*今回は、高橋洋一氏をヨイショするのではなくて、結局、その論に対して異議を唱えることになってしまいました。当初の予定では、その論を尊重すべきものとして紹介するつもりだったのですが、それを丹念に検討するに従って、意に反し、論駁するに至ってしまったのです。だから、はじめのところでは、「これから高橋氏をホメるよ」という雰囲気を醸し出しているのにもかかわらず、途中からイチャモンをつけはじめ、結局は、ちゃぶ台をひっくり返し、ホメるはずの高橋氏にけたぐりを仕掛けるような行儀の悪いことをしてしまっています。それほどに、実質賃金低下問題は、物議をかもしやすい難題なのでしょう。タイトルを変えようかとも思いましたが、そのタイトルを裏切るような論の展開にならざるをえないほどに、当問題はやっかいであることを確認する意味で、そのままにしておくことにしました。
***
実質賃金の低下傾向が止まりません。厚労省が六月三日に発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、四月の現金給与総額(事業所規模5人以上)は一人平均で27万4761円となりました。 前年比では0.9%増と二カ月連続で増加し、二〇一二年三月(同0.9%増)以来の高い伸びを記録しました。しかし、物価の変動を考慮した実質賃金は前年比3.1%減と二〇〇九年十二月(同4.3%減)以来の大幅なマイナスとなりました。四月からの消費税率引き上げが原因とされています。その結果、実質賃金マイナスは10カ月連続となっています。
それをふまえて、かねてからのアンチ量的緩和論者がここぞとばかりに、「アベノミクスは失敗だ」と激しく批判しています。また、デフレ状況下におけるアベノミクスの画期性には一定の評価を与えつつも、近時におけるその新自由主義的な側面の露呈に対して批判的な陣営からも、同様の批判が惹起しています。
では、実質賃金低下に関して、われわれ一般人は本当のところどう考えれば良いのでしょうか。私見によれば、当問題についてリフレ派の立場から終始一貫した言説を展開している高橋洋一氏の発言は貴重であると思われます。以下、それを紹介いたしましょう。というのは、こういう混沌とした状況においては、経済に関して、世界水準のコモンセンスに裏付けられた、論理的な意味での一貫性のある言説を展開している存在こそが貴重だと思われるからです。とはいうものの、紫色の髪の毛をした老魔女のようなおばさんとか、超整理法のいつも目を三角にしたじいさんとかの発言上の一貫性は、尊重いたしませんけれど。端的にいえば、彼らは“円高バイザイ”と言い放つ段階でアウト、ということです。論外。それに文句のある方は(実はけっこういるような気がします)、コメント欄でご発言ください。こちらの勉強にもなるので、できうるかぎり、(真摯でマトモな議論ならば)お付き合いいたします。
高橋氏によれば、ゼロ金利であっても、金融政策としての量的緩和(quantative easing)は、経済状況を改善し、雇用を創出します。
そのロジックは、以下のとおりです。量的緩和によって予想インフレ率が高まります。その結果、実質金利(=名目金利-予想インフレ率)が下がり、財政出動との相乗効果で消費・投資等の有効需要が創出されて、実質国内総生産(GDP)が増加し、同時に雇用が作り出される、というのがそのロジックです。消費者からすれば、予想インフレ率が上がると、お金を手元に置いておくとその価値が目減りするという判断に誘導されるので、早く使ったほうが得ということです。それは、企業からすれば、消費者の購買力がアップしたことを意味しますから、投資行動を促されることになります。事態はもっと複雑なのですが、それを単純化すれば、そういうことになります。
アベノミクスにおける「異次元緩和」の断行によって、みなさまご存知のように、事態はほぼロジック通りに進行しました。すなわち、(前回に述べたように)予想インフレ率は0.5%程度から2.5%程度へと約2%程度も高まったことで、実質金利はマイナス0.5%程度からマイナス2.5%程度と2%程度も低下しました。そのため実質GDPが増加し、就業者数が増えています。具体的に言えば、平成二五年は、実質GDPが前年度比2.3%増加し(名目は1.9%増)、就業者数は前年より四〇万人強増えています(ただし、GDPデフレーターはマイナス0.4%で、デフレからの脱却が実現したとは言い切れない状態です)。
このまま景気回復基調が続くならば、資金需要が本格的に高まってきます。すると、名目金利が上がることによって、実質金利も徐々に上がり、高橋氏の予想では、三年もすれば2%程度になるとのことです。数字の妥当性はとにかくとして、いずれ上がることは間違いないでしょう。
このように、実質金利が短期的に下がることは、デフレ脱却および景気回復のために必要な通過点なのです。
高橋氏によれば、実質賃金も似たような経路をたどります。というのは、生産手段のうち設備への投資には実質金利が、労働力の雇用には実質賃金が対応するからです。
(正直に言えば、ここはあまり納得できないところです。というのは、実質賃金の低下傾向は、いまにはじまったことではなくて、少なくともバブル崩壊以降の過去二〇数年間の長期的趨勢だからです。つまり、実質賃金の低下傾向は、短期的な金融緩和が原因というよりも、長期円高傾向下において経済のグローバル化が必然的に求める企業の国際競争力強化のための主たる方策と考えるほうが妥当なのではないでしょうか。それをデフレが加速した、と)
高橋氏の議論に戻りましょう。彼によれば、実質賃金が低下するからこそ、就業者数が増加します。
(ここも変です。ミクロレベルの個々の企業ではそういうことが言える場合もあるでしょうが、いまはマクロの議論をしているのですから、有効需要が創出されるからこそ、企業は新たに雇用しようとする、とすべきでしょう。そのためには、量的緩和のみならず、政府による財政出動も必要とされます。高橋氏は、量的緩和と賃金低下とを強引に結びつけようとするから、ミクロとマクロの話がごっちゃになってしまったのでしょう。彼らしくもありません)
ちょっと雲行きが怪しくなってきましたが、論を進めましょう。
この一年で実質GDPが増加しているが、雇用者に支払われた報酬の総額について物価の影響を考慮した実質雇用者報酬も、安倍政権が本格始動する前の二〇一二年十月~十二月と比較して増加している。実質雇用者報酬は、実質賃金と就業者数を掛け合わせたものであるから、経済全体としてみれば、実質賃金の低下は、就業者数の増加によって補われている形だ。このため今の時点で見ても、まったく問題はない。
困ってしまいました。カッコ抜きで反論するより仕方がなくなってきました。実質雇用者報酬は、高橋氏の主張に反して、実は増えていないのです。二〇一三年七月~九月期以降、むしろ減少に転じてさえいて、消費増税による物価高の影響で、二〇一四年以降は、その傾向がはなはだしくなることが確実なのです。
http://www.murc.jp/thinktank/rc/column/kataoka_column/kataoka140516.pdf 図3参照
それは、(高橋氏の主張に反して)就業者数の増加によって補いきれないほどに実質賃金の低下がはなはだしくなっていることを意味します。その傾向が、消費増税実施後の四月以降強まることが確実なのですから、「今の時点で見ても、まったく問題はない」とはどうやら言えないようですね。むしろ、非常に困ったことになりかねないのです。高橋氏は、先の引用に続けて、
実質賃金の低下を問題視する人は、新たに就業者が増えていることをどう思っているのだろうか。実質賃金が低下したといっても、統計上の話にすぎない。新たに就業者になった人の賃金が低いため、平均で見た実質賃金が下がったのであり、これまで就業者であった人の賃金が下げられているわけではない。
と言っていますが、残念ながら、ここにも無理があると言わざるをえません。というのは、消費増税実施の四月の物価上昇率3.2%は、新たに就業者になった人々のみならず、これまで就業者だった人々の実質賃金も確実に下げるからです。「就業者であった人の賃金が下げられているわけではない」などと楽観的なことを言っていられる場合ではないのです。エネルギー価格の上昇と相まって、残念ながら、その傾向はこれからも当分続くものと思われます。それは、家計の購買力の低下、すなわち有効需要の低下を招きます。そうなると、私たちは、せっかくデフレ傾向から上向きかけた日本経済がふたたびデフレの泥沼に深く身を沈める悪夢を見ることになるのかもしれません。もしも今後消費増税10%が決定されたら、その趨勢は決定的となることでしょう。
そう考えると、高橋氏のように、量的緩和さえ実行し続ければ、「これから賃金の上昇圧力が高まっていくに違いない」とか「今春闘ではベースアップを実施する企業が増えたが、それが中小企業にまで広がっていくだろう」などと楽観的な見通しを立てるわけにはいかない気がします。
こうやって論を進めてみると、消費増税がどれほどの失策であったのかが、炙りだされてきますね。安倍政権も、おそらくそのことに気づいているからなのでしょう、いまは成長戦略を次から次に打ち出して、海外投資家を喜ばせ、株価を上げることに躍起になっています。株価を釣り上げることで、消費増税という失策をカモフラージュしようとしているのではないでしょうか(さらには、カモフラージュしついでに、消費増税10%も決めてしまおうとしているような感触があります。マスコミはマスコミで、財務省の意を汲んで、消費増税10%があたかも既定路線であるかのようにバカ報道を垂れ流し続けています。日銀黒田総裁の消費増税関連の発言も、財務省の意向を援護射撃するものになっていて生臭いですね)。
しかし、いくら株価が上がっても、資産効果とかは一定程度見込まれるものの、それがダイレクトに実体経済の活況につながるわけではありません。そうして、われわれ一般国民のほとんどは、実体経済のなかでつつましく命をつないでいるのです。それが現実です。ゆめゆめ安倍政権のカモフラージュに幻惑されないようにしましょう。
さしあたり、消費増税10%は絶対に回避すること、次に、円安基調は堅持すること、そのために量的緩和を実行し続けること、金融政策に関する日本政府の不退転の決意を内外にアナウンスするためにも日銀法を改正すること、実体経済の活性化のためにあらためて大胆な精査された公共投資を実施すること、安易なグローバル化は慎むこと(TPP参加を見合わせること)、移民政策の推進をやめること、内需立国に資するような規制緩和だけを実行すること、成長戦略の一環としての成果賃金制度という名の奴隷労働放任制度を阻止すること。以上が、実質賃金の低下に歯止めをかけるために最低限必要とされる措置であると、私は考えています。このように、経済的な現象は、どこまでも政治的意思決定と深く絡まり合っているものなのです。もとより量的緩和が必要であることは認めますが、それだけで実質賃金の低下傾向が収まるとは、ちょっと考えにくい状況であると思います。
参考 高橋洋一『「日本」の解き方』(夕刊フジ六月十四日掲載)
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実質賃金の低下傾向が止まりません。厚労省が六月三日に発表した毎月勤労統計調査(速報)によると、四月の現金給与総額(事業所規模5人以上)は一人平均で27万4761円となりました。 前年比では0.9%増と二カ月連続で増加し、二〇一二年三月(同0.9%増)以来の高い伸びを記録しました。しかし、物価の変動を考慮した実質賃金は前年比3.1%減と二〇〇九年十二月(同4.3%減)以来の大幅なマイナスとなりました。四月からの消費税率引き上げが原因とされています。その結果、実質賃金マイナスは10カ月連続となっています。
それをふまえて、かねてからのアンチ量的緩和論者がここぞとばかりに、「アベノミクスは失敗だ」と激しく批判しています。また、デフレ状況下におけるアベノミクスの画期性には一定の評価を与えつつも、近時におけるその新自由主義的な側面の露呈に対して批判的な陣営からも、同様の批判が惹起しています。
では、実質賃金低下に関して、われわれ一般人は本当のところどう考えれば良いのでしょうか。私見によれば、当問題についてリフレ派の立場から終始一貫した言説を展開している高橋洋一氏の発言は貴重であると思われます。以下、それを紹介いたしましょう。というのは、こういう混沌とした状況においては、経済に関して、世界水準のコモンセンスに裏付けられた、論理的な意味での一貫性のある言説を展開している存在こそが貴重だと思われるからです。とはいうものの、紫色の髪の毛をした老魔女のようなおばさんとか、超整理法のいつも目を三角にしたじいさんとかの発言上の一貫性は、尊重いたしませんけれど。端的にいえば、彼らは“円高バイザイ”と言い放つ段階でアウト、ということです。論外。それに文句のある方は(実はけっこういるような気がします)、コメント欄でご発言ください。こちらの勉強にもなるので、できうるかぎり、(真摯でマトモな議論ならば)お付き合いいたします。
高橋氏によれば、ゼロ金利であっても、金融政策としての量的緩和(quantative easing)は、経済状況を改善し、雇用を創出します。
そのロジックは、以下のとおりです。量的緩和によって予想インフレ率が高まります。その結果、実質金利(=名目金利-予想インフレ率)が下がり、財政出動との相乗効果で消費・投資等の有効需要が創出されて、実質国内総生産(GDP)が増加し、同時に雇用が作り出される、というのがそのロジックです。消費者からすれば、予想インフレ率が上がると、お金を手元に置いておくとその価値が目減りするという判断に誘導されるので、早く使ったほうが得ということです。それは、企業からすれば、消費者の購買力がアップしたことを意味しますから、投資行動を促されることになります。事態はもっと複雑なのですが、それを単純化すれば、そういうことになります。
アベノミクスにおける「異次元緩和」の断行によって、みなさまご存知のように、事態はほぼロジック通りに進行しました。すなわち、(前回に述べたように)予想インフレ率は0.5%程度から2.5%程度へと約2%程度も高まったことで、実質金利はマイナス0.5%程度からマイナス2.5%程度と2%程度も低下しました。そのため実質GDPが増加し、就業者数が増えています。具体的に言えば、平成二五年は、実質GDPが前年度比2.3%増加し(名目は1.9%増)、就業者数は前年より四〇万人強増えています(ただし、GDPデフレーターはマイナス0.4%で、デフレからの脱却が実現したとは言い切れない状態です)。
このまま景気回復基調が続くならば、資金需要が本格的に高まってきます。すると、名目金利が上がることによって、実質金利も徐々に上がり、高橋氏の予想では、三年もすれば2%程度になるとのことです。数字の妥当性はとにかくとして、いずれ上がることは間違いないでしょう。
このように、実質金利が短期的に下がることは、デフレ脱却および景気回復のために必要な通過点なのです。
高橋氏によれば、実質賃金も似たような経路をたどります。というのは、生産手段のうち設備への投資には実質金利が、労働力の雇用には実質賃金が対応するからです。
(正直に言えば、ここはあまり納得できないところです。というのは、実質賃金の低下傾向は、いまにはじまったことではなくて、少なくともバブル崩壊以降の過去二〇数年間の長期的趨勢だからです。つまり、実質賃金の低下傾向は、短期的な金融緩和が原因というよりも、長期円高傾向下において経済のグローバル化が必然的に求める企業の国際競争力強化のための主たる方策と考えるほうが妥当なのではないでしょうか。それをデフレが加速した、と)
高橋氏の議論に戻りましょう。彼によれば、実質賃金が低下するからこそ、就業者数が増加します。
(ここも変です。ミクロレベルの個々の企業ではそういうことが言える場合もあるでしょうが、いまはマクロの議論をしているのですから、有効需要が創出されるからこそ、企業は新たに雇用しようとする、とすべきでしょう。そのためには、量的緩和のみならず、政府による財政出動も必要とされます。高橋氏は、量的緩和と賃金低下とを強引に結びつけようとするから、ミクロとマクロの話がごっちゃになってしまったのでしょう。彼らしくもありません)
ちょっと雲行きが怪しくなってきましたが、論を進めましょう。
この一年で実質GDPが増加しているが、雇用者に支払われた報酬の総額について物価の影響を考慮した実質雇用者報酬も、安倍政権が本格始動する前の二〇一二年十月~十二月と比較して増加している。実質雇用者報酬は、実質賃金と就業者数を掛け合わせたものであるから、経済全体としてみれば、実質賃金の低下は、就業者数の増加によって補われている形だ。このため今の時点で見ても、まったく問題はない。
困ってしまいました。カッコ抜きで反論するより仕方がなくなってきました。実質雇用者報酬は、高橋氏の主張に反して、実は増えていないのです。二〇一三年七月~九月期以降、むしろ減少に転じてさえいて、消費増税による物価高の影響で、二〇一四年以降は、その傾向がはなはだしくなることが確実なのです。
http://www.murc.jp/thinktank/rc/column/kataoka_column/kataoka140516.pdf 図3参照
それは、(高橋氏の主張に反して)就業者数の増加によって補いきれないほどに実質賃金の低下がはなはだしくなっていることを意味します。その傾向が、消費増税実施後の四月以降強まることが確実なのですから、「今の時点で見ても、まったく問題はない」とはどうやら言えないようですね。むしろ、非常に困ったことになりかねないのです。高橋氏は、先の引用に続けて、
実質賃金の低下を問題視する人は、新たに就業者が増えていることをどう思っているのだろうか。実質賃金が低下したといっても、統計上の話にすぎない。新たに就業者になった人の賃金が低いため、平均で見た実質賃金が下がったのであり、これまで就業者であった人の賃金が下げられているわけではない。
と言っていますが、残念ながら、ここにも無理があると言わざるをえません。というのは、消費増税実施の四月の物価上昇率3.2%は、新たに就業者になった人々のみならず、これまで就業者だった人々の実質賃金も確実に下げるからです。「就業者であった人の賃金が下げられているわけではない」などと楽観的なことを言っていられる場合ではないのです。エネルギー価格の上昇と相まって、残念ながら、その傾向はこれからも当分続くものと思われます。それは、家計の購買力の低下、すなわち有効需要の低下を招きます。そうなると、私たちは、せっかくデフレ傾向から上向きかけた日本経済がふたたびデフレの泥沼に深く身を沈める悪夢を見ることになるのかもしれません。もしも今後消費増税10%が決定されたら、その趨勢は決定的となることでしょう。
そう考えると、高橋氏のように、量的緩和さえ実行し続ければ、「これから賃金の上昇圧力が高まっていくに違いない」とか「今春闘ではベースアップを実施する企業が増えたが、それが中小企業にまで広がっていくだろう」などと楽観的な見通しを立てるわけにはいかない気がします。
こうやって論を進めてみると、消費増税がどれほどの失策であったのかが、炙りだされてきますね。安倍政権も、おそらくそのことに気づいているからなのでしょう、いまは成長戦略を次から次に打ち出して、海外投資家を喜ばせ、株価を上げることに躍起になっています。株価を釣り上げることで、消費増税という失策をカモフラージュしようとしているのではないでしょうか(さらには、カモフラージュしついでに、消費増税10%も決めてしまおうとしているような感触があります。マスコミはマスコミで、財務省の意を汲んで、消費増税10%があたかも既定路線であるかのようにバカ報道を垂れ流し続けています。日銀黒田総裁の消費増税関連の発言も、財務省の意向を援護射撃するものになっていて生臭いですね)。
しかし、いくら株価が上がっても、資産効果とかは一定程度見込まれるものの、それがダイレクトに実体経済の活況につながるわけではありません。そうして、われわれ一般国民のほとんどは、実体経済のなかでつつましく命をつないでいるのです。それが現実です。ゆめゆめ安倍政権のカモフラージュに幻惑されないようにしましょう。
さしあたり、消費増税10%は絶対に回避すること、次に、円安基調は堅持すること、そのために量的緩和を実行し続けること、金融政策に関する日本政府の不退転の決意を内外にアナウンスするためにも日銀法を改正すること、実体経済の活性化のためにあらためて大胆な精査された公共投資を実施すること、安易なグローバル化は慎むこと(TPP参加を見合わせること)、移民政策の推進をやめること、内需立国に資するような規制緩和だけを実行すること、成長戦略の一環としての成果賃金制度という名の奴隷労働放任制度を阻止すること。以上が、実質賃金の低下に歯止めをかけるために最低限必要とされる措置であると、私は考えています。このように、経済的な現象は、どこまでも政治的意思決定と深く絡まり合っているものなのです。もとより量的緩和が必要であることは認めますが、それだけで実質賃金の低下傾向が収まるとは、ちょっと考えにくい状況であると思います。
参考 高橋洋一『「日本」の解き方』(夕刊フジ六月十四日掲載)