✿ ことし咲いた女 ✿
♦ 歳末の光は窓に満ちあふれ去るな平成27年 松井多絵子
あと8日で今年は終わる。明日からの8間に佳いことがなければ今年は私にはいい年ではない。でも今年は去らないで欲しいと願っている人も多いだろう。たとえば伊藤朱里、29歳。
27歳のとき、執筆に専念するために会社をやめた。「30歳までに作家としてデビューできなければ、あきらめよう」と自分に課した期限付きの勝負。背水の陣である。そして29歳の今年5月に✿第31回太宰治賞を受賞。20代最後の年、彼女は今年を引き留めたいだろう。
♦ あの冬のきりりと冷えた夜だった『斜陽』の扉をひらいたときは
受賞作『変わらざる喜び』を伊藤朱里が書いたのは冬だったのではないか。~主人公の女性が、不倫相手に子供が生まれたと知って動揺する場面から小説が始まる。恋人や会社や家族、あらゆる人間関係にとけこめない女性を描いている。事実だとしたら彼女は小説家になる条件に恵まれているのだ。大学を出て就職し、仕事をしながら書いていたが、仕事にも執筆にも力を注いでしまう自分の性格では両立は難しいと考え退職した。
♦ 雨の夜の鏡の奥のわたくしは太宰治のように頬杖
退職して執筆に専念している間は収入がないが、自分の才能を信じ小説を書き続けた。
太宰治賞の賞金は100万円。受賞作など2編を収めた『名前も呼べない』が筑摩書房から11月に刊行された。「本1冊出したくらいでは、まだ作家とは言えないと思っています。でも、リングには上った」という伊藤朱里。リングに上がれないまま消えてゆく作家が多いのだ。
12月23日 松井多絵子
俳句情報 新刊句集
✿ 長浜勤第2句集 『車座』 本阿弥書店・本体2800円
車座の老人月へゆくやうな
✿ 大山雅由遺句集 『獏枕』 KADOKAWA・本体2700円
狂気なき青春なんぞ石叩
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます