何を捨てるか
もしクリントンがアメリカの大統領になったら、女たちの肩書き獲得志向がエスカレートするのではないか。いつからか女から名刺を頂くことが多くなってきた。大学非常勤講師、某誌編集委員、某美術館学芸員、コンサルタント、ディレクター、翻訳業、作詞家などなど、私はただの主婦なので肩書きがない。名刺もない。まことに肩身が狭い。
♦ つり革につかまり重きカバン持つわたしの腕はわたしの履歴
この私の1首を読んだ方から 「もしかしたら雑誌の編集を?」などと聞かれてとまどったことがある。書類や原稿などではなく、外出の帰りには食品を買う、腕は絶えず私に使われているのである。
♦ うしろから背中を押してくれないか午後の光の無数の腕よ
あと2週間で3月、すでに春への序奏が始まっているが、私はまだ冬眠のままでいたい。
♦ 蹴りたいのはわたしの怠惰、なにもせず春のひかりを待ちわびている。
♦ 朝かげの漲るバスのなかに立ち夜の顔しているかもしれぬ
寒暖の差が激しい春のはじめは日々の気分も変わりやすい。こんな時期こそ詠めばいいのに。メモ帳は空白が続く。原稿用紙はその白い窓をかたく閉ざしている。
♦ 目標に遠く離れた位置にいて何を捨てればいいのか風よ
2月17日 松井多絵子
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