ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

ネヴァー・イナフ

2022年08月20日 | 名曲

【Live Information】


ここ何年かのあいだに、ミュージカルと関わる機会が何度かありました。
昨年は横山由和氏作の「夢の降る街」が岡山市民会館で上演されましたが、このミュージカルのバンドメンバーも務めさせていただきました。
それがきっかけで、ミュージカルについていろいろなお話を伺うことができたり、ミュージカルに対する興味が多少なりとも湧いてきたりしています。
その影響で、あのミュージカルの名作「サウンド・オブ・ミュージック」をやっと観る気になり、昨年夏に、ようやくというか、恥ずかしながらというか、初めて観た次第です。


ミュージカルを敬遠するその大きな理由のひとつとして、「唐突に歌い始める」というのがあります。
かくいうぼくも、それが今まで積極的にミュージカルを観ようとする気持ちにならなかった一番大きな理由です。
でも実は小学生の時に、何気なくつけたテレビで「王様とわたし」がたまたま放送されていて、なんとなく見ているうちに、ユル・ブリンナーの存在感のすごさと、それに対して一歩も引けを取らないデボラ・カーの演技に惹き込まれてしまい、結局最後まで見てしまったことがあります。
ということは、「ミュージカル」という形態をつまらなく感じたのではなく、やっぱり「良い作品は良い」ってことなんでしょうね。


最近観たミュージカルが、「ザ・グレイテスト・ショーマン」です。
有名な「リングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカス」の創設者である興行師P.T.バーナムの半生が描かれています。
「ネヴァー・イナフ」は、「ザ・グレイテスト・ショーマン」の劇中に登場する、極上のバラードです。
このミュージカルに使われている曲の全てを作詞作曲したのは、ベンジ・パセックとジャスティン・ポール。
このふたりは、「ラ・ラ・ランド」で2017年アカデミー賞の楽曲賞を受賞したほか、2018年には大ヒットしたブロードウェイ・ミュージカル「Dear Evan Hansen」でトニー賞作曲賞とグラミー賞ミュージカル・シアター・アルバム賞を受賞している、まさに今ノリにノッているコンポーザー・チームです。


 バーナムは、いわゆる見世物小屋(フリーク・ショウ)で、特異な姿をしているため世間から隠れるようにして生きている人々を起用したサーカスを手掛け、大当たりを取るのですが、成功しても社交界では成り上がり者としか見られません。バーナムは上流階級入りするために、ヨーロッパ最高のオペラ歌手、ジェニー・リンドのアメリカ公演を全力でプロモートしようとします。
 「ネヴァー・イナフ」は、ジェニーのアメリカでの初演時に歌われる曲です。
 吹き替えで歌うのは、ローレン・オルレッド。
 メロディーの分かりやすさ、美しさはもちろんなのですが、
 伸びやかなハイ・ノート、ふくよかな美声、エモーショナルな表現力、
 そのどれを取っても目がくらむような、いや、息をのむような、感動的な歌声なんです。
 「どれだけ光を浴びようとも、どれだけ成功しようとも、あなたがいなければ足りない」という歌詞も、このミュージカルの中では深い意味を持つんですね。


          


 ジェニー・リンドを演じるのはレベッカ・ファーガソン。
 「ミッション・インポッシブル」シリーズで知られている女優です。
 レベッカは、最初は劇中でも歌う予定だったのですが、参考歌唱に来たローレン・オルレッドの歌を聴き、「ぜひ彼女が歌うべきだ」と強くローレンを推したそうです。
 演技に専念したレベッカですが、この曲における彼女の演技がこれまた素晴らしいんだなあ。
 優しい笑顔を見せたと思えば、強い意思に満ちた強烈な眼差しをこちらに向ける。
 訴えかけるように切ない表情を見せると思えば、自信たっぷりにあたりを見回す。
 彼女の精魂込めた表情は、観る者を恍惚とさせるのです。
 レベッカ・ファーガソンという女優の凄まじいばかりの底力を見せつけられたような気がします。


          

          


 実は最近AGT(America's Got Talent)やBGT(Britain's Got Talent)というオーデション番組をネットで観ることが多いんですね。
 その中で、なんとローレン・オルレッドがBGTに出演し、「ネヴァー・イナフ」を実際に歌っているのを見つけたんです。
 「この歌は自分のためにあるような気がして」オーディションに応募したローレン。
 表情とか話しぶりがとても魅力的なシンガーさんです。
 プロフェショナルな歌手ならではの存在感を漂わせながら歌い始めるや、その抜きんでたパフォーマンスであっという間に客席ばかりか審査員席をも感動の渦に巻き込むんです。
 満場総立ち。
 司会のアント & デックも大コーフンで「Goooo!!! Looooren!!!」「Crazy・・・!!!」。
 超辛口で有名な審査員のサイモン・コーウェルですら、圧倒されて「返す言葉もない、参った」という顔で笑っている。
 エンディングの、ローレンのハイ・ノートは、圧巻のひと言。
 伴奏はすべてブレイクし、ローレンの歌声のみが、響き渡り、天馬のように空を駆け抜ける。時間にしてわずか5~6秒。しかし、この5~6秒が、至福の時なのです。
 この歌声を感動的と言わずしてなんと言えばいいのでしょうか。


          

          


 「ザ・グレイテスト・ショーマン」の劇中の名曲と、ローレン・オルレッドの歌に出会えたのは、自分の今年の「十大ニュース」になるかもしれません。


           


【歌 詞】

【訳 詞】


◆ネヴァー・イナフ Never Enough
  ■発表
    2017年12月8日
  ■録音
    2017年
  ■歌
    ローレン・オルレッド/Loren Allred
  ■作詞・作曲
    ベンジ・パセック & ジャスティン・ポール/Benj Pasek & Justin Paul
  ■プロデュース
    ジョセフ・トラパニーズ、ジャスティン・ポール、アレックス・ラカモア/Joseph Trapanese, Justin Paul, Alex Lacamoire
  ■チャート最高位
    2017年週間シングル・チャート アメリカ(ビルボード)88位 イギリス24位
  ■収録アルバム
    『グレイテスト・ショーマン』(2017年アルバム・チャート 全米1位、全英1位、日本1位)



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