日暮しの種 

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吹いても飛ばない船村節

2017-02-19 17:15:00 | 編集手帳

2月18日 編集手帳

 

 歌詞をもらい、
まず将棋の駒を並べた。
吹けば飛ぶよな…とある。
息を吹きかけてみた。
「ほんとに飛ぶのか、
 疑いましてね」。
飛んだ。

その実験をした船村徹さんは当時29歳、
まだ新進の作曲家である。
『王将』を作詞したのが詩壇の大御所・西條八十であろうと、
いい加減な表現ならば承服しない。
生涯を通して言葉を何よりも大切にし、
詞に惚(ほ)れて曲を書いた人らしい挿話である。

『別れの一本杉』か『みだれ髪』か、
あるいは『兄弟船』か。
訃報に接し、
唇によみがえる歌は人それぞれだろう。
数々の演歌の名曲を残し、
船村さんが84歳で亡くなった。

『王将』の曲想を得たときの思い出話も忘れがたい。
歌詞を携えて故郷の栃木に帰った。
母親がかまどで飯を炊き、
息子に心尽くしの手料理を用意している。
その後ろ姿を見ていて、
ふと胸に迫るものがあり、
詞の一語を変えてみた。
そのとき、
メロディーが自然と浮かんだという。
〈吹けば飛ぶよな演歌の節に
 賭けた命を笑わば笑え…〉

船村節は吹いても飛ばない。
今夜もどこかの酒場で、
人の世の哀歓をグラスに浮かべては、
誰かを泣かせるだろう。




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巧言令色

2017-02-19 07:15:00 | 編集手帳

2月12日 編集手帳 

 

 言葉巧みに、
人にすり寄ることを「巧言令色」という。
そう捨てたものでもないと、
劇作家の別役(べつやく)実(みのる)さんが随筆に書いている。

〈新幹線で三時間、
 東京から大阪まで隣り合って座ることになるとすれば、
 「剛毅(ごうき)木訥(ぼくとつ)」よりは「巧言令色」の方が気詰まりでない〉
 (『左見右見(とみこうみ)四字熟語』)。
ましてや日米同盟という名の列車に隣り合って座るのは、
激情に駆られやすい予測不能の人である。
そういう相手に「剛毅木訥」で接しては危ない。

安倍首相はトランプ大統領との会談で、
尖閣諸島の防衛義務を果たす確約を米国から取り付けた。
相手が機嫌を損ねそうな国境管理の話題には言及していない。

政治の要諦は、
“不快”と“悲惨”のどちらを選ぶか、
その選択にあるといわれる。
日米同盟が揺らいで東アジアの平和が崩れる“悲惨”に比べれば、
やれ巧言令色だ、
おもねり外交だ、
との批判を受けることの“不快”などは何ほどのこともない。

腹を割って話せる間柄になれば、
列車の隣で夢見心地のその人を揺り起こし、
「あなたの寝言には、
 みんなほとほと迷惑してますよ」。
いつか穏やかに諭せる日も来よう。

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