1月28日 編集手帳
作家の里見弴(とん)が友人の志賀直哉宅に遊びにいく約束をした。
その当日、
徹夜仕事で疲れ、
すっぽかしてしまう。
志賀から手紙が来た。
〈汝(なんじ)、
穢(けがらわ)しき者よ〉。
絶交状態が8年間つづく。
どっちもどっちだろう。
自分に非があると感じているときは、
かえって意固地になって言葉が出てこない。
「ごめん」のひと言は、
むずかしいものである。
日本一短い手紙のコンクール、
今年の「一筆啓上賞」が決まった。
大賞の一編『ママへ』の作者は千葉県の小学2年生、
佐藤蓮(れん)君(8)である。
〈「ごめん」って
ぼくの口はあかないんだ
口に力が入って。
手に力を入れて書くよ。
ごめん〉
わが子を詠んだ加藤楸邨(しゅうそん)の句が浮かぶ。
〈汗の子のつひに詫(わ)びざりし眉(まゆ)太く〉。
手紙の蓮君もそうだが、
「ごめん」がなかなか言えない子というのは向こう意気が強そうで、
ちょっとかわいい。
子供に限った話である。
詫びて前言を取り消せば済むものを、
「ごめん」の言えない人が世界を揺るがせている。
一句をもじれば、
「壁のことつひに詫びざりしまァ不徳」だろう。
文豪にならって向こう8年間、
絶交する…わけにもいかぬ。