「半地下」 という歌集
10年前に✿短歌研究新人賞を受賞した嵯峨直樹から、第二歌集をいただいた。上梓したばかりの歌集をワインのボトルを開けるようにひらく。 『半地下』 という歌集名にとまどう。地下は昇殿を許されない官人の総称に使われたらしい歴史を踏まえて自身を例えたのか。あるいは地下はあの世、半地下はこの世とあの世のはざま、なのか。
♠ 日常が猛スピードで過ぎて行く今日は二人は半地下にいる
歌集の半ばにあるこの歌が嵯峨の会心の作なので歌集名にしたのだろうか、あれこれ考えさせられる。 『半地下』 は私には難解な作品が多い。「あとがき」 に岡井隆先生から多大な刺激をうけている。とあり 「なるほど」 と思う。恋人か新妻かわからない妖しい女が頻出してエロスの世界。読む私は日常から遠ざかる。匂う歌がとても多い。嵯峨直樹は嗅覚の鋭い「鼻人間」なのか。
♠ 君は君のイエの匂いの沁みついたレギンスの脚すっと伸ばして
♠ 瓶の底に白い輪残し消えた人、台所にはさかなの匂い
♠ ん?といって顔近づけて来る人のファンデーションの濃密な香
♠ 海からのしめった風が吹いている女の肉の香る真夏日
♠ 関係の甘いうす闇、自らの肉の香りを楽しむように
「匂い」の歌はまだまだある。「香る」の歌もまだある。「臭い」の歌は少しだけある。
♠ 自転車の灯り連なる秋の夜の夕やみ人の臭いは満ちて
嵯峨には台所の魚も 「匂う」 のだ。秋の夕やみの人が彼には 「臭う」 。この歌は生活
感があり私は共感できる。しかし、彼は彼だ。40歳そこそこだ。第三歌集は「中空」?。
嵯峨直樹さま 感想未満ですみません。地上1階にて。
10月11日 松井多絵子
※ 嵯峨直樹第二歌集 2014年9月25日発行 角川学芸出版(1800円+税) ※
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