ある音楽人的日乗

「音楽はまさに人生そのもの」。ジャズ・バー店主、認定心理カウンセラー、ベーシスト皆木秀樹のあれこれ

憧れの楽器

2006年03月14日 | 随想録

                                       ♪わが家のピアノです。ヤマハのアップライト。



 「なぜベースという楽器を選んだのか?」と訊ねられることがままあります。
 ぼくの場合は、高校時代、吹奏楽部に所属したのが事の始まりです。当時ぼくはドラムをやりたくて、打楽器のパートを担当していました。しかし、ポップスの曲を演奏する場合は、先輩ドラマーがいたため、ぼくは割と手持ちぶさたでした。
 ところで、吹奏楽のポップス曲にはエレキ・ベースのパートが加えられている場合が多く、手持ちぶさたなおかげでそのオハチがぼくに回ってきた、というわけなのです。


 ベーシスト同士で「なぜベースという楽器を選んだか」を告白しあうことがありますが、ぼくの理由などマシな方でしょう。
 よくあるのが、「ほかに誰もいなかったから、仕方なく」という理由です。これに近いものとして「ジャンケンで負けたから」とか、「先輩に脅されて」というのがあります。ひどいのになると、「罰として」とか、「ダマされて」などというのがありました。スマンけどこれには笑った。
 いろんな奏法が開発されたりしたお陰でベースも目立つようになり、今でこそ「オレはベースをやりたいのだ!」と自発的に選ぶ輩も多いようですが、ぼくが高校の頃は、ベースにスポットが当たることなんてまずありませんでした。ほとんど日陰者に等しい存在だったのです。


 「でも今、一番好きな楽器はベースでしょ?」というのもよく訊ねられることです。う~ん、まあ、今はそうかな。ベースの大切さ、面白さも年々分かってきたしね。でもね、憧れの楽器はまた別なんですよ。
 ぼくが憧れる楽器、それはピアノです。
理由その1 ピアノを習ったことがありません。だからよけいに憧れます。
理由その2 エレガントなイメージがある。かつジャズなど弾いてるのを見ると、アーティスティックな感じがしてカッコいい。とってもウラヤマシい。
理由その3 ひとりで好きな曲を弾くことができるから。ピアノで弾いてみたい曲、たくさんあったんですよ。「レット・イット・ビー」とか、「いとしのレイラ」の後半部とか、ビリー・ジョエルやエルトン・ジョンなどの弾き語り系の曲とか。ひとりでベースを弾いてみてもボンボンいうだけで、何弾いてるんだか自分でも分からなくなるし、面白くもなんともないもんね。
理由その4 モテそう。バラードなんかを弾いてるピアニストに向けられた客席の美女の目が←こうなっているのを何度見たことか・・・。


 幼稚園の時、オルガン教室に通ってたことがあります。正確に言うと、「入れられた」んですが。でも、同じ町内のガキ共から「オンナみたい」(女の人ゴメンナサイ。でも男の子ってアホだからすぐそういうことを言うんですよ)と言われそうなのがイヤで、一日で脱走しました。今ではとても悔やんでいます。
 中学3年の時、どうしても「レット・イット・ビー」を弾いてみたくて、当時の音楽の先生に簡単にアレンジして貰いました。それからは、家にあったエレクトーン(姉が習っていた)をひんぱんに触るようになりました。少しでも弾けるようになると楽しくて面白くて。「青い影」なんかも大好きだったから、オルガンのパートを耳コピーして、自力で弾けるように頑張ったんですよ。
 高校時代はよく学校の音楽室でピアノをイタズラ弾きして遊んでました。
 そのおかげで、コードはひと通り弾けるまでにはなりました。
 そして、ひとり暮らしを始めてから、ようやく念願のピアノを買いました。「コルグ」のエレクトリック・ピアノです。


     
     わが家のエレクトリック・ピアノ。「コルグ」製。


 ライブ・ハウスで、本番中にいきなりピアノを弾かされたことがあります。兵庫県内のあるライブ・ハウスで演奏していた時のこと。当然ぼくはその時ウッド・ベースを弾いていたわけですが。
 突然ピアニストのAさんが、「次の曲、MINAGI君がピアノ・ソロで何か弾いてくれ」。
 なんですと!!!(◎д◎;)
 ピアノを習ったこともない、ろくに指も動かないこのぼくに、ライブ中にピアノを、しかもソロで弾け、と!? ソロッとなら弾けないこともないが・・・(寒)
 ヤバイ・・・(-_-;) というか、あまりにも無謀な命令ではないでしょうか、Aさん。
 しかしここでひるんではいられない。というか、弱気なとこは見せられないではないですか。一瞬のうちに決断し、ピアノに座ります。いや、ピアノに座っちゃいかんな。ピアノの前に座ったんだった。


 「テンポの速い曲は指が動かないからムリ」「スローなバラードにしよう。それならまだ余裕がある」などと頭を巡らせて選んだ曲が、ジャズのスタンダードで、ぼくの大好きな曲でもあり、自分の部屋でもよく弾いていた「イン・ア・センチメンタル・ムード」という曲です。
 テーマをなんとかこなし、アドリブに入ります。もう必死。というか、ヤバけりゃワン・コーラスで終わればいいものを、何を血迷ったか(ぼくには目立ちたがりの性質がある、というのも関係があります。ワハハ)指がそんなに動くわけでもないのに、調子に乗ってツー・コーラス目、スリー・コーラス目と、どんどん突入していったのです。


 もうヤケクソです。(ナゲヤリ、とは違うんですよ)
 しかしこの場合、お客に「なんやねんあれは!」と思われることだけは避けたい。しかしできないものはできない。どうするか。もう開き直りのキレまくりでムチャクチャをして見せるしかないではないですか。もう指さばきなんてもんじゃないです。グーチョキパー、ついでにヒジ撃ちで弾き倒してやりました。もう冷や汗とアブラ汗とコーフンで服はビショビショ。。。
 そのお店のマスターは、いい加減な演奏をすると、すぐに「もうオマエは帰れ!」と激怒することで有名な人なのですが、不思議なことにその時まったくクレームがつかなかったんですよ。


 あとでAさんに、「なんでろくに弾けもしないぼくにピアノを弾かせたんですか?」と訊ねると、「生徒たち(Aさんの生徒さんが数人聴きに来ていた)に、ピアノの腕がなくても、気合だけで何かができるということを見せてやって欲しかったんや」ということでした。「あのマスターに文句つけられずに1曲弾き通したのはスゴイ」とホメても貰いました。もっとも、「もっとブチ切れて欲しかったなァ」とも言われましたけれどね。


 3年ほど前に、中古ですが、アップライトのピアノをとうとう買いました。アコースティック・ピアノ、ずーっと欲しかったんです。今では好きな時に好きなだけピアノを弾いています。弾いていると、やっぱり、「もっとうまくなりたいな~」なんて欲が出るものなんですね。




コメント (12)
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