えくぼ

ごいっしょにおしゃべりしましょう。

歌っている風

2014-08-29 09:04:01 | 歌う

           { 歌っている風 }

 ながく生きていると時には棚から牡丹餅ということもある。でも一つだけ。オイシイことはめったにない。「会心の作をふと思いつくことはない」。とある歌人が言った。「歩けば歌ができるのはかなりキャリアのある歌人ではないか。なかなか歌ができないときは風を吹かせればいいんだよ」と。風は目にみえないが風により動かされている木々や草花は歌える。風のさまざまな音も歌になる。春の風は甘い歌になりがちだが、秋風は身に染みる歌を詠ませてくれる。私の歌集『えくぼ』には風の歌がたくさん収められている。6首を抄出する。

           歌っている風         松井多絵子

 ゆうぐれの風が乗りてはすぐ降りる今日も空き地にある三輪車

 ひと坪の砂漠となりて公園のゆうべの砂場に風紋があり

 滑る子を待つすべり台のスロープの急なる傾斜を微風がすべる

 耳飾りのひとつを失くし右の耳ばかりが風のうたごえを聞く

 だれかが風につれてゆかれたような夜だれかが星になるような夜

 目標に遠く離れた位置にいて何を捨てればいいのか風よ

             ※   ※   ※   ※

 ✿ 漱石情報8月29日

 8月30日より世田谷区 五島美術館  漱石の直筆原稿751枚を展示

  散在していた夏目漱石(1867~1961)の長編小説 「門」 の直筆原稿751枚が揃い所在不明だった4枚も加わった。この4枚の原稿は推敲のあとがよくわかり、全集や文庫本に比べると漢字や読点などに違いもあるなど、漱石研究上も注目されている。 以上。