美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

ブリテッシュ・フォークの名曲(その4)Steelye Span 「The Blacksmith」二つのヴァージョン

2014年08月17日 01時41分33秒 | 音楽


みなさまからソッポを向かれるのではないかと危惧しつつ、おそるおそる始めてみた当シリーズだったのですが、おかげさまで、思ってもみなかったほどの閲覧数をいただいているようで、心から嬉しく思っております。世間から忘れ去られていくよりほかにない運命にある佳曲を、ひとつひとつ丁寧にみなさまに紹介できるブログの有り難みをしみじみと感じます。

今回ご紹介するのは、スティーライ・スパンの代表曲「The Blacksmith」の二つのヴァージョンです。

一つ目は、彼らのデヴューアルバム『Hark! The Village Wait』(1970)収録の初出ヴァージョンです。できうるならば、「前口上の歌」とともに聴いていただきたいと思います。というのは、それがあるのとないのとでは、同曲の輝き具合が変わってくるからです。

同曲を聴いていただく前に、スティーライ・スパンのデヴュー・アルバムができるまでの経緯について、説明しておこうと思います。というのは、その経緯が、私というひとりのブリティッシュ・フォーク・ファンの好事家的な興味を超えた、貴重な歴史的事実を提示したものになっていると思うからです。無理強いするわけではありませんから、そういうことに興味のない方は、すっ飛ばしていただいて結構です。

フェアポート・コンベンションのベーシストとして『Liege & Lief』(1969)という記念碑的なアルバムを作ったばかりのアシュレー・ハッチングスは、キール・フォーク・フェスティバルの会場で、「トラディショナル音楽における電気楽器使用の可能性」というテーマの討論会を催しました。そこに、ボブ&キャロル・ペグ(その後トラッド・バンド、Mr. FOXを結成)等とともにティム・ハート&マディ・プライアが参加しました。いまから考えれば、どうしてそんなことが議論のテーマになるのか不思議な気がするのですが、その数年前にアメリカのボブ・ディランが生ギターをエレキ・ギターに持ちかえたところ、聴衆から猛反発を喰らった事実を考えれば、ちょっと分かる気がします。ブリティッシュ・フォークの電気音楽化の最前線に位置するアシュレ-は、そういう反発を回避するために彼なりに周到に振舞おうとしたのでしょうね。フォーク・ソングは、それをシリアスに支持する人々にとって、アンチ・コマーシャリズムの牙城のような存在だったので、それに電気楽器を導入するのは、コマーシャリズムの安易な受け入れ・堕落と受け取られかねないリスクが常に存在したのです。

それはともかくとして、その討論会をきっかけに、アシュレーは、ティム・ハート&マディ・プライアとバンドを組むことになりました。さらに、アシュレーと交流のあった、アイルランドのスィニーズ・メンのメンバーのテリー&ゲイ・ウッズが加わり、それにゲストとしてフェアポート・コンベンションのドラマーのデイヴ・マタックスとフォザリンゲイのドラマーのゲリー・コンウェイの二人も加わって、スティーライ・スパンとしてのデヴュー・アルバム『Hark! The Village Wait』が誕生します。

ちなみに、スイニーズ・メンのほかのメンバーだったジョニー・モイニハンとアンディ・アーヴィングは、ソロ活動の後にプランク・シティやディ・ダナンを結成し、アイリッシュ・トラッドの中心的な存在になります。

では、お聴きください。「前口上の歌」は0:00~1:13、「The Blacksmith」はそれに続いて4:53までです。

Steeleye Span_ Hark! the village wait 1970 (full album)



A CALLING-ON SONG

Good people pray heed our petition
(善男善女のみなさま、われらが願いをお気にとめてくださいませ)
Your attention we beg and we crave
(お気にとめてくださることを伏してお願い奉ります)
And if you are inclined for to listen
(そうして、もしも耳を傾けてくださるならば)
An abundance of pastime we'll have.
(みなさまの気晴らしになることをたくさん提供いたします)
We are come to relate many stories
(われらが語るは、たくさんの物語)
Concerning our forefathers' times
(われらが父祖の時代の出来事)
And we trust they will drive out your worries
(みなさまの憂さを晴らすこと、間違いなし)
Of this we are all in one mind
(一同の者皆心をひとつにして)
Many tales of the poor and the gentry
(貧しき者の、貴族の方々の、)
Of labor and love will arise
(労苦の、愛の、もろもろのお話しを提供いたします)
There are no finer songs in this country
(こんな見事なお話しは、ほかのどこでも聞かれますまい)
In Scotland and Ireland likewise
(スコットランドでも、アイルランドでも)
There's one thing more needing mention
(もう一言だけ、申し上げることをお許しくださいませ)
The dances we've done's all in fun
(踊りの曲を入れたのは、ほんの戯れごと)
So now that you've heard our intention
(さあさあ、こんなところでございます)
We'll play on to the beat of the drum
(太鼓の拍子に合わせて、始めることにいたします)

THE BLACK SMITH
A blacksmith courted me nine months and better
(鍛冶屋は、私を口説きました、九ヶ月以上も)
He fairly won my heart. He wrote me a letter
(彼はもののみごとに私の心を射止めました。そして彼から手紙を受け取りました)
With his hammer in his hand he looked so clever
(手にハンマーを持っていると、彼はとても賢そうに見えました)
*ハンマーは、男性器の隠喩。『古事記』の天の石屋戸の場面に登場する鍛冶屋のアマツマラを連想します。
And if I were with my love,I would live forever.
(もしも愛するあの人と一緒なら、私は永遠に生きることでしょう)

Oh,where has my love gone with his cheeks like roses?
(ああ、薔薇のような頬をした私の恋人は、どこに行ってしまったのかしら)
He's gone across the sea gathering primroses
(彼はサクラソウを集めに、海を越えていきました)
I'm afraid the shining sun might burn and scorch his beauty
(輝く太陽が、彼の美しい体を焼き焦がしてしまうのかしら)
And if I were with my love,I would do my duty.
(もしも恋人と一緒だったら、私は妻の本分をまっとうすることでしょう)


   サクラソウ

Strange news is a-come to town.
(おかしな知らせが町に来ました)
Strange news is a-carried
(おかしな知らせが風の便りに運ばれてきました)
Strange news flies up and down that my love is married
(おかしな知らせが噂されるのです、恋人が結婚したという知らせが)
Oh,I wish them that much joy though they don't hear me
聞いてはくれないでしょうが、ふたりにおめでとうといいたいの)
And if I were with my love,I would do my duty.

Oh,what did you promise me when you lay beside me?
(ああ、そばに寝そべっていたとき、あなたは私に何を約束しましたか)
You said you'd marry me and not deny me
(あなたは言いましたね、「結婚しよう。お前を拒みはしない」と)
If I said I'd marry you it was only to try you
(「もしも俺が結婚すると言ったとしても、お前を試しただけのこと。」)
So bring your witness love,and I'll not deny you.
(「証人を連れてこいよ。そうしたら、お前を拒んだりしないから」)


Ah,witness have I none
(ああ、証人なんていやしない)
Save God almighty
(全能なる神よ、我を救いたまえ)
And may he reward you well for the slighting of me
(私を軽んじたがゆえに、神よ、彼を罰してくださいませ)
Her lips grew pale and white.
(そういう言葉を発した彼女の唇は真っ青になり)
It's made her poor heart tremble
(彼女の哀れな心はわなないた)
For to think she loved one and he proved deceitful.
(愛した男が、自分を欺いたことを考えたがゆえに)

A black smith courted me nine months and better
He fairly won my heart. He wrote me a letter
With his hammer in his hand he looked so clever
And if I were with my love,I would live forever.

二つ目は、彼らのセカンドアルバム『Please to see the King』に収録されているヴァージョンです。ファーストアルバムを出した後、ウッズ夫妻が抜けたのと入れ替えに、ギターのマーチン・カーシーとフィドラーのピーター・ナイトがグループに参加しました。むろん、ゲストのドラマー二人も抜けました。その結果、発信される音に大きな変化が生じました。その変化は、あわあわとした牧歌的な印象の同曲が、なんとも重々しくて壮麗な曲に生まれ変わったことによって、端的に示されています。私の耳に、ファーストアルバムの同曲が、愛らしい佳曲として響くのに対して、セカンドアルバムの同曲は、味わい深い絶品として響きます。みなさまのお耳には、いかように響きますことやら。冒頭から4:45までです。

Steeleye Span_ Please to see the king 1971 (full album)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 高橋洋一VS三橋貴明ヴァージ... | トップ | 萩原葉子『父・萩原朔太郎』... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

音楽」カテゴリの最新記事