・・・・ ほっとここ ・・・
10月21日「あるきだす言葉たち」は紀本直美の15句である。タイトルは「ほっとここ」。
♠ 小説の書き出しのような赤とんぼ
秋に多い「赤とんぼ」をわたしは今年も見ていない。何年も何十年も見ていない。
「夕焼け小焼けの赤とんぼ」という童謡を口ずさみながら赤とんぼの飛んでいない秋の夕焼けを見る。何か物足りない夕焼け。紀本直美は赤とんぼを小説の書き出しのように見る。
♠ 表情がないと言われてとんぼつり
「とんぼ」は蜻蛉と詠まれることが多いがまるで違う昆虫になってしまう。「とんぼ」は「とんぼ」がよく似合ってる。「とんぼつり」とは1匹のとんぼを糸につけて飛ばし他のとんぼを誘い寄せて捕える遊び。遊ぶ人の表情が度々変わる。名句の「とんぼつり今日はどこまで行ったらやら」を想い、彼方の夕空をながめる紀本直美のまなざじは魅力的だろう。
♠ 好きなのか確認したくなる夜長
秋は暮れやすく夜が長い。つい人の気持ちをあれこれ探ってしまう。確かめたいのは彼の気持ちか、本当にわたしが好きなのか、わたしは本当に彼が好きなのか。秋風の音。
♠ ホットココア紙コップでは飲まないで
あたたかいココアはゆっくり飲みたい。陶器のカップで飲みながら詠む。ココアを飲み終えてもカップは温かい。ココアはオランダなどの異国をおもわせる。空になったカップの残された温かさを楽しむひととき、紀本直美のあたりには詩が漂っているであろう。
紀本直美 1977年、広島生まれ。早稲田大学文学部卒。「船団の会」会員
句集 『さくらさくらミルフィーユ』 (創風社出版)
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短歌情報10月22日 新刊歌集
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鈴木英子歌集 『月光葬』 「殺し」をテーマにした研究会を機に生まれた題。
(角川学芸出版・本体2600円)
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