(backing-vocals)
  ■収録アルバム
    狂気/The Dark Side of the Moon (1973年)



 


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