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インドネシア 失われる多宗教への寛容性

2017-02-13 07:15:00 | 報道/ニュース

1月25日 キャッチ!


インドネシアは人口約2億5,000万人。
東南アジア最大の国だが
その国民の90%はイスラム教徒で
世界で最も多くのイスラム教徒が暮らす国である。
ただ建国の理念として
“文化の多様性”を重んじており
宗教に関しても
イスラム教 キリスト教 ヒンズー教 仏教 4つの宗教それぞれに平等な権利が絶えられている。
こうした“多様性の中の統一”を合言葉に発展してきたインドネシアだが
去年以降 宗教間の対立が鮮明になっている。

1月5日にインドネシアのジャカルタで
さまざまな宗教の代表が集まり
宗教間の対立について話し合うシンポジウムが開かれた。
地方に伝わる固有の宗教を信仰する男性からは
自分たちにとって神聖な儀式であるし死者の土葬が
他の宗教を信仰する周辺住民から拒否された実体験が語られ
インドネシアで高まる異なる宗教への不寛容に強い懸念が示された。
(NPO代表 シンポジウム主催者)
「この問題は政府だけで解決できません。
 あらゆる関係者が知恵を出し合うべきです。」
異なる宗教への不寛容はインドネシアでは社会問題になっている。
去年 キリスト教徒であるジャカルタのバスキ知事が
演説の中でイスラム教徒を侮辱したとして
イスラム強硬派の複数の団体が大規模なデモを行い
一部の参加者が暴徒化する事態になった。
その後 バスキ知事は宗教冒とくの罪で起訴され
無罪を主張する裁判は今も続いている。
キリスト教とイスラム教の互いの宗教に対する不寛容は去年の年末にも際立った。
ジャカルタでは毎年クリスマスの時期になると店員はサンタの格好で接客。
街はクリスマスムードに包まれていた。
しかしインドネシアのイスラム教を統括するMUI(インドネシア イスラム聖職者評議会)が
国内のイスラム教徒に対して
サンタクロースの帽子などクリスマスに関連する衣装を身につけることを禁じたのである。
(MUI マルフ・アミン議長)
「ショッピングモールやホテルで
 イスラム教徒の従業員が無理やりサンタの格好をさせられている。」
宗教見解には法的拘束力はないものの
インドネシア第2の都市スラバヤでは
イスラム強硬派のグループがショッピングモールに押しかけて
店員にサンタの帽子を脱ぐよう求める騒ぎも発生。
ジャカルタのショッピングモールでもサンタの格好をする店員の姿が激減した。
宗教見解に対し市民の多くは戸惑いを感じている。
(市民)
「サンタの格好をしても信仰心を乱すとは思えないわ。」
「クリスマスの時期はキリスト教徒を尊重すべきだよ。」
イスラム強硬派による他の宗教への圧力は各地で高まっている。
ジャカルタから140キロほど離れたバンドン。
去年の年末
地元の大学で学生ら1800人が参加するクリスマスの礼拝が
市や警察の許可のもと行われていた。
礼拝を企画したテオ・タンブナンさん。
タンブナンさんはその時の様子をこう振り返る。
(礼拝企画者 テオ・タンブナンさん)
「彼らは突然入ってきて
 『礼拝はやめろ!神は偉大なり』と叫びました。」
海上に突然現れたのはイスラム強硬派のメンバーである。
「礼拝は教会で行うべきで公共の施設で行うことは許さない」と一方的に主張。 
混乱を避けるためタンブナンさんたちは礼拝の中止に追い込まれたのである。
(礼拝企画者 テオ・タンブナンさん)
「クリスマス礼拝は5回目ですが
 こんなことは始めておきました。」
タンブナンさんはインドネシアが変わりつつあることに不安を抱いている。
(テオ・タンブナンさん)
「不寛容が多くの問題を生んでいます。
 インドネシアの人々は互いの違いを乗り越え共存すべきです。」

国の人権委員会によると
去年1年間にインドネシア国内で信仰の自由を侵害されたとして
委員会に寄せられた報告は97件となっている。
これは74件だった2014年と比べて30%余増えている。
キリスト教の教会が閉鎖に追い込まれるなどのケースの他
7月にはスマトラ島北部で
モスクから流れるお祈りを呼び掛ける音が大きすぎると抗議した仏教徒の女性が
周辺住民の怒りを買い
暴徒化した住民によって寺院などの仏教施設が破壊される被害も発生している。
背景の1つには
多数派であるイスラム教徒が少数派に自分たちの地位を脅かされることへの警戒心がある。
インドネシアのジョコ大統領がジャカルタの知事時代に大統領に当選したように
ジャカルタの知事は政治的に非常に重要な存在である。
イスラム強硬派にとっては
キリスト教徒でさらに中国系のバスキ知事が
政治的に勢力を拡大することはどうしても阻止したい狙いがある。
2つ目は経済的な要因である。
年末の町がクリスマスムード1色に染まり
ジャカルタではイスラム教の戒律で禁止されているお酒が気軽に手に入るようになるなど
イスラムの価値観とは異なるビジネスが成功を収めている。
イスラム強硬派はそうした社会の傾向を
“社会の堕落”として否定したいと考えている。
インドネシア政府は
“宗教や民族の分断が深まればインドネシアという国家が成り立たなくなる”
という強い警戒感を持っている。
ジョコ大統領は去年の大規模デモの後
多様性を認め合うことの重要性を国民に向けて繰り返し強調。
イスラム団体との会談を行うなど
混乱を防ぐ対策に追われている。
インドネシアは安定した政治・社会のもと
日本など海外からの投資を呼び込み成長を続けてきた。
寛容さを失い
宗教等をめぐる対立が衝突などに発展すれば
海外からの投資も冷え込む。
インドネシアにとって国の行方を左右する重大な問題なだけに
ジョコ政権の対応にこれからの世界の目が注がれることになる。


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